第5話 黒薔薇姫はフラグを立てたい
さて、練武場から戻った私は衣装室に向かっていた。
服選びを侍女さんたちに任せるのはもう諦めた。
とにかくもうズルズルフワフワ。
シンプルに!とお願いしても「え……どこが……」なのが出てくる。
これから私が向かおうとしている場所には、そんなものを着ていったらフラグが立てられない。
だから私は追いすがる侍女さんたちを振り切って衣装室へ入った。
って衣装室ってなんだよもう。ツッコミ疲れたよ、私……。
「わたくしどもが」とか「姫にそのようなこと」とか言っている侍女さんたちを「まあまあそこのところ」と自分でも訳の分からない止め方をしながら、私はずらりと並ぶドレスの中から正解に近いものを選ぶ。
光沢のあるグレーの生地。襟はインペリアルカラー。
余計な飾りはほとんどついていなくて、ふわふわもほとんどしていない、お姫様の服というよりは魔女が着るような体にフィットする細身のドレス。でも、私が見ても超高そう。
そう、これだ。
カタリナが彼とフラグを立てた時のドレスにいちばん似てる。
「エーレンさま?それはお気に召さないと……」
「今はこれがいちばん好きなの」
私はそっとドレスを胸に抱き、自室へと戻って着替えた。
いままでは侍女さんたちの手でゆるくハデハデに結ばれていた髪も自分できりりと結い上げた。
おでこも出すようにした。
もちろん装飾品なんかつけない。髪をまとめる最低限のアクセサリーだけ。
気分は試合に向かう日の朝。
お、こうするとこの顔もけっこう強そうじゃない?
「エ、エーレンさま?」
「どうかなさったのですか?」
「おぐしならわたくしたちが……」
おろおろする侍女さんたちに「すこし一人にして」と頼んで、それでも渋る侍女さんたちを部屋の外に追い出して。
ただひとり、マジェンカという侍女さんだけはその場に残ってもらった。
この人はゲームの中で最後までエーレンの無実を信じて、エーレンが死んだあとはカタリナを一生懸命に支えてくれた人だ。信用できる。
「頼みがあります、マジェンカ」
さっきから心配なんだけど……お姫様っぽく聞こえてるかな?
「は、はい。エーレンさまのご命令ならなんなりと」
「それではこれから頼むことを……誰にも言ってはなりませんよ…」
扉の外で侍女さんたちが待ち構えているのを予想して、私はマジェンカの耳元に唇を寄せた。
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