第50話 遊びに、いこっ
「よしっ、良い出来栄え!」
ミミを助けたお礼に貰った野菜の中に、幾つか大きなカボチャを見つけてから、一つの仕掛けを思いついて作っていた。
勿論大切な食料なので、無駄にしない為に中身は美味しく頂いた。そして、その外側を使ったちょっとした仕掛けだ。
「おーい、アルムー。遊ぼうぜー」
満足いく出来栄えに惚れ惚れしていると、外からザントの声が聞こえる。
今日は久しぶりに一日休日にして、皆で遊ぼうと約束していたので、多分迎えに来てくれたのだろう。
「はーい、今行くよー」
僕は手早く荷物を纏め、先程作ったカボチャの仕掛けを持って家を出る。今日は久しぶりに村の外で遊ぶので、普段よりも少しだけ重装備だ。
「お待たせ―」
扉を開くと、そこには何時ものメンバーが揃っていた。それぞれが荷物を持って、今日一日遊び倒す為の重装備をしている。
「遅いわよ。って、そんな大きなカボチャ持ってどうしたのよ?」
「ちょっとね、思いついた事があって作ってみたんだ。まあ、後のお楽しみって事で」
「ふーん、まあ良いわ」
カレンは興味が無い風を装っているが、その視線がチラチラとカボチャに向かっている。なんだかんだ気になっているようだ。
「それより、なんでコーニャさんが居るの?」
僕も先程から気になることが有って、皆の後ろに控える様にカレンの世話係のメイドさんが控えていた。普段遊ぶときは、態々付いて来ることはないのに、何故今日に限って同行しているのだろう?
「ああ、父様が村の外で遊ぶなら護衛を付けると言って、コーニャに同行するように言ったのよ」
ゴブリンの騒動が落ち着いたからと言っても、森から危険が無くなった訳じゃない。
それに、ミミの事もあって大人が敏感になっているのもあるだろう。ただ——
「でも、コーニャさんって戦闘能力皆無だよね? 護衛になるの?」
このメイドさん、家事全般に事務能力、更に人のお世話をする能力は長けているけど、運動神経は絶望的で、身体を動かす事についてはセンスが皆無なのだ。
「ならないわね。まあ、アタシ達が無茶しないかの監視役よ」
「本人を目の前にしてそれってどうなの?」
一応護衛という体を取っているのだから、本人を前にしてこの言い方はどうなのだろうか?
「大丈夫よ。本人が言ってるんだから」
「ええっ!?」
まさかの事実に、コーニャさんの方を見ると、それを認めるかのように一度だけ首を縦に振った。なんとも明け透けた人である。
「なあ、それよりも早くいこうぜっ」
「そうね、時間を無駄にしちゃうわ。さっさといきましょう」
他の面々も早く遊びに行きたいとウズウズしているので、話もそこそこに出発だ。
「ところで、行先は決まったの?」
今日遊ぶのは決まっていたけど、幾つかの候補地を決めただけで、何処で遊ぶかは決まっていなかった筈だ。遊ぶ場所次第ではカボチャの仕掛けを使えないかもしれない。
「森の小川よ。アルムが遅いから皆で決めておいたわ」
僕も一緒に遊ぶのに、勝手に決められた事には少し思うところがあるけど、どうやらカボチャが役に立つみたいなので敢えて何か言う事はないだろう。
「何時まで話してるんだよ。早く行こうぜっ。」
もう待ちきれないと言った感じで、ザントが急かしてくる。皆はすでに出発したみたいで、既に向かっているみたいだ。
「あれ? 森はそっちじゃないよ?」
「ん? ああ、父ちゃんから舟借りてきたから、湖から行くぞっ」
なんと、ただ遊びに行くだけで、漁師の仕事道具でもある船を持ち出して来たらしい。ここ最近村の外に出られなかったから、久しぶりの遠出ということで皆やる気に満ちているみたいだ。
「さあ、アタシ達も行くわよ。ほらっ、コーニャも急いで」
ザントに付いて行くようにカレンも後を追う。その後ろをコーニャさんが付き従い、僕もその後に続いた。
*
「わー、お舟に乗るの久しぶりー」
「何もしなくても進むのは、楽でいいですね」
「おいっザント。もっとスピード出ないのかっ」
「無茶言うなよっ。これが精一杯だっ」
皆、船首に集まって楽しそうに騒いでいる。漁師でもないと、滅多に舟にのる機会など無いので皆物珍しいのだろう。
僕は普段から釣りをするのに舟には乗っているし、この前の筏で十分堪能した。だから、ザントの操舵の邪魔にならない場所で木板を使ってコーニャさんを扇いでいる。
「……ぎもぢ悪いでず」
「これも運動神経が無い弊害なのかしら?」
皆が楽しそうにしている中、コーニャさんだけが酔ってダウンしていた。カレンが言うように、運動神経が関係しているかは分からないけど、コーニャさんの弱点がまた一つ判明した。
「舟で酔う人なんて滅多にいないんだけどなー。これじゃ大きな船は絶対乗れないな」
「これじゃコーニャはお留守番かしらね」
「うぅ……わた……着いて……」
もはや死に体のコーニャさんが何か言っているけど、小さな揺れを感じるたびに突っ伏して言葉にならない。必死に女性としての尊厳を保つために意識の殆どを向けているようだ。
「川を昇る時もっと揺れるから、今からそんな調子じゃもたねーぞ?」
そんな必死に耐えているコーニャさんに向かって、ゼントは本人には受け入れ難い事実を告げる。
穏やかな湖と違って、流れに逆らうように進まなければならない小川を進むと、どうしたって揺れは酷くなる。小川をどこまで昇るかによるが、その間コーニャさんにとっては試練の時だろう。
「大丈夫よ。コーニャは普段から淑女としての行動を説いて来るから、自らそれを破ったりしないわよ。ね、コーニャ?」
普段からお付のメイドとして五月蠅くいわれているのか、カレンの声色は優しいのに、その笑顔には暗いものが見える。ここぞとばかりに口撃するつもりのようだ。
どちらにしても、本人は尊厳を守るのに必死でそれどころではなさそうだけど……。
「おーい、お前らもそろそろ座れー。身を乗り出してると落っこちるぞー」
「「「はーい」」」
皆は素直に船首から離れて席につく。一通り騒いで満足したみたいだ。
「それじゃ、アルム頼んだぜ」
「うん、任せて。前回ので慣れたからね」
小川を昇るには、帆の力だけではどうしても不足する。だから、筏を操縦した時みたいに長い竿を使って馬力を補助してやるのだ。
そして、この中で最も力のある僕が、その役目を担う。
「よーし、小川に入るぞー。確り捕まれよー」
小川から水が流れ込む力に逆らって小舟はズンズン進む。それを補助するために、竿を使って力いっぱい押し上げていく。細かい舟の操作はザントがしてくれるから、細かい事は気にしないで全力で押してやるだけなので、筏を操作するよりよっぽど楽だと思う。
「おぅ、うっぷ。……ゴクン」
小川に入って、一気に揺れが酷くなったので、コーニャさんは先程よりも酔いが酷くなったようだ。なんだか喉から怪しい音が聞こえたような気がするけど、触れぬが花だろう。
「よっしゃー。アルムどんどん行ってくれー」
「はいよっ」
流れに逆らって昇る舟は、まるで荒波を逆らって進む冒険家の気分が味わえる。
荒波を乗り越え、目指すべき先に向けて困難に立ち向かう船乗りになった気分だ。
皆は一番スリルが味わえる船首に集まって再び騒ぎ出し、ザントがそれを嗜めるも構やしない。その為に、舟の重心が前方に寄ってしまうのを、ザントが必死に舟を操ってバランスを取る。
舟を押す時も、皆が船首に集まってから重く感じるようになったけど、それに負けじと必死に押す。舟が大きく揺れるなど気にしちゃいられない。
「おえっ……」
大丈夫、これはコラテラル・ダメージだ。
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