第3話 憤懣と傷心

 思い出した。イライラする。なんとなく苦手なんて嘘だ。さっき久しぶり! 元気だった? と声をかけてきた奴らは後ろの方でくっちゃべっている。授業中に。迷惑極まりない。僕は勉強がしたくて進学したんだ。これが大学生だというのなら大学なんて爆発して塵になってしまえ。くそ。

 苛立ちによる衝動で僕は叫びだしそうだったが、何とか意識を前に向け、乗り切ることに成功した。しかし、これから大丈夫だろうか。耐えられる気がしない。


 とりあえず休み時間はさっさと移動して、昨日のデカルトを読み直すことにした。

 すると長峰がやってきて僕にちょっかいをかける。どうやら次の授業は同じらしく、僕の隣を陣取ってノートを広げ始めた。長峰が何やら話しかけてくるのに対して適当に相槌を打ち、僕は本を読む。長峰は僕の本をちょっと覗き込んでふーん、とか言い、

「まーた難しい本読んでんのな」

「悪いかよ」

「いや、お前は深く考えずにテキトーにやってくのがいいと思うんだけどな」

 僕はその言葉にむっとした。テキトーにやっていると解決できない問題を解決したくて考えているのに。僕が考えてきたことは、何の役にも立たないというのか。

 お前にとってはそうかもしれないが、僕が同じだと言い切るのか。お前は自分と他人の見ている世界が同じだと、疑うことなく断言できるのか。

 長峰の無責任な発言にやたらと腹が立ち、そのあとは何を言われても相手にしなかった。また明日、程度の挨拶は交わしたが。


 一日が終わった時、僕は非常に疲弊していた。このストレスに耐え続けなければならないなんて、やっていける気がしない。

 心配してくれるだけの長峰にまで、あんなにイライラしてしまうなんて。わかっている。長峰はいいヤツなのだ。そう。鬱陶しいほどにネガティブな僕をいつも励ましてきてくれた。どんな言葉で謝ればいいか、そもそも愛想をつかされてはいないか、などと考えたが、憂鬱になるばかり。

 というところで腹の虫が鳴いた。こんな状態でも腹が減るのだから余計にむなしくなってしまう。気は進まないが、とりあえず空腹を満たそうと、食パンをかじった。

 はやいところ眠ってしまいたいとも思ったが、眠たくもないのに布団に入ると余計なことを考えがちなのだ。

 そんなことはわかっているので、酒を飲みながら漫画でも読むことにした。昔から大好きなヒーローもの。その漫画の主人公が無茶をしてでも問題を解決していくものだから、僕の現状と比較して悲しくなってしまった。

 他人を守れるヤツはまず自分を保てるんだな、なんて当然のことを考える。僕はヒーローになれないな。まともな人間にすらなれていないんだから。

 何もかもどうでもいいような、もやもやと悲しみでいっぱいになってしまったので、開けてしまった酒を飲みほして布団に飛び込んだ。

 結局寝ることになってしまったが仕方がない。明日は休みなのだ、酒と可哀そうな自分に酔って枕を濡らしながら寝てもいいか。

 さあ寝てしまおう、と目を閉じたとき、スマートフォンの通知音が鳴った。

『突然ですけど、明日お茶でも飲みながらお話しませんか。もちろん、先約が無ければ。』


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