第12話 禁域ルート:聖域にあるもの
私は銃を手に取り、撫でる。懐かしい手触り。お兄ちゃんと何度もこの引き金を引いたな。
本当はエアでも18歳からしか取れない銃砲免許……でも私は学生選抜に選ばれたから15歳で取ることができて……どうしよ……懐かしい……。
冷たい金属に触れるたび、きゅっと胸は痛んだけど、もう涙は込み上げなかった。
私はきっと戻れない。
でも、戻れないのなら、あっちの世界でできなかった分一生懸命生きて、この世界を変えればいい。
誰がこんなものをここに置いたのか、サキが何者かなんてどうでもいい。
すべては私がこれからどう生きるか。
そうだよ。きっとこれも運命だったんだ。
剣の次に好きだったものが私を強く強くする。
私の味方はここにもいるよ、と。
私は一人じゃないんだよ、と。
でも……困ったな。
「預かったのはこれだけ?」
サキが「ん!」とうなずく。
「私、実弾、ほとんど撃ったことないんだよね……」
「じつだん?なにか足りないの?」
サキが首をかしげる。
「そう」
私は困った気分でそれに応えた。
学生選抜の免許で撃てるのはエアピストルだけ。
それだって普通に狩りに使えるくらい十分な威力はあるけど……でも、実弾とは格段に違う。
音も、衝撃も、威力も。海外研修で何度か撃ったことがあるから私はそれをよく知ってる。
それに……何より、経験が、違う。
私はエアピストルならどんなものでも撃ち抜ける。
でも、実弾は___。
せっかく、切り札を手に入れたと思ったのに。
「姫、それは……?」
銃を持ったまま立ち尽くす私に、おずおずとイルダールが尋ねてくる。
あ、ごめんなさい。意外なことばかりであなたたちのことをすっかり忘れてた。
「これは武器なの。えーと……そうね、弓よりずっと早く相手を撃つの」
「弓……より?そんなただの塊が?」
「持ってみる?」
私はイルダールへと銃を差し出す。
イルダールはほんのわずかだけためらって、すぐに銃を手に取った。
そのとき、無意識なんだろうけど一瞬一歩引いてしまったアルビンと、騎士団長っていう責任を背負ってきたこの人はやっぱり違うんだな、と思う。
「持つだけよ。どこも動かさないでね」
「は、はい。……見た目より、重いですな」
「鉄の塊だから。剣を小さく固めたようなものよ」
「これが弓より早く……?」
「そう。それに弓より強い。見てみる?……って言ってもこの辺じゃ撃てる場所がないか……ここじゃ跳弾しちゃうし、外じゃ目立っちゃうもんね……」
イルダールの手から銃を取り返し、私はため息をついた。
さっきまでの高揚した気分がしゅんと消えていく気がした。
それに、たった一丁の銃、たった一箱の銃弾で、私は何をするつもりだったんだろう____。
この世界で銃を作らせる?
私にも仕組みなんてわからないのに?
そのとき、サキが私の袖をくん、と引いた。
「エーレン、困ってる?」
見上げる瞳に私はためらいなく答える。
「大丈夫。困ってないわよ」
嘘。
でも私が崩れたらみんなが崩れちゃう。
あの赤い薔薇を枯らすためには、私はいつも凛としていなくちゃ。
「エーレン、嘘はダメ」
嘘なんか、と言い返そうとした私の唇にしーっと人差し指を当てるようにサキが背伸びをしてきた。
小さな爪のついた指が私に近づく。
「ぼく、言ったよ。きみの役に立つって。ぼくは、嘘をつかないよ」
そして、微笑みテロリストはにっこりと笑った。
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