第17話 夢 『昔話』

 僕はなぜか公園にいた。


 視点が低くなっている。

 どうしてだか、ランドセルも背負っている。


 ああ、そうか。僕は今、小学生なんだ。


 僕はいつも学校帰りに、ここで仲が良かった二人の友達と一緒に遊ぶのが日課だった。


 でもこの日は上級生がいて、僕たちが遊ぶことを許さなかった。


 一緒にいた友達は使い魔で反抗心を示したが、二年生だった僕らと六年生の使い魔では成熟に差があり、敵うわけがなかった。


 その中で唯一、僕だけは違った。


 僕の使い魔には成熟度なんて関係がなかった。

 だから、この場で戦えるのは自分だけだと思ったし、上級生からの理不尽な主張に怒りを感じていた。


 僕はアメの名前を呼んだ。


 すると、この頃は存在を隠していないアメが姿を現した。それだけで上級生たちは慌て、恐れ、涙を浮かべながら逃げていった。


 僕は誇らしげに友達を見た。でも、僕の目には望んだ結果は写っていなかった。


 腰が抜け、ぶるぶると震えながら僕を見る者。失禁した者。


 さっきまで仲良く話していた友達が、もう友達ではなくなっていた。

 僕が声をかけようとすると、二人が同時に口を開いた。その声は、僕の中で大きく響いて景色を揺らした。


「「化け物」」


 次の瞬間、僕は立体駐車場の屋上に立っていた。


 ここはたしか、地元にある大きな複合施設の駐車場だ。

 そして、僕は中学生だった。

 

 目の前では、派手な身なりの三人の男が男の子を囲んで立っている。


 男の子はうずくまり、泣いている。

 男たちは楽しそうに胸糞の悪い笑みを浮かべている。


 すぐ近くでは、男の子の使い魔が助けようと、必死に飛びかかっていた。しかし、男たちの使い魔が術者に似た笑みで楽しそうに叩き落している。


 周囲に人はいない。


 僕は両親の長い買い物に飽きたので、携帯ゲームをしようと車に戻って来た。

 そして、この状況に出くわした。


 なにが起こっているのか理解したとき、全身が熱くなるのを感じた。

 その熱はすぐに体内に宿していられる限界を超え、声となって吹き出した。


「やめろー!」


 僕の叫びに呼応してアメが姿を現した。

 だが瞬きをした途端、男たちと使い魔、アメの姿は消えていた。


 男の子と使い魔はひどい怪我をしていた。彼は僕が助けてくれたと言ったが、僕はなにもしていないとシラを切った。


 四日後。


 行方不明になっていた三人の男と使い魔が、近くの山で発見されたという噂が僕の耳に届いた。


 また景色が変わる。

 次は高校生になっていた。蝉が嫌にうるさく鳴き、強い日差しが肌を焼いていた。


 高校一年の夏。今は夏休みで、友達の家に遊びに行く途中のはずだが、僕は見慣れぬ男たちに囲まれていた。


 この暑い中、重たそうな黒いスーツに身を包んだ六人の男たちが、一定の距離を保ったまま僕を見ていた。


「高若晴人だな? 使い魔の名前はアメ。間違いないな?」


 僕の正面にいる男が口を開いた。


 このとき、嘘をついていればよかったかもしれない。

 いや、きっと結果は変わらないのだけれど、こんな怪しい連中に馬鹿正直に答えてしまったのは、我ながら警戒心が無さすぎだ。


「はい、そうですけど」


 次の瞬間、男たちは素早く呪符を取り出して構えた。

 それぞれ魔法陣が浮かび上がり、男たちは六芒星の位置で僕を囲んだ。


 僕は頭を激しく揺らされる感覚に襲われ、立っていられなくなった。

 景色が歪み、空中に放り出されたように体の自由を失った。


「……周囲……人は……」

「……こいつ……われ……力に……」

「……つかい……レア……」


 男たちの声も、水の中にいるようでほとんど聞き取ることができなかった。


「ぎゃああああ!」


 途端にはっきりと、恐ろしい悲鳴が響いた。

 僕はいつの間にか倒れこみ、口にはガムテープが貼られ、手は結束バンドで縛られていた。


 目の前では、例の六人組の一人が人間とは比べものにならない力で締め上げられていた。男は苦悶の表情を浮かべ、そのうち叫び声も上げなくなった。


 やったのはアメだった。


 後に知ったことだが、この男たちはアメを目的に僕を襲おうとしたらしい。

 アメを利用して金儲けを企んでいたのか、単純に力が欲しかったのかは今でもわからない。


 男たちは突然現れたアメに驚きながらも、使い魔を召喚して応戦した。

 

 しかし、無駄だった。


 あれほど怒りをあらわにしたアメは、この事件以降も見たことがない。

 アメは向かってくる使い魔たちを返り討ちにし、放たれる魔法をものともせず、男たちに襲いかかった。まだ意識が朦朧としていた僕には、アメを止めることはできなかった。


 ほどなく、僕の前から男たちは消えた。


 拘束はアメが外してくれ、回復を待ってその日は家に帰った。

 男たちの消息を知っているはずのアメはなにも語らず、僕も怖くて聞くことができなかった。


 夏休みが終わる頃、六人の男が山奥の廃墟で衰弱した状態で発見されたというニュースが報道された。


 全員、暴力団関係者だったため抗争の一部だとして終息したが、僕の胸には暗い靄がかかっていた。

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