第27話 禍々しきもの

 あたしたち全員を乗せた車は、兄ちゃんからある程度の距離を開けて駐まった。

「よし、いくぞ!!」

 後ろも含めあたしたち十名は、薄ら笑いを浮かべている兄ちゃんと対峙した。

 あたしが一歩前に出ると、兄ちゃんはスッと剣を構えた。

「おっと、そういうオモチャが出てくるなら、ここは私だな」

 そっとあたしを退け、ロータスが剣を抜いた。

「リズ、こっち……」

 小声でイリーナに引っ張られ、あたしは後方へ下がった。

「……村の中が怪しい。あれとロータスが始めたら、その隙に村に入るよ」

 イリーナの耳打ちに、あたしは頷いて答えた

「じゃあ、いくぜ!!」

 ロータスの声に剣と剣がぶつかり合う派手な音が聞こえると、イリーナがそっとあたしの肩を叩いた。

 ロータスと激しく剣を交えている間に、兄ちゃんは村の出入り口から離れていった。

「今だ」

「分かった」

 押し殺したようなイリーナの声に引かれるように、あたしはそのあとに続いた。

 そのまま素早く村の中に入ると、適当な木箱の裏に隠れた。

「やっぱりね。全部偽物ってやつだ。これだけ同じ顔が揃うと。キモいぜ」

「「うわ、なんだこれ」

 村の中は、今までの兄ちゃんと全く同じだった。

 そんなのがウロウロしている様子は、ひたすら不気味だった。

「これじゃ、普通の人は期待できないね。諦めて、全部倒す方向で。あの依頼書、発行が3ヶ月も前だったよ」

「これ全部って、少なくとも二十人はいるぞ。まさか、村人がこうされたんじゃ……」

 イリーナは笑みを浮かべた。

「だったら、なおさら倒さないと。ずっとこのままだよ」

「なるほど、そうか……」

 あたしはため息を吐いた。

「気が進まないのは同じだよ。気が変わらないうちにやっちまおう」

「……許さねぇぞ。ったく!!」

 あたしは木箱の陰から飛び出すと、間髪入れず神の力を解放した。

 村をウロウロしていた兄ちゃんや建物などが、白い光の奔流に飲まれて消えた。

「よし、在庫一掃だぜ。そう思わなきゃ、やってられん!!」

「全くだぜ。まだ残ってる建物をみるぞ!!」

 数件しか残っていなかったが、残された家を見て回ったが、特にこれと行ったものはなかった。

「よし、あと一件だな。いくぜ!!」

「気をつけろ。こういう油断がヤバい」

 駆け出そうとしたあたしの肩を掴み、イリーナはあたしを見つめた。

「……大丈夫だ。問題ねぇ」

「よし、いくよ!!」

 イリーナを先頭に最後の家の扉に手を掛け、一度離した。

「なんかいる……」

 つぶやきと共に、今回は近いからとあたしのポケットに入っていたスズキの無線機を手に取った。

「航空支援要請、村の西……」

 無線交信が終わると、家から少し離れて地面に伏せた。

「リズもやって!!」

「わ、分かった!!」

 あたしも伏せると、しばらくして多数のミサイルが家にぶち当たり、粉々に吹っ飛ばした。

「ま、また、派手だねぇ」

「それはいいから、行くよ!!」

 慌てて立ち上がると、跡形もなく吹っ飛んだ家の瓦礫の上で、のんびり茶をすすっているジジイがいた。

「いや、驚いた。ここまでたどり着けるとはな。せっかく、これのおかげで遊べたのじゃがな」

 ジジイは自分の右手首にある、なんだか禍々しい意匠が施された腕輪をみせた。

「分かったぜ、テメェが依頼を出したんだろ。村人を全員こんなにしておいてよ!!」

 あたしは素早くショットガンを抜き、ジジイに銃口を向けた。

「田舎の村でなんの価値もない生活をしている連中に、役割を与えただけだぞ。この悪魔化する腕輪でな。当然、ワシも変身出来る」

 腕輪が光った瞬間、拳銃の発砲音が響き、腕輪がジジイから離れて飛んでいった。

「ば、バカな事をしたな。このタイミングで腕輪が外れると!?」

 ジジイの姿が急激に変化し、最終的には黒い水溜のようになって、瓦礫の上に落ちた。

「……バカはテメェだ!!」

 その水たまりをショットガンで撃ち、無駄なのは分かっていたので、トドメに神の力で蒸発させた。

「ふぅ、終わったか……」

「いやぁ、なんかムカついてこのくらいじゃ収まらないんだけど、ここの住民も悪魔になって喜んでたみたいよ。過去お見通しによると!!」

 イリーナが苦笑した。

「バカしかいねぇ村だったのかよ。そりゃ、依頼を出してあたしたちみたいなのを呼び込まないと、遊び相手がいねぇってか。迷惑な野郎どもだな!!」

「まあ、どうりでSランのはずだよ。こんなの、普通にやってたら絶対やられるもん。そう思うと、さっき可哀想とか思った自分に腹立つ!!」

 イリーナが苦笑した。

「よし、とっとと戻ろうか!!」

「そうだな。でも、あんな腕輪どこで拾ったんだ。売ってるわけねぇしな!!」

 イリーナがハッとした表情を浮かべた。

「入り口にいた野郎が諸悪の根源だよ。ロータスがヤバいかも!!」

「あの野郎か。残さず消してやる!!」

 あたしたちは、村の出入り口へと向かった。


 出入り口付近では、七人に囲まれた中で両者ボロボロになりながらも、いまだ剣による戦いが続いていた。

「ロータス、退け!!」

 チラッとあたしに目をやり、ロータスと七人が大きく跳んで空間を空けた。

 そこに向かって、あたしはフルパワーで神の力を解放した。

 空間すら歪めるほどの高エネルギーの塊が、最後の一人に容赦なく襲いかかった。

 右手を挙げ、何らかの力場で防ごうとしたようだが、あたしの力任せの一撃の方が遙かに強かった。

「消え失せろ!!」

 最後の一押しで無理矢理力を絞ると、悪魔としか考えられないそれは、あたしの光に包まれて跡形もなく消滅した。

「ったく、バカでも分かるぜ。あのジジイにオモチャみてぇに腕輪を渡し、好き勝手やってるのを眺めて喜んでたんだよ!!」

 あたしはため息を吐き、苦笑した。

「よう、姿が見えねぇからどうしたかと思っていたんだがよ、二人で村の中をクリーニンしてたのか、その話し方だとよ!!」

 剣を収めたロータスが、ボロボロの体で笑みを浮かべた。

「ああ、傷を治さないとな」

 あたしの体が光り、ロータスの傷が綺麗に治った。

「ほっときゃ治ったのに、もったいねぇな。あれだけ力を使ったあとだ、無理するんじゃねぇよ!!」

「別にどうって事ねぇけど、また怠いぜ!!」

 あたしがいうと、イリーナが無言で薬瓶を渡してくれた。

「やっぱ治った。あれだけ派手に暴れたら、くると思ったぜ!!」

「まぁね、それだけこの世界に干渉してるってことか!!」

 イリーナがあたしの肩を叩いた。

「よし、帰るぞ。なんか、疲れたぞ!!」

 イリーナの声であたしたちは再び車に乗り、初心者の街へと向かったのだった。

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