⑦

 大量の水が蛇口からホースで送り込まれて、当然キャパを超えちゃったわたしの口から鼻から水があふれる。ついでに気持ち悪くなって少し泣いちゃった。顔の穴全部からおしっこしてるみたいだな。

 水って飲まされすぎると苦しいっていうか、痛いって感じ。おなかが痛くなるんだな。わたしの体いま、90%くらい水だと思う。


「妊婦みたいだな」


 こうちゃんはわたしのぱんぱんに膨れたお腹を革靴で思いっ切り踏み抜いた。今度はおしっことかそういう次元で済まされなくて、頭が真っ白になって、お腹が破れて脱腸しちゃったんだな、って思ったら食べたものが肛門から出てきてた。そうか、だからこうちゃんはさっきわたしの服を脱がせたんだ、汚れちゃうもんね。こうちゃん頭いいね。

 こうちゃんはただただわたしのことを冷たい目で見降ろしていて、わたしはむせていて辛いから、こうちゃんも楽しくないし、わたしも楽しくないのに、何かこの方法に意味はあるのかなって考えたけど、こうちゃんがやっていることなのでとても正しいよね、と自己解決した。

 だってこうちゃんってすごく綺麗だよね、そう思わない?って誰もいないけど聞きたくなった。右のほっぺにホクロが縦に二つ並んでるのも綺麗さんだよね。

 口からのぞいた歯がきれいだね。トイレの便器みたいだね。

 妊婦みたいって言われるのもうれしい。こうちゃんとわたしが子供を作ることはないけど、だってわたしはブサイクで、ブサイクがブサイクを増やすのは犯罪だから、それはないけど、こうちゃんそっくりの子供ができたらうれしい。きっとすごく綺麗な赤ちゃんだろうし。

 わたしはいじめていい子なんだってこうちゃんが言ってた。お■■■人形だからって。お■■■人形ってあんまり好きな言い方じゃないな。本当はこうちゃん以外とエッチなことなんかしたくないからね。

 こうちゃんはわたしが出したものを水で流してくれた。その間ずっとわたしはこうちゃん綺麗だなと思って顔を見つめてる。

 こうちゃんは最初から、全裸でも全然、顔色とか変わらなかったな。お■■■人形って呼ぶけど、こうちゃんとエッチしたことないんだ、ほんとに。お金持ちとか綺麗な人って変態多いって誰か言ってたもんな。誰だっけ。とにかくこうちゃんはそのどっちもだから、やっぱり変態なのかもしれない。

 でもそんなことはわたしに関係ないんだ。変態でもこうちゃんは最高に綺麗なんだ、きらきらで、お星さまみたいだ。

 こうちゃんは私に焼き芋くれたし、テレビ見せてくれるし、ゲームさせてくれるし、たまにだけどぎゅってしてくれる。まあ、そんなのなくてもいいんだ。こうちゃんは綺麗、それだけでいいんだ。

 わたしはこうちゃんに初めて殴られた日に、生理が来た。最初は殴られたから血が出ちゃったのかと思った。でも違った、これが学校で習った生理なんだなと分かった。わたしは女になったんだなと思った。こうちゃんが女にしてくれたんだなと分かった。

 中学校に行っても高校に行ってもこうちゃんと遊んだ。基本的に二人っきりだったけど、たまにほかの男の子たちも一緒に遊ぶこともあった。

 今日みたいにこうちゃんが洗ってくれるときは、ほかの男の子が来るサインだ。一回うんちを漏らしちゃったことがあって、そのときその男の子が怒ってぼこぼこにされたから、わたしが怒られないように洗ってくれてるんだと思う。やっぱりこうちゃんは優しい。でももうすこし、ふつうに洗ってほしい。


 そういえば今日はわたしの誕生日だ。わたしは今日で18歳になる。

 去年の誕生日、こうちゃんの家でピザを食べたな。色んなものと混ざってぐちゃぐちゃだったけど、味はちゃんと照り焼きチキンピザだった。

 今年は何を食べられるかな、とてもたのしみだ。

 たのしみではあるけど、心の深いとこがぎゅっと押されるように痛いんだ。

 こうちゃんは最近あんまり遊んでくれなくなった。勉強してることの方が多い。わたしもおなじで、なんとなく、みんながそうしてるから勉強してる。こうちゃんは大学になったら遊んでくれなくなっちゃうかもしれないと思ってわたしは少し泣いた。

 こうちゃんが珍しくわたしのほっぺを触って涙を指でぬぐってくれた。


「同じ大学に行くよな」


 きっと、おかあさんが仕事を増やせば大丈夫だろう。ヒト語を話してはいけないので、わたしは黙ってうなづいた。

 こうちゃんは久しぶりににこっと笑った。ほんとうに久しぶりなのでわたしもうれしくてにこっと笑った。

 殴られるかと思ったけど殴られなかった。こうちゃんはほんとうに顔がきれいだ、お星さまみたいだ。ずっと見てたい。ずっと。












 これはわたしの青春映画なんだ。わたしが主人公のラブストーリーなんだ。



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