放課後の戦争


戦争が始まる

放課後

わたしたちは静かに息を殺しながら

教室に佇んでいる

勝者には永遠が与えられる

死者が出る

その数が前年比で減少していれば何も問題は無い

隣りにいた友人に話しかけられた

「そのスニーカー、格好良いね」

一時間後わたしはこの人に殺されかける

けれど今はそんな運命も知らずにまるで親友同士のよう

この仲良しごっこがずっと続けばいいのにね

時と場所が違えばそんなことも可能だったのだろうか?

歯車が動き出せば抵抗しようという意思など何の力も持たない

永遠

それを手にするしかない

校舎の三階の窓から外を眺めた

夕日に染まる校庭は一足先に返り血を浴びたよう

「………」

何かを感じ取るには

あまりにもこの世界は急ぎすぎていた

わたしたちの目の前をただ通過してゆくだけ

じっくりと立ち止まることは許されない

疑問を持つ者から真っ先に死んでいく

人生

そいつにどのような意味があるのかもわからずに

わたしは肩から自動小銃をぶら下げ

校内へと視線を戻した

もうじき殺し合いが始まる

今はまだそんな気がしていないけど

「やるしかないのかな」

無意識にそう呟いていた

今のはわたしの声なのか?

この戦争に負けたら

またわたしたちの手元から永遠は遠ざかる

鐘が鳴る

そして戦争が始まる

一斉に動き出す生徒、教師、その他もろもろ

屋上では死体を焼く係がせっせと動き回っている

焼いても焼いても次から次へと運び込まれて来る死体

今日から一週間、全国の高校からは不気味な排煙が立ち上る

見たこともない奴が廊下で彫刻刀を振り回していた

「きみは転校生?」

「ええ」

わたしはそいつを挟み撃ちにして殺した

その後、残されたわたしたちが殺し合うのだ

わかりきっていること

落としもの箱が引っくり返った

あの可愛いらしい色鉛筆の持ち主は誰だったのだろう?

そんな一瞬の気の緩みが生死を分かつ

廊下の向こうから笑顔でやって来る給食のおばさん

頭を散弾銃で吹っ飛ばした

壁に殴り付けられた不穏な模様

倒れ込んだ首から下は刃物を握り締めていた

味方はいない

頼れるのは自分だけ

そんなの耐えられない

だからわたしはわたしを分裂させて会話を試みる

正常さを諦める

理科実験室で茶褐色の瓶を手にし再び廊下へと躍り出た

生徒と遭遇しぶちまけるとそれはただの蒸留水だということが判明した

相手はぽかんとしていた

わたしだって驚いた

そいつがさっきのスニーカーの奴で殺されかけた

わたしのお気に入りのスニーカーは白から赤のまだら模様へと変わった

この戦争が終われば

きっとまたいつものようにみんなで微笑み合うことが出来る

けれど今は殺さなくてはいけないしそうしなければ自分が死ぬのだ


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