でれす

 ①

 変わった趣味だねと言われることが多かった。そしてそんな自分が好きだった。人と違うことをすること、人が好まない何かを好きでいること、それ自体に価値を見出していた。よくある中二病とは違う。だって俺は昔からそうだった。そういうもの以外どうでもよかった。

 幼少期のことを思い出す。


 小学生の時の俺はクラスでも中心人物だった。足が速かった。そして母に似て顔が整っていた。優越感を気取られぬように振る舞う小賢しさもあった。


 じっとりとした不快な空気が漂う蒸し暑い日のことだ。その日、俺は仲良くしていた谷口幸雄の爺ちゃんの具合が悪いというので、テレビゲームを一緒にやる予定がなくなり、雨の降る放課後の教室にまんじりともせず座っていた。


「こーちゃんバイバーイ」


 ピンクや水色のポップな色彩が視界の片隅で揺れる。幼いながらあの子たちは俺のことが好きなんだろうなと思っていた。それに笑顔で答える。ちっとも好きじゃない女の子でも、他人に好かれるのは悪くない。


 教室はがらんとしている。俺と、一人の女の子しかいない。■■■■■。真っ黒で重たそうな髪の毛を長く伸ばしていて、それが最近公開された映画に出てくる「貞子」という幽霊にそっくりだということで、あだ名は貞子。友達はいないようで、ほぼ一日中下を向いて座っていた。一部からかいを通り越していじめのような扱いをしている者もいる。

 俺は先生に言われていたことを思い出す。「■■さんと仲良くしてあげてね」だったか。今がまさにその時ではないのか。


「■■さん」


 そう声をかけると■■■■■はビクッと体を震わせる。改めて彼女の顔を見ると、本当に陰鬱な印象で、全体的に作りが悪い。突然声をかけられて驚いているのか限界まで開いているようだがそれでもひどく小さい目だ。固まっている彼女の名前をもう一度呼ぶと、かすかな声でハイ、と答える。


「家来ない?ゲームあるんだけど」


「でも、急にお邪魔したら」


 彼女が蚊の鳴くような声で迷惑かも、と言う前にもともと一人遊びに来るつもりだったから大丈夫だと答える。

 学校の玄関で担任の先生とすれ違う。俺の後ろを付いてくる■■■の姿を見ると満足そうに微笑んでさようならと挨拶をしてくれた。■■■のあまりの陰気さに誘ったことを後悔し始めていたが、思惑通りに先生の評価を上げられたのだから、やはり俺の選択は間違っていなかった。

 さらに俺にとってありがたいことに、家に向かう道すがら彼女は一言も喋らなかった。


 家に着くと■■■は俺の母親を見てほとんど聞き取れないような声で挨拶をした。母は笑顔を作って可愛らしい子ね、と心にもないことを言う。彼女はどう見ても全く可愛くないのに。

 彼女はほとんどテレビゲームをやったことがないようだった。コントローラを必要以上に強く握りしめて、画面のキャラクターと同じように体を動かしているのでよく分かる。

 楽しいか、と尋ねると楽しいのでもっとやりたい、と答える。意外と図々しいなと思い少しイライラした。


「もっとやりたいなら■を■■で」


 母は父の手伝いをしに出掛けている。

 ■■■はこちらを見たまま凍りついたように固まっている。


「だから、もっとやりたいなら■を■■って」


 ■■■は小刻みに震えている。目は充血していた。ちょっとした冗談のつもりだった。しかしなぜだろう、■■■を見ていると虐めてやろうという気持ちがムクムクと沸いてくる。嫌がって苦しんで震えているところが見たいと思えてくる。

 ■■■は観念したようにシャツに手をかけた。俺はその様子を父に買ってもらったポラロイド■■■で撮影していく。


「やめて!」


 ■■■が聞いたこともないような大声を出して掴みかかってくる。俺はそれを軽く払って思いっきり腹を蹴った。肉にめり込む柔らかい感触が気持ち良かった。■■■はフローリングに吐き戻した。さっき食べた牛乳とバウムクーヘンがぐちゃぐちゃに混ざった状態で出てくる。


「床まで汚してんじゃねーよ、お前の■で掃除しろ」


 落ちていたスカートを吐瀉物の上にグリグリと擦り付けると■■■は小さく唸った。


「お前は今から奴隷だからな」


 何枚も写真を撮る。なるべく顔が良く見えるやつ。なるべく恥ずかしいやつ。痛そうなやつ。豚みたいなやつ。ブサイクな■■■のさらにブサイクな泣き顔。お漏らし。自分の吐いたゲロを自分で舐めているとこ。


「明日から、声かけたら俺の家に来いよ」


 写真を撮り終えてからそう言うと■■■は震えながら頷いた。足を引きずりながら帰っていく■■■を部屋の窓から眺める。勃起していた。正確に言うと、中学生の兄がいる雅史に聞いた勃起という状態がこれなのか、と感じた。そのまま自慰をして射精をする。夢精をカウントしなければ、これが初めての精通だったかもしれない。■■■の裸に興奮していたわけではない。あの嫌がる顔、震える唇、柔らかい肉の感触、ぐちゃぐちゃに混ざったすえた臭いの吐瀉物、汚くて醜い■■■の全てにたまらなく興奮していた。そのまま夜、父と母が帰ってくるまで自慰に耽った。


 何度も■■■と遊んだ。彼女は最初に遊んだ時を除いてほとんど抵抗しなかった。ゲームもさせてやったし食事もさせてやった。母親から■■■の家庭は親の見栄で銀座に住んでいるが内実は火の車だと聞いていたし、事実その通りだった。俺と遊んだあと夕飯を食べ、■■■が母にお礼を言って帰っていくのを見るのがたまらなく面白かった。高校生になってからは他に娯楽も多くカノジョがいる時期もあったので■■■と遊ぶことは減っていったが、俺は■■■を手放す気はなかった。

「同じ大学を受けようぜ」と言うと■■■もいいよ、と言った。

 大学に入学すると彼女も俺もほとんど話すことはなかったが、やはり月に一回くらいは家に来て遊んだ。


 俺は■■■に愛着のようなものが湧いていたし、おそらく■■■もそうだと思っていた。

 しかしそれは俺の勘違いだったのだ。

 ■■■が死■で■■俺の■には■■■が■■■て■■■■■く■だ、■■■■■い。殺■■や■、■■■は呪■■て■■。

 ■からあの■の■■に■る、これで■■■と思っ■のに、■■■が




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