第32話 これが異世界の日常だ!!(終話)
休みから一転、あたしたちはせっせと仕事の準備を始めた。
今度の仕事は、レッドドラゴン討伐だ。
並の武器は跳ね返す鱗に包まれ、一撃必殺のブレスをもつ相手に、果たしてどう向き合うかが思案のしどころだった。
「なぁ、予備弾庫までいっぱいにしたけれどよ。TOWなんて役に立つのか?」
あたしが問いかけると、ロータスが笑った。
「なに、相手は戦車だと思え。起爆と当時に分厚い鎧をメタルジェットがぶち抜いて、こんがり肉をローストするらしい。前例がいくらでもあってな。問題ねぇよ!!」
「前例あるのかよ。とんだ冒険野郎だぜ!!」
あたしが苦笑すると、イリーナが小さく笑った。
「今時、ドラゴン退治はミサイルなんだって。もはや、この世界は火薬と硝煙の匂いが漂う世界だぞ!!」
エリーナが言ったとき、最終点検をしていたロータスが砲塔上のハッチから身を乗り出した。
「現場はここからほど近い離島だ。まずは、輸送機だぞ。いちいち港まで移動しなくていいのは楽だぜ!!」
ロータスが笑った。
「ここは内陸だもんな。否とまで移動すると、これだけで半日かかるからな!!」
あたしは小さく笑みを浮かべた。
「よし、いけ!!」
「あいよ!!」
ロータスの声に、イリーナが反応した。
車がガタガタと動き出し、そのまま飛行場に向かった。
輸送機に車を載せ、あたしたちは初心者の街を発った。
目的地の島までは、三十分も掛からない短距離の飛行予定だった。
「目標のドラゴンは、島にある山に住みついているらしい。下手に刺激したくねぇから、上空からの偵察はなしだ。このまま降りるぞ」
操縦桿を握ったロータスが小さく笑った。
輸送機は島の飛行場の滑走路に降りた。
誘導路を辿り、駐機場に到着したところで、輸送機は止まった。
「さて、気合い入れてけよ。さすがにブレスには、最新のM2A3でも耐えられねぇと思うからよ!!」
「まあ、ドラゴンなんていねぇ世界らしいからな!!」
あたしは画面の照度を調整しながら、ロータスに返した。
「さて……おっ、誰かきたぞ。間違っても撃つなよ!!」
「安心しろ、あたしはそこまでバカじゃねぇ!!」
ロータスが車から降りて、接近してきたみるからに困った様子のおっちゃんと話始めた。
インカムを外していったので、なにを話しているかまでは分からなかったが、恐らくドラゴンについてであろう事は、簡単に推測できた。
しばらくして、おっちゃんが心配そうに見る中、ロータスが車に戻った。
「あれがここの村長らしいんだがよ、依頼出して来たのが私たち込みで十二パーティだって。今度こそ、よろしくお願いしますってよ。楽しくなってきたじゃねぇか!!」
「楽しむな!!」
「ここの人にとっては、心底不安だろうからね。ちっこい島だから山なんて一個しかないし、登山道を登っていくしかないね。まあ、あればだけど」
イリーナの笑い声が聞こえ、あたしたちは山に向かった。
「色々走り回ったけど、これが唯一の登山道だね。車幅ギリギリだな……」
「私が誘導する。落っこちるなよ!!」
ロータスが車の前方に立った。
「あたしもみるよ」
あたしは椅子の上に立って、砲塔上ハッチから身を乗り出した。
「イリーナ、ゆっくりだぞ!!」
「分かってるよ。よし、行くぞ」
前方のロータスが全身を使って合図する中、車がゆっくり前進を開始した。
かなりの急坂で隘路という悪条件だったが、なにも問題がないように車が進んでいくと、もう少しで頂上というところで、ロータスが停車の合図を出して、急いだ様子で車に戻った。
「リズ、準備だ。あの野郎、頂上で悠々と昼寝ぶっこいてるぞ!!」
ロータスの声であたしは椅子に座り直して、画面をみた。
すると、僅かながら真っ赤な鱗に覆われたドラゴンが、地面に転がっている様子が見えた。
「これ以上は気がつかれるかもしれん。リズ、できるだけ一発で決めろ。頭がオススメポイントだ」
「分かってるよ……ロックオン。発射!!」
ミサイルが発射され、あたしが照準しているままに飛んでいき、ドラゴンの頭部に命中した。
「よし、よくやった!!」
「……その言葉は早いぜ。みてるだろ、ゆっくり動き出したぞ。もう一発いくぞ!!」
ドラゴンが起き上がったことで狙えるようになった喉元めがけ、あたしはもう一発ミサイルを発射した。
狙い違わず目標に着弾したミサイルが爆発すると、巨大な頭と首からもげるように落ちた。
立ち上がりかけていたドラゴンの体も地面に崩れ落ち、まさに先手必勝の戦いは終わった。
「よし、今度こそよくやった!!」
「……ま、マジで対戦車ミサイルで倒せるぞ。ビックリだぜ!!」
あたしは苦笑した。
「よし、帰るぞ。帰りはバック誘導だからな。しっかりよろしく!!」
イリーナの笑い声か聞こえた。
「こ、こっちの方がドラゴンより怖いぜ!!」
こうして、違う意味で緊迫した対ドラゴン戦は終わったのだった。
喜びの村長から依頼書にサインをもらい、車を輸送機に積み込んであたしたちを乗せた輸送機は、初心者の街目指して離陸した。
飛行時間が短いので、軽く雑談程度でもう着陸になった。
輸送機が駐機場に駐まると、ロータスとイリーナが笑みを向けてきた。
「ミッション・コンプリートってか!!」
あたしは小さく笑って、親指を立てた。
とまあ、これがあたしたちの日常だ。
楽しいかどうかはその人次第だが、あたしはなかなかいいと思っているぞ。
なんでも、そっちの世界とここを繋ぐ出入り口は無数にあるとかないとか……。
まあ、とにかく見つけたら入ってみてくれ。
じゃあ、またな!!
(完)
異世界の日常 NEO @NEO
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