第16話 コロンダ

 玄関で見送る相手に振り向いたまま、外に出ると3段ほどの階段を踏み外して転げ落ちた。

「イテテテ。」

 腕をさすりながら立ち上がる僕に

「大丈夫ですか?」

 といって、店主が駆け寄ってくる。


「すいません。もう一ついいですか?うっかりしてました。いえ、お手間はとらせません。」

 僕は、心配そうに見つめる相手にこう切り出した。相手は不意をつかれて、おどおどしてる。


「いえね、うちの親もそろそろ終活を始めようかなんて言い出しましてね。そこで、個人的にお伺いしたんですが、どこか近くにいいお寺ありませんかね。特に宗派とかもこだわりはないんですけど。」

 店主は、自分たちの話ではないと知って、一気に緊張が解けたように顔が緩んだ。

「それなら、地大寺さんとかどうです。うちにもパンフレットがありますよ。同級生なんで、うちの紹介って言ってもらえば便宜を図ってくれます。」

「それは、よかった。ありがとうございます。しかし、みなさんお若いのに職が決まっていてうらやましい。わたしなんて、今年大学卒業なんで就職先を探さなきゃいえないんですが、とりあえず滑り止めにバイト始めましたけどね。」

「もしかして、同級生ですか?」

 相手は驚いたように聞き返す。

「わたしは、急遽後を継がなきゃいけなかったので、大学は1年で中退です。学生のほうがいいですよ。」

 店主はすっかり、営業口調にもどっている。

「今度、一杯やりましょうよ。いい店があるんですよ。」

 僕も、社交辞令で返した。そして天使の飛び降りた店の名前を出した。とたんに相手の目つきが厳しくなった。

「あそこは、ちょっと。ご存知かどうかどうか知りませんが、同級生が飛び降り自殺をしたところなので。」

 周りを気にしながら小声になる。

「お友達ですか?」

 僕はわざとしらばっくれて尋ねる。

「単に同じ学校に行ってただけで、友達ってわけじゃ。」

 相手はこたえずらそうに目をそらす。

「マスタが今度、供養を開くっていってたのはそれのことだったんですね。同級生ならちょうどいい。時間がとれれば行ってあげてください。時間がわかったらご連絡しますから。」

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