第22話 見舞い
万一のことを考えて、その日はとりあえず夜まで寮で過ごすことになった。最近の学生は寮に住みたがらないので、空き部屋は一杯ある。寮の連中も責任を感じてか、部屋の用意をしてくれた。布団はないが、まあ昼間だけなので寒く無いだろう。見舞いに元寮長来た。
「いやあ、迷惑を掛けちまった。その代わりといっちゃなんだが、まだ就職決まって無いだろ。おれの就職先がまだ募集中だがどうだ。」
ありがたい話だが、こいつの就職先は警備会社だ。そんな、猛者の中に、か弱い羊が飛び込めるわけが無い。
「いや、ありがたいが今のバイト先が雇ってくれるかもしれないんで。」
申し出をことわると、やつは残念がった。
「君の勇気のおかげで、寮の立て替えを検討することになったよ。避難梯子もない今の寮は防災上の欠陥があるというのだ。俺たち卒業生にとっては寂しいが、後輩たちは喜んでたよ。いまどきの連中は、こんな木造のオンボロなところはいやらしい。」
感謝されるのは、悪くはないが、何の利益にもならない。
「そうだ、頼まれてた、例のマットレスの出所を聞いてきたよ。」
わざわざ、浮浪者のじいさんから聞いてきたらしい。
「居酒屋の入っている雑居ビルの下に落ちてたらしい。きれいだったので拾ってきたそうだ。かさばるので運ぶのに苦労したって言ってたよ。」
それは、天使が飛び降りたビルだった。場所も窓の下。すべてがつながった。あとは、布団屋にこの事実を突きつけるだけだ。
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