第9話 コロニー殲滅計画
「ミミ! 怪我はないか!?」
なんと声の主はミミと一緒に遊んでいたイツメンの一人でもある俺達の中では最年長のザントであった。
「ちょ、ちょっと落ち着けザント」
食い気味に迫ってくるザントをなんとか落ち着かせて、僕は大人の姿を探す。すると、近くには結構な人数の大人がいた。
その中には当然ミミの両親も居て、今にも此方に駆けよろうとしていたのだが、そこを一旦手で制して姉さんを探す。
幸い姉さんの姿は直ぐに見つかり、兎に角最優先するべきミミの治療を姉さんに頼む事にした。
「ただいま姉さん、早速だけど、ミミが頭を殴られたみたいなんだ。今は何ともないみたいだけど一応検査してあげて」
「おかえりなさい、無事でよかったわ。直ぐに見てあげるからね。ミミちゃんこっちにいらっしゃい」
「うん……」
ミミの両親は驚いていたが、取り敢えず大丈夫だと説明して、ミミと一緒に治療院に行く事になった。
ミミを姉さんに引き渡し、手を引かれて治療院に向かうのを見送ってから騒いでいた人達の方へと向き合った。
そこに居たのは、先程騒いでいたザントに、他に一緒にいたイツメンのトムとエリザ、それにミミが連れ去られた時には居合わせなかったであろうこの領地を治める領主家の次女であり、普段一緒に遊ぶ仲間の一人でもあるカレン・ウッドランドの姿もあった。
他にも、この村の警備責任者であるカレンの兄であるケント・ウッドランド、その他警備隊の人たちが何人も集まっていた。見る限り、ミミの探索に出ようとしていた処のようだが、何故言い争っていたのかは謎だ。
「アルム、少し話を聞かせてもらいたいんだけどいいかな?」
「うん、いいよ。ケント兄ちゃん。僕も話す事があったんだよね」
「分かった。詳しい事は警備隊の詰所で話そう。ほら、ミミも帰って来たんだ。お前たちは家に帰れっ。カレンも家にミミが無事だったと伝えて来てくれ」
ケント兄ちゃんは、まだ何か言いたそうにしている子供達にむかって有無を言わさず追い払う、一応カレンには形だけの仕事を与えていたが、あれも体のいい追い払いの理由のようだ。
カレンも一応納得したようだが、その視線は何があったのか説明しろと訴えているのがありありと分かる。これは後日確り説明しないといけないだろう。
こうして、ケント兄ちゃんと残り何人かの警備隊の人たちに案内されて詰所へ向かう。村の安全を守る者として、彼等は何となく状況を察しているのかもしれない。
「さて、アルムがどうやってミミを見つけたのか教えてもらってよいかな?」
警備隊の詰所の一室、客間のような場所に通されて、少し硬いソファーへと勧められ、仄かにオレンジの香りが漂う紅茶を出してもらった。丸一日森にいたから、こういった嗜好品はうれしい。
「その前に、この地図を見てもらっても良いですか?」
「ん? なんだいコレは?」
僕は鞄から濡れないように慎重に入れた地図を書き記した獣の革を取り出す。ゴブリンたちの無駄の多い歩みに合わせて移動していたから、無駄に時間が余って凝った地図になってしまったが、コロニーの場所からそこまでの最短ルート、休憩が可能なポイントに、ゴブリンが徘徊していそうな予想範囲など、細かく書き記している。
「これは今日見つけたゴブリンのコロニーの場所を示した地図です」
「なに!? もう発見していたのか。アルムは仕事が早いね」
「偶然ですよ。それでミミの事なんですが——」
ケント兄ちゃんには、今日ゴブリンを発見した事から掻い摘んで説明していった。特にコロニー周辺の情報は詳しく説明して、ある程度把握できたコロニーの規模も余さず伝える。
それに比べて、ミミを発見した時の出来事については内容が薄っぺらい。実際、ミミをゴブリンから救出したくらいで、それを見つけられたのも偶然だったからだ。
寧ろ、他の友達がどうなっていたのかが気になる。一応この目で無事だったのは確認できたが、ミミが説明してくれた以上の事が分からないのでそれとなく聞いてみた。
「ああ、あの子達は特に問題なかったよ。ただ、バラバラに逃げたせいで誰が無事なのか分からなくてミミが攫われたことに気付いたのが遅れて凹んでいたけどね。探索に自分達も連れて行けって大変だったよ」
「ああ、だからあんなに騒がしかったのですか」
どうやら、門の処での問答はザント達が自責の念からくる正義感で、自分達もミミの探索に参加させてほしいと訴えていたようだ。結局その行為が探索隊の出発の足止めをしていたのだから笑えない。この辺りは時間がある時に確り言っておかないといけないね。
「あはは、あの子達にも困ったものだよね。それで、コロニーの事なんだけど……」
「案内ならできます。コレに記したルート以外にも何通りかの道は把握してますから」
「それは助かるね。アルムの案内なら安心できる。この後コロニー討伐の人員を確保するけど、明日には出発できるようにしておくからお願いできるかな?」
僕がゴブリンのコロニーを発見したのはこれが二度目になる。前回は領主家の人たちが出掛けていて、その護衛に警備隊からも何人か人をだしていたから、斥候の人員が確保できなくて困っていたので、僕が道案内も兼ねて斥候をしたことがある。
そのときのコロニーは、今回程大きく無かったので、徘徊するゴブリンも少なく、問題なく役目を果たせた。
そんな実績があるから、今回も道案内をお願いされたのだろう。それに、森の中を歩くには僕たち狩人以上の人は居ないから、そういった理由もあるのかもしれない。
「はい、大丈夫です。足は引っ張らないと約束します」
「あはは、期待してるよ。それじゃ、明日の日ノ出北門に集合でよろしく」
警備隊での説明が終わった後、僕は足早に詰所を後にする。
コロニーやミミの事を優先したので、僕はまだ仕事が終わっていない。
既に陽が暮れて遅い時間だけど、生ものは足が速いので早急に引き渡したい。それに顔なじみなので多少の融通は利くので、肉を駄目にするよりもよっぽどいい。
詰所から肉屋までの道のりを、速足で移動する。辺りはすっかり暗くなってしまい、街灯もない村の道だが、慣れたもので僅かに零れる生活光を頼りに目的の場所へと向かう。
「あっ、アルム! あの後どうなったか教えてくれっ」
肉屋に向かう途中、今回の騒動の一人であるザントが姿を現した。先程、ケント兄ちゃんに帰るように促されたのに、まだこんな所で油を売っていたらしい。
「おいおい、ゼントさんに怒られるぞっ」
村の生活は基本的に陽が昇って陽が沈むまでだ。特にザントの処は漁師なので、朝早くて夜も早い。陽が沈んだのに未だに村の中を徘徊していたら、帰ってから怒られるのは確定的だ。
「そんなことよりミミがどうなったか教えてくれっ! 俺達のせいでミミが危ない目にあったんだろ!?」
僕たちの中でも一つ年上のザントは、今回の事に責任を感じているようだ。実際、ザントはなんだかんだ僕たちのまとめ役をしてくれている。本当は立場的にカレンがみんなを纏めるはずなのだが、彼女の性格がそういった事に向かないから仕方がない。
それにザントは二枚目で、良く仕事をしていることが分かる日焼けした肌をしていて、村の中でも人気が高い。それに、今みたいに責任感があり面倒見もいい処も人気が高い理由の一つだろう。
「大丈夫だよ。救出が間に合ったからね。それに姉さんに預けたんだから、何時もより元気になってるはずだよ。兎に角、今日はもう遅いからまた後日話をしよ?」
「そ、そうだな。ちょっと焦っちまったよ。——あっ、やっべ! 明日はアミ上げだから早く帰ってこいって言われてたんだっ!」
そこからザントは別れの挨拶もそこそこに、急いで家へと帰って行った。
なんとも慌ただしい奴だと思いつつ、なんだかんだ皆の事を一番考えてくれている頼もしいリーダーだなんて思ったのは僕の心の内にだけ閉まっておこう。
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