第25話 いきなり

 雨の一日が終わり、翌日は晴れだった。

「とりあえず、今回の休みは今日までだから」

「はい、私もです」

 朝早く、あばら屋にスズキとトモミがやってきた。

「よし、それじゃなんか仕事すっか。馬鹿野郎どもも暇だろうしな。スズキはヘリも飛ばせるんだろ?」

「一応ね。分かった、私とトモミで航空支援しろっていうんでしょ」

  ロータスの言葉に、スズキが笑った。

「そういうこった、それが一番いいだろ。こっちの後ろには、馬鹿野郎どもから適当に選んで乗せていくさ。やっと、ブラッドレーらしくなったぜ!!」

 ロータスが笑った。

「って事は、人とか物を運ぶのはなしか!!」

「当たり前だ。そっちは、トラックなんかの方がよっぽど向いてるぜ。人がいなかったから、出来なかっただけだ!!」

「だったら、最初から呼べばいいのに!!」

 イリーナがツッコミをいれた瞬間、ロータスが固まった。

「馬鹿野郎、なんで早くいわねぇんだよ!!」

「……あたしにいわれてもね。痛い」

 あたしの肩を掴んでゆさゆさしてるロータスの頭に、スズキのゲンコツがめり込んだ。

「人のせいにしない!!」

「……うわ、スズキまでめり込み対象が広がったぞ」

 スズキが小さく笑った。

「今だけだぞ。仕事にはいったら、ロータスの方が格上だからね」

「はい、上官みたいな感じです」

「じ、上官!?」

 どうやら、スズキやトモミに取って、ロータスはそういう位置づけらしい。

「ったく、上官じゃねぇってのに。上げられると、ケツが痒いんだよ!!」

「そこは、相変わらずか。分かるぜ!!」

 あたしは小さく笑った。

「まあ、いい。斡旋所にいってくるぜ。あそこは荒っぽいのが多いからな!!」

 ロータスがあばら屋を出ていった。

「さて、どんな仕事かねぇ……」

「ドラゴン退治とかじゃね?」

 イリーナのつぶやきに、あたしは小さく帰した。

「ああ、あれか。大して怖くないぞ。地上で攪乱してもらえれば、その間にヘルファイヤ一斉掃射とかやればね。依頼料は高いから、それでも元は取れるよ」

「はい、あれは最高に気持ちいいですよ。あっちじゃ射程距離が長すぎて、海外にでも出ないと撃てませんから」

 スズキとトモミが笑った。

「そ、それで倒せるのか。意外だぜ!!」

 スズキが小さく笑った。

「そりゃ、ヘルファイヤだからねぇ。そのくらい、上等でしょ」

「よく分からんが、ヘルファイヤって野郎はすげぇって事か!!」

 なんてやってると、ロータスが帰ってきた。

「お前な、Fランクの依頼にドラゴン退治なんてねぇよ。せいぜい、自称『魔王』の退治くらいだ。自称だからな!!」

「出たな、どこにでもいる痛い野郎が!!」

 ロータスが持ってきた依頼書をイリーナがひったくって、青くなった。

「た、確かにFランクじゃない。Sランクの最上位クラスじゃん。どうやって取ったの!?」

「ぶっ!!」

 あたしは思わず吹き出した。

「ああ、リズがやった航空事故の処理や温泉がきっかけで、私たちが神だってバレちまってな。Fランの仕事してるんじゃねぇってよ。信じがたいけど、そうじゃないと説明がつかねぇって!!」

「うがぁ!!」

 あたしは頭を抱えた。

「ああ、あれか。飛行機野郎の間じゃ、もうリズは守り神になってるよ。そういうのの写真持ち歩くヤツも結構多いんだけど、盗撮とかしたら脳を溶かされるってマジでいわれてるから、そこから発展したな」

 スズキが笑った。

「んなことしねぇよ。盗撮したけりゃ勝手にしてくれよ!!」

「分かった、今度大丈夫だっていっとく。みんな、喜ぶよ」

 スズキが笑った。

「ってか、普通に撮らせてっていえばいいだろ。嫌っていわねぇよ!!」

「そうなんだけどね。まあ、いっとく」

  スズキが笑い、ロータスをみた。

「で、アパッチで大丈夫なのか。目標がドラゴンより高いSランクだからさ」

「そうだな、他に適当な機種もねぇし、準備してくれ。私も馬鹿野郎どもを選抜しないといけねぇからよ!!」

 ロータスの声で、二人は小さく敬礼してあばら屋を出ていった。

「あれ、二人の雰囲気が変わったな」

「同じじゃ困るだろ。まだ温いと思うぞ!!」

 イリーナが笑みを浮かべた。

「そういうこった。ここのSランってマジでしんどいからな。リズも遠慮なく神の力でねじ伏せろ。遠慮してると、やられるぜ」

 ロータスが部屋の片隅に立てかけてあった剣を取った。

「マジな時はコイツだぜ。ちと、車内じゃ邪魔になるから、普段は積んでねぇけどな!!」

「うわ、みんなガチでやる気満々だぜ。あたしは他にねぇからな!!」

 あたしの武器は拳銃とショットガン。あとはオマケ程度にM79グレネードランチャーだ。

「おう、久々に燃えてきたぜ!!」

 イリーナが部屋の片隅にあった木箱をあけ、なんか色々取り出し始めた。

「そ、それ、洋服かなんかだと思ってたぞ。まさか!?」

「服なんか買えばいいんだよ。こいつらはなかなか手に入らねぇ!!」

 よく分からん武装をしながら、イリーナが楽しそうにいった。

「よし、私は馬鹿野郎を連れてくる。先に車を暖機運転しててくれ」

「あいよ!!」

 イリーナが出ていき、しばらくして聞き慣れた爆音が聞こえた。

「まあ、そんな緊張すんな。自称だぜ!!」

「……まあ、自称ならね。他称されちまったら、もう手に負えねぇぞ」

 というわけで、いきなり仕事のランクが跳ね上がったあたしたちだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る