第18話 ふっとんだっちゃ

「そういわれると、直前に布団屋と連れションに行きましたね。そこで、何か会話をしたかもしれませんね。南田君が飛び降りた後、かれは相当慌ててましたから。」

「布団屋さんは、お友達なんでしょ。そんなこと言っていいんですか?」

 僕は、友人なら不信な点があっても庇って当然だろうと思っていた。

「拙僧は仏に仕える身。もし、誰かが故意でないにしても過ちがあったのなら故人と真摯に向き合っていただきたい。そうすることで、故人も遺族も救われるのです。」

 なるほど、坊主らしい答えだ。じかし、だからといって僕の中での容疑が晴れたわけではない。


「せっかくですから、今回は純粋に友達として参加してあげてください。その方がやつも喜ぶでしょう。」

 坊主は少々、不機嫌そうな顔になった。そりゃあ、せっかくの儲け話が消えたんだ。さらに、いくばくかの費用を払わねばならない。機嫌も悪くなるだろう。


 とりあえず、布団屋に供養の件を伝えるということで、とぼけて場所を聞き出した。が、裏でどんな情報が飛び交っているかわからない。ここは、フェイントとしてお茶屋に向かおう。


「いらっしゃいませ。なにかイベントでお使いですか?」

 愛想のよさそうな店主が現れる。渋沢というより甘茶と言った感じ。

「友人の法事で、何かよさそうなものはないかと。」

「それなら宇治のお茶なんかいかがでしょう。」

「こっちに、ほうじ茶ってのがありますけど。」

「それは、焙じたお茶のことで、法事に使うお茶じゃありません。」

 そんなことは百も承知。しかし、相手を油断させるにはうつけを演じるのが一番。

「そうなんですか。でも、番屋で飲まれてた粗末なお茶だから番茶ってんでしょ。」

「いえ、一番最後の収穫で、晩茶といっていたのが、番茶になりました。」


「亡くなられたお友達もお若いんでしょうね。ご病気か何かですか。」

「いえ、自殺らしいんですよ。」

「そうですか、それはご愁傷様です。実は、わたしも先日、同級生が亡くなりまして。それが、運悪く私の目の前で飛び降り自殺。なにがあったんでしょうね。かわいそうで、うちの仏壇に写真を入れて先祖といっしょに供養してます。懇意だったというわけではないんですが、それくらいしかしてあげられなくて。」

 どうやら、悪人ではなさそうだ。彼への疑惑は吹っ飛んだ。

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