ナンバーワンキャバ嬢、江戸時代の花魁と体が入れ替わったので、江戸でもナンバーワンを目指してみる~歴女で元ヤンは無敵です~【書籍化:江戸の花魁と入れ替わったので、花街の頂点を目指してみる1~3巻】
第123話 12/17 コミカライズ1巻発売記念~桔梗、デレる
第123話 12/17 コミカライズ1巻発売記念~桔梗、デレる
積み上げられた本を前に、きゃっと桜が歓声を上げる。梅も嬉しさをこらえきれないようににこにことしていた。
これはどんなことかというと……いつもの絵草子からさらに絵を増やした、読みやすいバージョンが発売されたのです。もっとうちらのことが有名になるようにって小太鼓先生が企画してくれたらしい。
たまにはいいとこあるじゃん! あの人!
「梅、梅の顔、よう描けておりんす」
「桜姉さんもかわいらし」
「ありがたいことでござりんすなあ」
そして、顔を見合わせた二人が、合わせ鏡みたいにあたしの顔をじっと見た。
「されどなにより麗しいのは山吹どん」
「あい。この絵師は良き腕をしておりまする。この大見得を切ったところなぞ、山吹どんに生き写し……」
「凛々しゅうてまことようござんす」
……二人が開いてるのは、火掻き棒二刀流でキメてるあたしのページだった。
自分的には黒歴史なんだけど、でも、こんなにかっこよく描いてもらえたら、やっぱり嬉しいかな……。
三人で絵草子を広げてると、「入ってようござんすか」という桔梗の声が聞こえてきた。
それに「よござんす」と答えると、座敷の襖をすっと開け、絵草子を手にした桔梗が入ってくる。……妙に据わった目で。
「ど、どうなすった、桔梗殿」
「椿が」
「あい」
「この絵草子、椿がおりんせん……!ええ、わっちの描かれようはこれでようござんす。わっちの性根はあのころ曲がっておりんした。されど椿に何の罪咎がありんしょう。あれはわっちによう仕えなんして、日々の鍛錬も怠らぬ、まことよき禿……」
「き、桔梗殿、落ち着きなんし!」
放っておけば、延々と続きそうな桔梗の言葉を遮り、何度か伝えたはずのことをあたしはもう一度伝える。
「椿がおりんせんのは、なにも憎くてやっていることではござんせん。紙幅の問題でおりんす。この絵草子の続きが出なんしたら、椿もそこには描かれると、以前にも言いなんしたはず」
「……ほんに?」
「ほんに、ほんに。嘘偽りのないこと、この小指をかけて誓いんしょう」
「ならようござんすが……」
うつむいた桔梗の頬がぽっと赤く灯った。
「申し訳ないことでござんした。わっち、椿のこととなると我を忘れてしまいんす。はずかし」
「いないな。かえって良き姉女郎につけたと椿も思いなんすはず」
「その……このことは椿に内密に……」
「承知でおりんすよ。桜と梅も、そのつもりで」
「「あい!」」
二人の勢いのいい声。いいじゃんいいじゃん。可愛いじゃん?
すっかりツンデレてしまった桔梗は、はずかしそうに袂で顔を覆っている。
その肩をぽんと叩いてから、床に落ちた桔梗の分の絵草子を渡し、あたしはにっこり笑ってみせた。
「気になさんすな。椿のいる2巻が出るのがまこと楽しみでありんすなあ」
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