第26話 自称魔王出現

 今回受けた依頼は、今までの最低レベルであるFランクから、最上位のAランクを飛び越え、いきなり極めて達成困難を意味するSランクに跳ね上がってしまった。

 仕事内容は自称「魔王」を名乗る馬鹿野郎の討伐だった。

 たまたまいたスズキとトモミを巻き込み、さらには車の後部にワルキューレたち七名を乗せ、完全に戦闘モードになったあたしたちは、初心者の街から出撃したのだった。

「一応、この先にある小さな村を占領して、そこに鎮座ましまししているみたいだ。邪魔くさいからどけてくれって、困り果てて村人から依頼があったらしい」

 インカムから聞こえてくるロータスの声を聞きながら、あたしは間断なく目の前の画面を見つめていた。

 滅多にいかない北方街道を進んでいると、頭上をアパッチで飛んでいるスズキとトモミから無線が入った。

『ターゲットの村を補足。攻撃開始』

「ち、違う。ターゲットは村じゃない!!」

 しかし、あたしの声は届かなかった。

 砲塔上にある砲手用ハッチを開けて身を乗り出すと、今まさにアパッチからロケット弾が発射されるところだった。

 ドバババと発射されたロケット弾により、もう見えていた村のあちこちから火の手が上がった。

『掛かった。正体不明の何かが高速接近中。間違いなく自称魔王だろう。ヘルファイヤ発射』

 スズキの声と共に、再びドババっと何かが発射された。

「馬鹿野郎、そいつはロケット弾じゃねぞ!!」

 ロータスの声がインカムを通して聞こえるなか、急速に接近してくるなにかを目視で確認した。

 一斉に発射されたアパッチからの対戦車ミサイルは、接近してくる何かに着弾する寸前、光る何かに突っ込んで爆発した。

「結果っぽいな。こりゃ面倒だぞ」

 あたしは砲手席に戻った。

 接近してくるなにか……自称魔王しかいないと思うが、それに向けて手法の照準を合わせた。

「まずは、様子見っと」

 あたしは発射ボタンを押し、二十五ミリ砲弾を数発撃った。

 しかし、もう明らかに人だと分かる距離まで接近したそれは、両手に張った力場であっさり砲弾を弾いた。

 そして、道を塞ぐ形でそいつが立ちはだかった数秒後、車が思い切りわざとらしく体当たりで弾き飛ばした。

「あーあ、だせぇ!!」

 ロータスが笑った。

「よし、今のうちだ。後ろの奴らを降ろすぞ!!」

 車の後部ハッチからワルキューレ立ちが飛び出て、吹っ飛んだ自称魔王の様子をうかがった。

「……くる!!」

 吹っ飛んだ自称魔王が、立ち上がると同時になにか光るものを車に向かって放ってきた。 その隙を突いて、上空のアパッチが機首の三十ミリ機関砲を放った。

「なんだよ、さすが自称だぜ。こんな程度、余裕で防げるっての!!

 ロータスの体が光り、飛んできた何かは霧散した。

「おい、あんなの大した事ねぇ。お前ら袋叩きにしてやれ!!」

 ロータスの声で、外に降りていたワルキューレたちが倒れていた自称魔王をボコボコにし始めた。

「んだよ、もう少し骨があるヤツかと思ったらよ!!」

 ロータスの声が聞こえる中、あたしはずっと画面で村を監視していた。

「Sランがこの程度のわけがない。絶対、なにか……ロータス、十二時方向!!」

「な、なんでぇ……おっと」

 笑みを浮かべるロータスの顔が見えるようだった。

 車の正面に向かって、オッサンと兄ちゃんの境目くらいの野郎が、堂々と徒歩で近づいてくるのがみえた。

『いつの間にいたか知らないけど、ミサイルがロックオン出来ない』

 無線でスズキの声が入ってきた。

「ああ、お前らは安全圏に待避してろ。ヤバいと思ったら呼ぶからよ!!」

 ロータスが無線に応じた。

『了解、無理はするなよ』

 その間に、兄ちゃんが車の正面に立った。

「おもしれぇ、殴り合いでもすんのか。おい、降りるぞ!!」

「ろ、ロータス!?」

 ロータスがいち早く砲塔上ハッチから飛び出した瞬間、兄ちゃんが右手をかざして光り輝く何かを放った。

「ろ、ロータス!?」

「この馬鹿野郎!!」

 一瞬焦ったあたしとイリーナだったが、すぐさま兄ちゃんに殴りかかるロータスの姿がみえた。

「よし、今がチャンスだ。私たちも降りるよ!!」

「お、おう!!」

 ブラッドレーのどの武装を使うにしても、兄ちゃんの距離はあまりに近すぎた。

 馬鹿野郎七人は、まださっきのくそボロい方を攻撃するのに夢中だし、ロータス一人に任せるわけにはいかないだろう。

「ロータス、退け!!」

 降りた早々、あたしはショットガンを構えた。

「うぉ、危ねぇ!!」

 ロータスが距離を開けた。

「……一つ聞く、魔王を名乗っている馬鹿野郎はお前か?」

 あたしは兄ちゃんに声を掛けた。

「名乗っているわけではなく、実際そうなのだよ。例えば……」

 素早すぎて見えなかった。

 いきなり何かが体にぶち当たり、あたしは派手にすっ飛んだ。

「リズ!?」

 イリーナはあたしに声を掛けながらも兄ちゃんを睨み付け、拳銃に素早く手を掛けた。

「うん、そんなものは私には効かないぞ」

「……」

 イリーナ得意の超高速抜き撃ちショットが炸裂したが、兄ちゃんは涼しい顔で全ての銃弾を弾き飛ばした。

「……へぇ、面白い芸を持ってるじゃない。銃が効かないなら」

 イリーナは冷たい視線を兄ちゃんに送り、ナイフを取り出した。

「おい、コイツ肉弾戦も通用しねぇぞ。手がいてぇ!!」

 ロータスが声を掛けた。

「……なら、試して」

 あたしはイリーナが動く前に、神の力を解放した。

 純白の光りの奔流があたしから放たれ、兄ちゃんにぶち当たった。

「な、なに、神だと。バカな……」

 それが、兄ちゃんが残した最後の言葉だった。

「よし、実はリズのそれを待っていたんだ。とてもじゃねぇが、通常手段で倒せる相手じゃなかったぜ!!」

「ふぅ、正直ヤバいって思ったよ。でも、嫌いみたいだから神らしくやれっていうわけにもいかなくてさ。助かった!!」

 ロータスとイリーナが笑みを浮かべた。

「は、早く言って。嫌とかいってる場合じゃないから!!」

「それが分かっただけ上等だ。最初に出てきたのは、冗談かなんかの分身だろう。馬鹿野郎どもが、まだ遊んでやがるな。おい、いい加減にしろ。帰るぞ!!」

 ロータスの声が辺りに響いた。

「待て、アイツが分身かなにかだったら、消えねぇっておかしいだろ。あっちが本体じゃねぇか?」

 あたしは言い残して、七人でいまだボコボコにしている、もう一人の兄ちゃんに向かった。

「だぁぁ、神がきた。退け、逃げる!!」

 どうやら、七人に妨害されてその場から動けなくなっていた様子の兄ちゃんは、いきなりまばゆい光を全身から放った。

 さすがに戦い慣れしている七人は、この変化に反応して素早く距離を開けた。

「やってくれたな。魔王が魔王たる理由を……」

 なにか口上を述べ始めた自称魔王に、あたしは容赦なく神の力を放った。

 光をまとっていようが関係なく、まっすぐ進んだあたしが放った光は自称魔王を直撃した。

「だ、だから、逃げるって……」

  最後にそういい残し、綺麗に消滅した。

「これでいいのか?」

  あたしは背後のロータスに聞いた。

「いいように見えるがな。あの燃えまくってる村が気になるな。コイツもフェイクの可能性があるからな。よし、総員乗車。村の様子を探りにいくぞ!!」

 というわけで、あたしたちは再び車に乗り込み、村を目指す事にした。


「ほらな、いただろ?」

  村の出入り口にある門が開け放たれ、そこには三人目の見覚えのある兄ちゃんが立っていた。

「この気配……どうやら、やっと本体のお出ましだな」

「ロータス、無駄かもしれねぇけど、撃ってみるぜ」

 あたしは照準をあわせ、まずはミサイルを選択した。

「あれ……普通にロックオン出来るぞ。じゃあ、撃つ!!

 あたしは立て続けに二発ミサイルを放った。

 このミサイルは、撃ったあともずっと照準し続けなければならない。

 つまり、嫌でもそのミサイルを見続けないといけないのだが、そのおかげでミサイルに異変がある事に気がついた。

 なにか、純白の光を帯びていたのだ。無論、今までにこんな事はなかった。

「な、なんだ、ぶっ壊れたか!?」

「ああ、ある意味な。神の力がコーティングされたっぽい。起用な事するな!!」

「んな!?」

 どうやら、妙なものに変化したらしいミサイルは、兄ちゃんを直撃する瞬間に展開された力場のようなものに弾かれて爆発した。

「弾かれたぜ。神の力が乗ってるミサイルがな。これは、降りて決着つけるしかねぇ。リズしかいねぇな。他のはサポートに回る。いいか?」

「いいも悪いもねぇだろ。単純に力の強さでいったら、それしかねぇだろ!!」

 あたしは苦笑した。

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