⑦
すぐに電話は切れてしまった。佐々木るみはどんどん面白くなるでござるとか何とか言って、おもむろにタブレットを取り出して何やら記録し始めてしまった。
「さっきのは一体どういうことなんだろう。斎藤奈緒さんの声に聞こえたけど」
敏彦さんが呟く。
「うーむ、分かりませぬなあ。電話を受け取った時は年配の男性のような声でしたぞ?斎藤奈緒さんに代わって頂けますか、と」
「あ、言うの忘れてたんですけど」
ヒロがまたも話を遮って言う。私はなぜか少しほっとしていた。敏彦さんにこれ以上話して欲しくない。敏彦さんは宝石みたいに綺麗なんだから、ただそこにいるだけでいい、それで価値があるんだ。
「タキオさん生きてるんです」
「えっそうなの」
「だからあの、相談しなくて悪かったんですけど、タキオさん今日呼びました、ダメですかね?」
「いや、ダメってことは。俺が判断することじゃないから」
敏彦さんがこちらを見る。
私はさっきまでの恐怖も忘れて――いや、忘れたのではない、それ以上の喜びで恐怖がかき消されていた。
タキオが生きている。タキオが生きているということは、この出来の悪いホラー映画のようなストーリーの結末が決まったということだ。金町タキオは最強のお助けキャラだったのだ。
「ありがとうヒロ、本当にありがとう、やっぱり頼ってよかった。色々感じ悪くしてごめんね」
ヒロはにっこり笑って全然だよ、と言った。
「あの、ご迷惑でなければ斎藤さんだけじゃなくて、佐々木さんと敏彦さんにもいて欲しいんですが」
「それはもちろん、かまわないけど」
敏彦さんが私に向かって微笑む。人の心をかき乱すような笑顔だった。
「安心して、俺は興味本位でついてきただけだから、もう何も言わないよ」
ヒロが不思議そうな顔をしてこちらを見ている。私は目を膝に落とすことしかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます