第17話 坊主が屏風に

 天使の骨が地大寺にあったはずだ。いきなりだったうえ、実家にはまだ墓が無かったので、薦められるままに納骨堂に安置してある。


「おや、ご親族のかたですかな?」

 拝んでいると若い僧侶が声を掛けてきた。

「南田君と同級だったので。」

「ご愁傷様です。」

 僧侶は神妙な面持ちでかるくお辞儀をした。

「今度、供養をしようということになりまして、お寺を探してたんですが、こちらに安置されていると伺いまして。」

「そうでしたか。実は私も中学の時の同級でして。そういうことなら、ぜひともお力になりたい。」

 僧侶は顔色一つ変えずに、しれっという。

「ただ、内々なものですからたいしたお礼はできないかと。」

「いえ、お気持ちですから。奥でお話しましょう。」

 このままでは相手のペースだ。

「天使にも聞かせて安心させてやりたいので、他のお客に迷惑でなければこちらでお話をしたいのですが。」

 周りを見ても誰もいない。だいたい、平日の昼間にお参りに来る客なんてそういるもんじゃない。

「そういうことでしたら、このままで。」

 そういうと、屏風をしきりにして、外から見えないように座りなおすと話を続けた。

「出張での法要となりますと通常か2名で伺うのですが。」

「狭いお店なのでなるべく少人数でお願いしたいです。ところで、法要にあたって死因とか状況を説明したほうがよろしいでしょうか。」

 僕はわざと何も知らないふりをして丁寧に尋ねた。

「いえ、大丈夫ですよ。」

「でも、どんな状況とかわからないと死者の気持ちとかわからないでしょ。」

「状況は存じてますので。」

「どんな状況だったんですか?」

 相手は、言葉に詰まった。上目遣いに少しの間、宙を見ていたが、

「誤解しないでくださいね。事故の時にちょうど居合わせましてね。同窓会の打ち上げだったんですが、いきなり窓から飛び降りましてね。みんなびっくりしたんですよ。」

 核心に迫ってきた。ここは慎重に話を引き出したい。

「よくあるテレビのドッキリとかみたいな感じですかね?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る