第9話 俺のスカッと

 こういう商談は、店長クラスでは上がりが低い。まずはオーナーと直接交渉する。チェーン店自体は一店舗の不始末ぐらいでは動いてくれない。ここは、一番困っているであろう、その店のオーナーに交渉してみよう。オーナーの住所は登記されているので簡単にわかる。しかし、アポ無し実績無しでは、会ってくれるとは思えない。

 とりあえず、臨時で作った名刺とチラシを置いてくる。会社から来る他のパートからのネットでの情報集めの依頼をこなしながら電話を待つが、そう簡単には連絡は来ない。ここは、幽霊の天使に頼むしかない。捨てても、戻って来る名刺。ある時はポケットに。また、ある時は、ベランダに。ストーカーと間違われそうなくらいしつこいが、わらにもすがる思いのときというのは、これは何かの啓示とでも思うのだろう。数日繰り返すと、電話がかかってきた。

「それは、きっとご先祖様のお導きです。このご縁を大事にされたほうがいいと思いますよ。調査費用は内容によって変わります。詳しい内容については会社から説明させますけど。調査結果に基づいたアドバイスまでいたしますから、お徳だと思います。」

 しばらくして、会社から調査はオーナーから店長には内緒ということで成立したと連絡が入った。


 調査は2種類で、ネットでどういった風評が広がっているのかということと、街頭で店の評判を直接聞いてみるというものだった。そこから、真の原因を見つけること。ネットでの情報収集と分析とアドバイスは会社がサポートしてくれるというので、僕は街頭で店の場所を尋ねるふりをして、評判を聞いてまわることになった。

 こんなもんさっさと終わるだろうと思ったのが甘かった。調査4時間以内で最低100人。時間がオーバーしても時給は出ない。分析等はそれ以外の日に2時間程度。実際に色々な年代に100人、聞き取りを行うのはしんどい。場所を変えながら聞いて回る。一番効率がよかったのは同じ学校の連中に聞いたときだ。2時間で50人には聞けた。

「就職記念に合コン企画してんだけど。」

 というと、皆あっさり答えてくれる。しかし、外で50人は話も聞いてくれない。6時間ほど尋ねてもまともに答えてくれたのは10人。後、行きつけの店の従業員が5人。

 会社に事情を説明すると、4時間割る100人、掛ける65人で実働2.6時間といわれた。ひどい話だ。何だかもやもやしてすっきりしない。

「俺のスカッと、どこやった。」


 後で知ったことだが、街頭調査では、標準語や地元の言葉は使っちゃいけないらしい。方言や片言の日本語を使うといいというのだ。ナンパや客引きと思われて警戒されないためらしい。さらに、日本人は見下した相手に、自慢する傾向がある。いわゆるしったかぶり。さらに、ターゲットは待ち合わせなどでたむろしている連中。集団でいると噂話が発展しやすいという。

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