第10話 攻略対象?:サキ・ドゥ
「サキ……サキ・ドゥ、だよ、ぼく。きみ、薔薇姫?」
私たちに敵意がないことがわかったのか、彼___サキ___がにこっと笑って私を見上げる。
「うん」
そして、うなずく私にサキはまた聞いた。
「赤?黄?白?黒?」
「黒……」
と言おうとして、私ははっと口を閉ざす。
私が黒薔薇姫になる、と宣言したのはまだヴィンセントにだけだし、ここでの私は黄薔薇姫エーレン……でも、『白薔薇の帝国』の本当のヒロインは白薔薇姫カタリナ……。
どう答えるのがいちばんいい?
迷って、迷って、背後に控えるイルダールたちのことを考えて、私は『今の私』を正直に答えることにした。
せっかく得られかけてるイルダールたちの信頼を、カタリナの名を騙ったりすることで失いたくない。
「黄、だけど?」
「黄色……!よかった……!
ずっと待ってたんだ、ぼく、きみのこと」
サキが微笑む。
……なにこれ。微笑みテロだ。ここまででイケメンには慣れたはずの私もでもちょっとドキドキする。
なんだろう……守ってあげたい、みたいな。
とことこと、サキが石牢から出てくる。私より身長の低い細い体に、月のような光を纏って。
そして、私の隣に立ってにこっと上目づかいで私を見上げた。
「えと、あのねー、エーレン?」
子どもみたいに舌っ足らずな口調。うー、それさえ似合うのがなんかムカつく。
「最初に説明しとくね。ぼくはここに閉じ込められてたんじゃない。ここに守ってもらってたんだ」
は?!
何言ってんのこの子?!
この『どう見ても牢獄です』ってとこにいたくせに!
サキは隣でそんなことを考えている私なんか気にならないように、後ろを振り向いて律儀にイルダールとアルビンに「これからお世話になります」と頭を下げている。
警戒していたイルダールとアルビンもサキの態度になんとなく毒気を抜かれたみたいで「こちらこそ」とか微妙なやり取りをしていた。
って、何がどう「こちらこそ」なんだろう……。
いや、私は負けない!微笑みテロになんか負けない!
「だってどう見ても閉じ込められてたじゃない。隠し階段の奥、薔薇姫にしか開けられない扉、薔薇姫にしか鍵の開けられない牢獄」
「てことは、薔薇姫以外はぼくに手は出せないってことだよねー?」
上目づかいでサキにまた見上げられて、私は言葉に詰まった。
微笑みテロにやられたからじゃない。
サキの言うことが正論だったからだ。
ヴィンセントルートのあとに出現する『王城地下への階段』、その先に進むのに必要なのは薔薇姫だけが持つ『開錠』のスキル。そして、サキのいた石牢の鍵を開けられるのも薔薇姫の持つ『開錠』スキルだけ。
ならサキは……薔薇姫以外のどんなものからも安全だ。
じゃあ彼は何者なの?
「ぼくはきみのために、ここにいたの。きみを助けてあげるのが、ぼくを助けることにもなるからって。ぼく、ずっと探してる人がいて、きみといればその人ときっと会えるって教えてもらったの」
まるで、私の心を読んだようにサキはにこっと白い歯を見せた。
私の心にたくさんの疑問が湧き上がる。
探してる人?
私といればその人と会える?
どういうことなの?
もしかして、何もかも知ってる誰かが他にいるってことなの?
あー!さすが隠しルート!ぜんっぜんわかんない!
眉をしかめてる私を見て、サキがすこし心細そうな顔をする。
「あのね……ぼく、弱いの。だから一人じゃ人探しもできないんだ。だけど、必ずきみの役に立つから」
すがるように、サキの細い指が私の指先をつかんだ。
「だから、お願い。一緒に行かせて。ぼく、もう一度会いたいんだ……あの人に」
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