第20話 若いってすごい
五百円はおしいので、夜こっそり現場を覗いてみるだけにした。暖かくなってやぶ蚊も出始めた。蚊取り線香を腰に下げ、少し離れたところから様子を伺う。2階の窓から、ロープが2本ぶら下がっている。おそらく、飛びだす範囲と方向を間違えようにガイドになっているのだろう。ダブルベットサイズはあるだろうが、それでも2階からだとかなり小さく見えるはずだ。
「うっかり踏み切っちまったら、オーバーランしそうだ。」
そう思いながら見ていると、背中から落ちるように飛び始めた。一応、下では落ちた連中をどけて、マットの位置を戻す係りもいる。それなりに安全には配慮していそうだ。
スプリングが効いているせいか、落ちた後も弾んで飛び出しそうになるやつもいる。
「若いってのは怖いもの知らずだなあ。」
そう思ってみていると、いきなり背後から首根っこを掴まれた。
「見つけた。」
昼間の元寮長のやつに見つかった。大体寮長ってのは相撲部や柔道部といった腕っ節の強い連中がやっている。ほとんど毎日、けんかの仲裁をするからだ。
「お一人様、ご案内!」
こうなっては、首をくわえられた子猫のように抵抗できずに従うほかはない。
「ただでいいから。香取は危険だから、預かっておく。」
おいおい冗談じゃない。なんとか隙を見て脱出しなければ。
「は~い、注目!」
元寮長のヤツ、すっかりできあがっている。
「これから、みんなの先輩の、万年金欠青年、かねのないき君が飛びましゅっ。」
名前間違ってるし。
「ナイキ、ナイキ!」
ありゃりゃ。すっかりナイキになっちゃったよ。ここまできたらさすがに一年の手前、引き下がることもできない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます