第30話 開店休業日

 久々に暴れた翌日、スズキとトモミは自分の世界に戻っていた。

 なんでも、基本的には一週間に二日程度の割合でこっちにくるらしい。

 たまの休暇がここというのは、なんだか羨ましかった。

「はぁ、なんか派手に力を使ったせいか、全身が筋肉痛だぜ……」

 朝から温泉に浸かりつつ、あたしは苦笑した。

「若いもんがなにをいう。ってね!!」

 体を洗い終えたイリーナが、湯船に入ってあたしの横に座った。

「まあ二、三日は休む予定だぞ。あんなの毎日やってたら、堪ったもんじゃなねぇ!!」

「一気にレベルアップしちまったからな。ったく!!」

 やや遅れて、ロータスが湯船に入った。

「いいじゃねぇか、それだけ信用されたってことだ。しかも、依頼って形でこない限りはタッチしなくていい。四六時中どっかで……なんてみてる必要はねぇんだ。私が楽できていい!!」

「それ……なんだ、ロータスがやってたのか。納得だな!!」

  あたしは小さく笑った。

「当たり前だろうが。まあ、いい。しばらく休みだ。私だって休みたいぜ!!」

  ロータスはイリーナの肩を叩き、湯船から出ていった。

「リズと仲良くやってろだって。なにすっか?」

「ロータスがいねぇなら、街からはでねぇ方がいいだろ。久々にバターコーヒー飲もうぜ!!」

 イリーナが笑った。

「あの微妙なヤツね。はいはい」

「そう、その微妙さがどうにも癖になっちまったぜ!!」

 あたしはイリーナに向かって笑った。


 温泉から上がって小さな喫茶店に入ると、あたしは迷わずバターコーヒーを頼んだ。

「私も同じものにしておくか。よろしく!!」

  オーダーが終わってしばらくすると、バターコーヒーが運ばれてきた。

「なんだろう。この微妙な感じは……」

「そうだねぇ、美味いと不味いの境界線だねぇ」

  と、しばらく雑談を続け、あたしたちは喫茶店をでた。

「おう、ロータスが戻ってるかもしれないね。一度あばら家に戻ろうか!!」

「そうだな、戻ろう!!」

 あばら家まではさほど遠くない。

「あれ、戻ってねぇな……」

「どこにいったんだかね。まあ、いいや。ゆっくりしようぜ!!」

 あたしたちが家でテーブルの椅子に座った途端、ワルキューレたちがやってきた。

「おう、監督。暇つぶしに街の建物をリフォームしてまわっているんだ。このクソボロい家も直すって決めてたからよ。まあ、この辺り全部やるけどな。風が吹いたらぶっ飛びそうだぜ」

「狭くて入らねぇからって、ベッドじゃなくて床に布団じゃ、砂埃とか堪ったもんじゃねぇだろ。家の外で待っててくれれば、すぐ終わるぜ!!」

 ワルキューレたちが笑った。

「た、タイミングが微妙に悪いな……おう、好きなようにやってくれ!!」

 イリーナがあたしの手を取り、家の外に出た。


「さすが、この程度は当たり前ってか?」

 ワルキューレたちは、あたしたちの家をあっという間に、ごく普通の二階建てに建て替えた。

「相変わらずだねぇ!!」

 イリーナが笑った。

 すると、この辺りに住む通称「流れ者の巣」の住民が出てきて、あたしたちの家をみて、ワルキューレたちに声をかけ始めた。

「……建築ブーム到来か?」

「建て替えブームだな。やっとこれで、この街の住民になれた気がするよ。つまり、この世界のね!!」

 イリーナが笑みを浮かべた。

「こりゃまた、派手に建て替えたな!!」

 いつの間にか戻ってきたロータスが 家を指さして笑みを浮かべた。

「全く、いきなりきて建て替えすって、びっくりしたぞ!!」

「いや、暇だってうるせぇから、家の建て替えでもやってろっていったら、本当に始めちまってよ。まあ、いいじゃねぇか。中に入ろうぜ!!」

 あたしたちは、建て替えられたばかりの家に入った。


「なるほどなぁ、埃が立つ一階は居間にして、二階はベッド三つぶち込んで寝室にしたか」

 間取りはロータスが行ったとおりで、とにかく寝るときだけ二階を使い、一階は広くなったが、今までと同じ使い方をするように出来ていた。

「二階建てにすればいいって発想は、不思議となかったな。あっても出来たか分からねぇけど!!」

 あたしは思わず苦笑した。

「リズは二階建ての家に慣れてねぇだろうからな」

 ロータスが笑ってテーブルの椅子に腰を下ろした。

 あたしたちも腰を下ろすと、ロータスが苦笑した。

「いやよ、一応偵察をかねて斡旋所にいってきたんだが、ロクな仕事がなくてな。カリカリしてる連中が怖いから帰ってきた。私だって、無駄な戦いはしたくねぇからよ!!」

「そりゃそうだな。ってことは、今日は暇ってことか?」

 イリーナがロータスにいった。

「仕事ばかりじゃねぇよ。暇だがそれならそれで、どっか遊びにいくって手もある。まあ、ゆっくり考えようぜ!!」

 ロータスが小さく笑い声を上げた。

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