第31話 ぽっかり空いたスケジュール

 仕事もなくぽっかり空いた一日。

 建て替えられたばかりの家の一階で、さてどうしたものかと頭を捻っていると、ロータスが椅子から立ち上がった。

「まあ、ダラダラしててもしょうがねぇから、近場にいこうぜ!!」

「そうだな、出歩きゃなにかあるだろ!!」

 あたしも椅子から立ち上がり、イリーナも立ち上がった。

「近場ってどこ行くの。この辺、草原しかねぇぞ!!」

「だったら草原をひたすら走って、弁当でも食おうぜ。たまにはのんびりしようぜ!!」

 ロータスの声で決まり、イリーナが弁当の買い出しに行った。

「狭いけどブラッドレーでいくぞ。そんな遠出はしないけどよ。念のための処置だ!!」

「ああ、その辺は任せるぜ!!」

  というわけで、三十分後には家をあとにしたあたしたちだった。


  あたしたちを乗せたブラッドレーは、初心者の街周辺に広がる草原をひた走っていた。

「遠足行くにも要武装ってね。この世界は怖いぜ!!」

 あたしは目の前の画面を見ながら、あたしは笑った。

「その通りだな。いったそばからお客さんだ。みてると思うが、十二時にワームだな。種類までは特定できねぇが、どれも大して変わらん!!」

「ああ、みてるぜ。キモいのが群れになってやがるな。めんどくせぇから、ミサイルでぶっ飛ばしてやる!!」

 ワームとは簡単にいえば、巨大なミミズだ。

 強酸性の液体を飛ばしてくるので、なるべく接近は避けた方がよかった。

「ロックオン、発射!!」

 デカい音がして、ミサイルが一発発射された。

 それが、ワームの集団に飛び込み爆発した。

「よし、いいぞ。平和なもんだ!!」

「これで、平和かよ!!」

 ロータスの言葉に、あたしは思わず笑った。

「よし、ここらでメシにしようぜ。イリーナ、停車!!

「あいよ!!」

 車が止まり、あたしたちは草原に降り立った。

「まあ、確かに平和だな!!」

 あたしは草原に座り、草の上に寝転がった。


 弁当を食ってしばらく適当に話し、あたしたちは再び車に乗った。

「よし、もう昼を大きく回って夕方が近い。暗くなる前に家に戻るぞ!!」

「はいはい、いきますよっと!!」

 インカムからイリーナの声が聞こえ、車はガタガタと走り始めた。

「この辺は魔物も少ねぇな。まあ、初心者の街にいる連中が小銭稼ぎに根こそぎ倒してるからな!!」

「……あたしたちも、その仲間だけどな。最近はやらなくなったけど」

 あたしの呟きにロータスとイリーナが笑った。

「もう、その時代は終わったぜ。勝手が分からなかった一ヶ月くらいだろ!!」

「そうだっけか。確かに、最初はなんだここって思ったけど、今や家がある街だぜ!!」

 ロータスの声に、あたしは笑った。

 結局、帰りは魔物も出ず、特に問題もなく初心者の街に戻った。


 家に戻ってすぐ、自分の世界に戻ったはずのスズキがやってきた。

「大事なもの忘れちゃってさ。回収がてら寄ってみたよ。なんか、急に立派な家になっててビックリしたよ」

 スズキが心底驚いたという感じでいった。

「あの飛行場の建物もいい加減クソボロいからよ。悪いこといわねぇから、リフォームした方がいいぜ」

 ロータスが笑った。

「悩んではいるんだよね。今の趣も捨てがたいからさ。お金もかか……」

「金はいらん。暇してる馬鹿野郎が勝手にやるだけだ。今の趣をなるべく残してっていえば、ちゃんとやるぜ。この際、やっちまえよ!!」

 ロータスの声に、スズキが頷いた。

「分かった、お願いしよう。雨漏りだけは閉口してたからね。それじゃ、マジで時間がないから、急いで戻らないと。じゃあ、またよろしく」

 スズキが笑みを浮かべ、手を振って出ていった。

「さて、私は連絡するか。ついでに様子もみてくる」

 ロータスが家から出ていき、外からランドローバーのエンジン音が聞こえてきた。

「よし、私たちは温泉にいってくるか!!」

「おう、いこうぜ!!」

 あたしとイリーナは家を出て、温泉を引いている公共浴場にむかった。


  温泉から家に戻ると、ロータスが拳銃の分解整備をやっていた。

「おっ、お前らだけ温泉かよ。まあ、いい。お前らもちゃんと整備やってるか。いざって時はな!!」

 ロータスは目を閉じ、テーブルの上にあった銃の部品を瞬く間に組上げてみせた。

「このくらいお友達になれれば、いう事ねぇぞ。イリーナが出来るのは知ってるけどよ。リズはまだダメだろ。こればかりは!!」

「出来るわけねぇだろ!!」

 思わず怒鳴ったあたしの肩に、イリーナがサッと手を乗せた。

「ここまできたら、ある意味末期だからリズはいいよ。ロータスも変に煽らないの!!」

「やべぇ、母ちゃんに怒られたぜ!!」

 ロータスがあっかんべーをしたが、イリーナは苦笑しただけだった。

「なんでぇ、つまんねぇの。まあ、イリーナをからかっても意味がねぇな。明日出発でいいな。次の仕事だぜ!!」

  ロータスが斡旋所で引き受けた依頼書を掲げてみせた。

「またSランじゃん。うげぇ、レッドドラゴン討伐だし!!」

  イリーナが声をあげた。

「レッドドラゴンって、確かこの世界でも最強クラスだったような……」

  あたしが呟くと、ロータスが笑った。

「リズだって最強クラスの神だぜ。なにも問題ねぇよ!!」

「……困った時の神頼みかよ!!」

  あたしは笑った。

「よし、明日の出発に備えて準備しようか。ちょっと遠いしね」

「そうだな。半日はかかる移動だな。食料と水もな。忙しくなってきたぞ!!」

 ロータスが笑みを浮かべた。

「な、なんか、幸せそうだな……」

「当たり前だろ。ここでグデグデしてたら、腕が錆びちまうぜ!!」

「同じく!!」

 ロータスとイリーナは笑みを浮かべた。

「あ、アクティブだね。まあ、あたしも退屈してるよりはいいか!!」

 というわけで、明日の出発に向けて準備を開始したあたしたちだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る