第4話 バイト

「就活か。おれなんて学がないから、バイト暮らしだったな。」

 天使のやつが思い出を語る。

「面白いところじゃ、カケコ、ウケコ、ダシコ・・・」

「それって、今話題の特殊詐欺ってやつじゃ・・・」

 身をかがめ辺りを見回しながら、小声でやつの言葉をさえぎる。


「いやいや。カケコってのは運動会で親子行事ってのがあるだろ。足の遅い親だと恥ずかしいとか、クラス対抗で足をひっぱるとかで、子供がいやがるんだな。だから、ヒャッキンでダイソウ。百メートル均一料金での代走するんだ。」

「ウケコは?」

「TVとかで客席で笑う、つまりウケを演じる。」

「じゃ、ダシコは?」

「出汁粉の製造。なにが大変って、帰り道に野良猫に襲われる。出汁の匂いがけっこうつくんだ。」

 ふ~ん。世の中変わったバイトがあるもんだ。


「こっちは、まともな就職を狙ってるんだ。」

「いきなり、正規社員はきびしいぞ。みんな、前からバイトしたりして出入りしながら、実績を作ってくからな。」

 はやり、社会人ともなると言葉に重みがある。

「天使は実家を継がないのか?」

 確か、金属関係の仕事だったと思った。

「金属加工は溶接の仕事が多いからな。溶接工ってのも、どっかで技術を磨いてからでないと信用がない。だから、資格を取ってもすぐには仕事にならないんだよ。」

 どこの世界も資格よりも実績というわけか。

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