第11話 攻略完了?:サキ・ドゥ

 後ろでイルダールたちが聞き耳を立ててるのを感じる。

 たぶん、彼らはサキが私と一緒に行くのには反対だ。

 サキの素性はまだ私にもわからないんだし、彼らが怪しむのも仕方ない。もしかしたらまだ魔物か何かだと思ってるのかもしれない。


 でも____。


 この世界に生まれ変わって初めて、すこしだけ私がどう進めばいいかっていうヒントを持ってる人に逢えた気がする。

 この人の手は離しちゃいけない。なぜだか、そう思ったんだ。

 ……べ、別に、サキの微笑みテロにやられたわけじゃないんだからねっ!

 その気になれば私にはイケメン部隊のヴィンセントもアルビンもイルダールもいるんだから!


「いいわ。一緒に行きましょう」


 背後で、イルダールたちが息を呑む音。

 でも、反論の声は聞こえなかった。

 『開錠』のスキルで見えない扉を開いたことや、アルビンとも互角に戦えるということで、彼らの私の見方も変わり始めてるのかもー……だと、いいな。


「ありがと。ぼく、うれしい」


 また、サキが私を見上げて、指先をぎゅっと握ってくる。

 だから、やめんか!微笑みテロリストめ!





                    ※※※






「聖域、ここだよ。それでね、これ、神器」

「嘘……でしょ……」


 サキに連れて行かれた先、回廊の奥、岩をくりぬいた場所に嵌め込まれてるものを見て、私は声を失った。

 これ……銃だ。

 私が由真として生きていたころ、何度もお兄ちゃんと練習したクレー射撃の銃とそっくりの。

 イルダールとアルビンは目をぱちくりしてる。

 そうだよね、意味がわからないよね。

 剣と槍と……そんなものしかない世界に、銃。

 なんでこんなところにこんなものがあるの?

 誰が持ってきたの?

 乙女ゲーム『白薔薇の帝国』の中にはこれ以上の何か秘密があるの?

 私の頭の中をいくつもの『?』がぐるぐると駆け回る。

 だって、銃だよ!銃!

 剣と騎士の乙女ゲームの世界に銃!

 ゲームバランス崩壊っていうかイメージ崩壊っていうか、こんなの有り得ないし、有り得ちゃいけない。

 製作者がここにいたら襟をつかんでグラグラゆすりながら「ねえ、なんで?なんで?」って配置した意図を聞きたいレベル。


「これ、サキが持ってきたの?」

「ううん。預かったの。黄薔薇姫に渡してって。

 ね、エーレン、手に取ってみて。聖域に入れるのは薔薇姫だけだから」

「う、うん……」


 あまりにも予想外の出来事に固まっていた私は、それでもゆっくり、ゆっくり、銃がある岩のくぼみに近づいていく。

 なるべく、きりっとした歩き方で。

 私がビクビクしちゃダメ。

 アルビンとイルダールまで不安になっちゃう。

 私はエーレン。黄薔薇から黒薔薇になる、戦姫エーレン。

 赤薔薇姫ルツィアに勝つまでは誰にも負けないエーレン。

 深呼吸を一つして、私は岩のくぼみから銃を取り外した。

 私がふだん使っていたクレー射撃の銃に似てるけど、それよりすこし重い。

 それから、銃の後ろに隠されているようにされていた弾薬箱も取り出す……え、えええ、これ、これ実弾!銃刀法違反!逮捕!前科!!

 ……あ、こっちの世界にはそんな法律ないか。

 私がほっと胸をなでおろして、三人の所に戻ろうとしたとき、私はパントマイムをしてるみたいにある一点でゴツゴツ足踏みをしているアルビンとイルダールと目があった。


「……何やってるの?」


 うん。ほんとに何やってるの?


「姫を追おうとしたのですが、なにやら見えないものに阻まれて前へ進めず……」

「申し訳ありません!姫を守れぬ騎士など……」


 アルビンの口癖の『自害』がはじまりそうだったので、私はあわててそれを遮る。


「あー、自害はしなくていいです。仕方ないの。さっきの壁と同じで、ここに入れるのは薔薇姫だけ。

 そうなんでしょう?サキ」

「んっ」


 サキが勢いよくうなずいた。


「悪い人にとられないようにね、誰も入れないようにしておくんだって言ってた!」


 え?これ、隠してたの、サキじゃないの?


「……誰が言ってたの?」


 私が聞くと、サキが困ったような上目づかいで私を見上げる。


「ぼく、言わなきゃダメ?連れてってくれない?」

「秘密なの?」

「うん。いまここでは言っちゃダメって言われてる。黄薔薇姫なら絶対自分で真実にたどりつくからって……約束したの」


 それから、サキがしゅんとうなだれた。


「ぼく……ダメ?」


 あーあ。もう、しょうがない。私が約束とかそういう言葉に弱いのは前の世界の頃から。

 うん。約束は破っちゃダメだよね。

 むしろ、置いて行かれちゃうかもしれないと怯えながら、それでも約束を守ろうとするサキに私は好感を持った。

 この子、微笑みテロだけじゃないじゃん。こんなふわふわした顔だけど、意外と根性あるじゃん。


「ダメじゃないわ。約束なら守らなくちゃね」

「ありがと!エーレン!」


 満面の笑みを浮かべたサキが、ぽふっと私に抱きついてきた。

 イルダールとアルビンはそのせいで般若みたいな顔をしてるけど、それは見なかったことにしよう。

 どうせ抱きついたって、サキの頭は私の胸くらいまでしかこないんだし。

 見た目はこども、こどもなんだから。

 いちいち目くじら立てないの。

 ね?

 だからお願いだから二人ともそんな顔で見ないでー!!

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