第29話 バタバタの一日、終了

「じゃあ、私たちは戻らないといけないからさ。無茶するなよ」

「はい、気をつけて下さいね」

 温泉から上がると、スズキとトモミは飛行場に向かっていった。

 あばら屋に三人で落ち着くと、時刻はちょうど晩メシ時となっていた。

「いつも弁当を買ってるから、たまには何か作るか。ちょっと、食材を調達してくる」

 イリーナが買い物に出ようとしたとき、ロータスがさっきスズキに渡した麻袋の半分を放った。

「なんか美味いものでも食おうぜ。こういう時はな!!」

「あいよ、任せろ!!」

 麻袋を受け取ったイリーナが、あばら屋から出ていった。

「アイツ、料理出来たっけ?」

 ロータスが笑った。

「まあ、出来ると信じようぜ!!」

 あたしは小さく笑った。


「ダメだ、この街には兵器関係の店しかない。どうも、外食が当たり前みたいだねぇ。しょうがないから、いつもの食堂だ。いくぞ!!」

「それは最初にみただろ。このクソボロい家にも調理する場所がない。なにをしようとしてたんだよ!!」

 ロータスが立ち上がり。家から出るついでという感じで、イリーナの肩を叩いた。

「無理に母親めいた事をしなくていいぞ。料理が得意なのは知ってるがな!!」

「母親にはなれないだろうけど、いいじゃん」

「う、上手いのか。そりゃ食いてぇな!!」

 イリーナは笑み浮かべた。

「そのうちどっかで機会があったらだね。今日は、取りあえず食堂だ!!」

「おう、あそこは安くて美味いからな!!」

「あそこも飽きそうで飽きないんだよなぁ」

 というわけで、あたしたちは三人であばら屋を出た。

 食堂は目の前といっていいほど近かった。

 扉を開けて中に入ると、適当に空いている席に三人で腰掛けた。

「あら、いつものメンツだ。注文もいつも通りでいいの?」

「おう、いつも通りでいいぞ!!」

 店のおばちゃんにエリーナが返し、しばらくして店の定番日替わり定食がテーブルに運ばれてきた。

「ざっくりいって、今日は魚だよ。今さっき、珍しく内陸のここまで空輸されてきてね。まあ、ゆっくりしていってちょうだい」

 おばちゃんが笑みを浮かべてテーブルから離れていった。

「空輸ねぇ。誰だろ?」

 街には、こういうここのために必要な仕事に従事している連中もいるが、食料を空輸しているヤツの話はきいたことがなかった。

「へぇ、あの馬鹿野郎どもも魚がなんであるかっていう、基本的な事は知っていたみてぇだな。おい、食っちまおうぜ!!」

「んな、アイツらが!?」

「へぇ、意外……でもないな。なんでもやりそうだし!!」

 ロータスが苦笑した。

「リズと関わってからだぞ、全員メシなんて食ったの。よく分からねぇんじゃねぇかって、心配になっちまってよ。ちょうどいいからって、やっとけっていっといたんだけど、これなら問題ねぇや!!」

「これで妙なもの買ってきたら、どうするつもりだったんだよ!!」

 ぼぞぼぞ種明かししたロータスに、あたしはすかさずツッコミを入れた。

「それならそれで、その妙なものをここのおばちゃんが買うわけねぇから、自分で食うしかねぇな。これも、適応訓練だぜ!!」

「適応訓練ってなんだよ。ったく!!」

 イリーナが笑みを浮かべた。

「ほれ、いいから食え。冷めちまうぞ!!」

「おっと、いただきます」

  あたしはフォークとナイフを手に取った。

「うめぇ!!」

「……出やがったぜ」

「……って事は、食っても安全って事だな」

 あたしに続き、ロータスとイリーナも、フォークとナイフを手に取った。

「そうだな、確かに美味いな!!」

「……調理前の姿はみないでおこう」

 ロータスとイリーナが笑った。

 こうして、あたしたちは次の仕事へ目を向ける事になったのだった。

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