第24話 雨止んで……
降り続いていた雨も、夜になる頃には上がった。
温泉ばかり入ったせいか、妙な疲労感を感じていたあたしは、布団の上に転がってグデグデしていた。
そんな中、一度自分の寝床に戻ったスズキとトモミが、あばら屋にやってきた。
「暇か?」
「す、スズキ。あたしは知ってるぞ。それはどうかと……」
スズキが笑った。
「一度いってみたかっただけ。暇なら空の散歩しようって誘いにきたんだ。夜だけどね」
「どうでしょうか?」
笑みを浮かべる二人にあたしは頷いた。
「おう、いこう。エリーナとロータスは?」
「もちろんいくぞ!!」
「ああ、暇だしいいな。ついでに、なんかぶっ壊しにいくんだろ。お見通し!!」
ロータスがにやっとすると、スズキが目を細めて依頼書をみせた。
「いや、うっかり『オークの住処になっている小島の爆撃』なんて至急扱いの依頼をうけちゃってね。ついでだから、こっちでの私の愛機を紹介しようと思ってね」
「おう、みせてくれ。どんなかわい子ちゃんかよ!!」
妙に盛り上がるスズキとロータスの頭に、イリーナの拳が炸裂した。
「……あれ、めり込まないな。まあ、いいけど」
「おっと、これはもう他のチームが出てるよ。愛機を紹介したいのは本当だけどね。非公式愛称はバイパーゼロ。ここにきてまでF-2だよ」
スズキが笑った。
「いや、一回じっくりみたかったんだ。イリーナも興味あるだろ?」
「おう、もちろん。リズもトモミもみておけ!!」
上機嫌のイリーナが聞いてきた。
「まあ、他にやる事ねぇしな……」
「は、はい!!」
とまあ、こうしてあたしたちは、あばら屋から飛行場に移動したのだった。
「これだ。特に自分で愛称はつけてないけどね」
飛行場の格納庫には、機体の上面を青く塗った戦闘機があった。
「へぇ……。まあ、あたしはわからんけどな!!」
「スズキと私の国が本気でベースのF-16を改造した機体です。結果として、なかなかの高性能機になったんですよ」
トモミが小さく笑った。
「なかなかねぇ……。なかなか上手くまとまってるじゃねぇか。でけぇ主翼だぜ!!」
「そう、これがいい感じでね。ついでに対艦ミサイルを片翼で四発合計八発搭載可能なんだ。そんな戦闘機、私の世界のどこにもないよ。面白いもんだ」
スズキが声を上げて笑った。
「おう、やる気満々だぜ。意地でも沈めてやろうってか!!」
「まあ、島国だからさ。こういう防御が重要なんだよ。さて、今日はこれはお休みだ。単座だしね。イロコイとブラックホークどっちがいい。今日はヘリで飛び回るだけだね」
スズキの提案にあたしたちの視線がイリーナに集まった。
「な、なに、ヘリは私なの!?」
「うん、そう思って許可を出したんだよ。私も飛ばせるけど、みんなの反応が揃ったのが答えだよ。専門家には勝てないさ」
イリーナは目を丸くして、隣に立っていたあたしの顔面に拳をめり込ませた。
「ああ。ごめん。うっかり!?」
「……うん、いいよ。気持ちは分かるからな」
あたしは苦笑した。
「というわけで、どっちだ?」
「う、うーん、どっちでもいいけどね。この人数ならイロコイがいいかな。機体がデカい意味がないから」
「じゃあ決定。どっちでもいいように準備して待ってるから急ごう!!」
というわけで、あたしたちはヘリポートに急いだ。
大分年季が入った小ぶりな機体は、あたしたちを乗せるとほぼ定員だった。
「えっと、久々だからな……」
前方の左席にはイリーナが座り、その指名で右座席にはロータスがいた。
スズキ、トモミ、あたしの三人は後部座席で、扉には見るからに極悪な武器が装備されていた。
「やはり、これは職業柄というか、私が武器がある側にいきますね。落ち着くので」
「やっぱりね」
トモミの様子に、スズキが笑った。
「うわ、ミニガンなんて初めて触ります。これだから、この世界が休みの楽しみなんですよね」
「……意外とアクティブだったぜ」
トモミは嬉しそうに弾帯を銃にセットした。
「リズさん、これ通称無痛ガンって呼ばれているんですよ。痛みを感じる暇を与えないという意味で」
「……ひでぇ愛称だぜ。まあ、銃だからな!!」
あたしは苦笑した。
「よし、エンジンスタート。いくぞ!!」
エリーナの声とともに、頭の上で甲高い音が響いた。
「……イロコイ、ワルキューレの騎行。私はワルキューレ。これを待っていたんだ!!」
ロータスが目を輝かせて叫んだ。
「うるさい!!」
その顔面にイリーナの拳がまともにめり込んだ。
「……テメェ」
「いけね、ついやっちまったぜ!!」
なんだかんだで上機嫌のイリーナの操縦で、ヘリは夜空に舞い上がった。
飛行場が見る間に遠ざかり、あとはひたすらどこまでも闇だった。
「リズ、このイロコイがなかったら現在のヘリの戦術利用は考えられない。そのくらい重要な機体なんだよ」
「はい、いずれどこかがやったと思いますが、戦争も絡んで派手に使われた事で、今まで誰も考えなかったヘリボーンなどが考案されて、実践される事で磨かれたのです」
スズキとトモミが、ちょうど真ん中に挟まれたあたしにいって笑みを浮かべた。
「こ、この中で一般人……神だけど、それはいいとして、あたしだけノーマルじゃねぇか!!」
……うっかり、ノーマル発言。
「馬鹿野郎、どこがノーマルだよ。ああ、リズにこっちの話をしても無駄に近いぞ。興味はあるみてぇだがな!!」
ロータスが笑ってパネルのボタンを押した。
瞬間、どっかに付いてるらしいスピーカーから、大音量の音楽が流れ始めた。
「なかなかイカレてるよな。こうやって敵地に編隊組んでぶっ込みかけたってな。ワルキューレの騎行だよ。イカしてる選曲じゃねぇか!!」
「う、うるせぇだけだ!!」
その様子に、スズキがきょとんとした。
「こんな改造してないぞ。やるヤツが多すぎてうるさいから、禁止したほどなんだ。いつの間に……」
「こっちが選ばれるのは、昼に温泉で遊んでいた辺りからお見通しなの。勝手にやらせてもらったぜ。いいじゃねぇか、遊覧飛行なんだからよ!!」
ロータスが笑って、イリーナが小さく笑った。
「遊覧飛行のオプションいくよ。下の街道で魔物と戦ってるチームがいるんだけど、どうにも多勢に無勢って感じだね!!」
「あれ、ホントだ。夜なんかに出歩くからよ!!」
「……あたしたちも人の事いえないぞ」
照明弾で明るくなった場所で、ここからではどんな魔物かしらないが、四名ほど何かの群れと戦っていた。
「トモミ、やるよ」
「はい!!」
イリーナの声にトモミが返し、ヘリが急角度に機体を傾け、戦闘現場上空を飛んだ。
しばらくして、凄まじい機械音と共に曳光弾が闇の向こうに消えていった。
「よよく見えるな……」
「ああ、個人用だけど暗視装置があるからね。後席はトモミの分しかないけどさ。そこまでの予算がない!!」
スズキが笑った。
「そ、そうなんだ。それにしたって、すげぇな!!」
「ありがとうございます。もう少しで、降りるスペースを確保しますので」
トモミが扱う銃の凄まじい音でほとんど聞こえなかったが、なんか聞こえた気がした。「おし、やるぞ!!」
ロータスが拳銃を抜いた。
「おう、タリホーとかいってやるか!!」
「降下ポイント確保。本来はこんなやり方しませんが、降りる、頂く、帰るです!!」
トモミが笑みを浮かべた。
「そ、それ!?」
「ああ、どうにもマニアックな映画が好きなんだよ。台詞とかすぐにパクるから。リズも知ってるとは、どこで?」
スズキが笑った。
「……いえない。神的機密事項だぜ」
「またそれか。神は秘密が多いな。まさに、神秘って感じだね。さてと、困ったな。陸戦は経験がないからな。トモミは多少でもあるだろうが……」
「はい、最初から飛行隊ではないので……。とはいっても、まだ自信がない拳銃だけですしね。このミニガンを外しても持って歩けませんし」
「そ、その子はそこにおいといて。派手にうるせぇから!!」
なんてやってると、ヘリが一気に降下して手荒く着陸した。
「ロータスはこの子をお願い。なんかあってぶっ壊されると困るから!!」
「んだよ、コイツのお守りかよ。まあ、行ってこい!!」
ロータスが苦笑して、拳銃を掲げてみせた。
「ろ、ロータスが居残りで大丈夫なのかよ!?」
「うん、この程度問題ないよ。行こう!!」
イリーナの声に押され、あたしとスズキ、トモミはヘリから飛び降りた。
上からでは分からなかったが、降りた場所は草原の上だと分かった。
「こっち!!」
拳銃を抜いてイリーナがあたしたちを導き、戦場に突入するとお得意の射撃で、あまりにも一瞬過ぎて判別が出来ない魔物を倒していった。
「なんだ、増援か!!」
「たまたま見かけた……あんたたち」
連中が乗っていた馬車には、逃げないように縛られたボロボロの服を着た人たちが乗せられていた。
「なんだよ、人買いくらい常識だろうが!!」
「……そうね、ここではね。ならば、手助けだけはしてあげるよ」
イリーナがむっとした表情を浮かべた瞬間、あたしはショットガンでそいつを撃ち倒した。
「り、リズ!?」
「やりたいようにやる。神の横暴ってやつだ。認められねぇなら、素直にぶちまければいいんだよ。あたしは残り三人を片付けてくるから、イリーナたちは魔物を頼む。そっちの方が面倒くさいぜ!!」
あたしはショットガンで自分の首をトントンと二回叩き、イリーナの声を聞く前に動いた。
いきなりの事に対応出来なかった人買いの連中は、あたしがショットガンで全て倒した。
「さてと……」
あたしは即座に射撃を続けるイリーナと並んだ。
「……あとでみっちり説教してやるからね!!」
イリーナがあたしを睨み付けた。
「半端なことするなって学んだんだけど、これはダメだったか」
あたしは苦笑してから拳銃に切り替え、大分勢いがなくなった魔物を撃ち倒していった。
「はぁ、疲れたぜ!!」
「はい、リズ。正座!!」
魔物を全て倒して一息というところで、イリーナがあたしに声を掛けた。
「んだよ、ここでかよ!!」
あたしが苦笑して正座すると、どこにいたのかスズキとトモミが並んで正座した。
「あ、あれ、なんで!?」
スズキが苦笑した。
「だって、一発も撃てずに物陰に隠れていただけだもん。怒られて当然でしょ?」
「はい、私もです。一応は、プロのはずなのに、この体たらくでは……」
トモミはじっとイリーナを見つめた。
「な、なんか、やりにくいな……。ああもう、みんな怪我しなかったからよし。怒る内容が違うからなぁ」
イリーナがガリガリ頭を掻いた。
「ほら、もういいからいくよ。迅速に行動せよ!!」
「あれ、大変そうなの回避しちゃった……」
あたしは苦笑して立ち上がった。
「今のうちだぞ。とっとと、ヘリに乗ろうぜ!!」
「なんだ、いいのか……」
「あれ、かえってモヤモヤが……」
あたしはスズキとトモミを立たせた。
「急げ!!」
「わ、分かった」
「は、はい!!」
こうして、あたしたちはヘリに戻った。
「ああもう、忘れる!!」
「なんでぇ、ご機嫌斜めだな!!」
離陸したヘリの中、ブチブチいっているイリーナに、苦笑してロータスが声を掛けた。「どうせ、お見通しなんでしょ!!」
「まぁな。これは、どっちも正しいってパターンだな。言い合っても無駄だぞ」
ロータスがあたしをみた。
「なかなかやるようになったじゃねぇか。その調子だが、どっかで外れそうになったら、私が蹴り戻してやるからな。今まで通りともいえるか!!」
「ま、まあね。時々、強烈過ぎて堪らねぇ時があるけど!!」
あたしは笑った。
「あーあ、私もトモミも情けないな。動けないもんだねぇ」
「は、はい、ヘリを降りたらこれって……」
顔にはあまり出してないが、スズキとトモミはそれなりにヘコんでいるようだった。
「普通はそういうもんだ。的を撃ってるのと訳が違うからな!!」
ロータスが笑った。
「よし、どうせ私は軽く痛いだけだし、今後は隙あらば狙ってみるように。まあ、お見通しに勝てるかな?」
「……反則だろ、それ!!」
あたしは苦笑した。
「あたしでもっていったらイリーナが完全にぶち切れるから、いわないでおくぜ!!」
「馬鹿野郎、やれっていってるようなもんだ!!」
イリーナの拳がロータスの頭上を通過した。
「あれ、さっきぶん殴ったのは?」
ロータスが意地悪く聞いた。
「……い、勢い。これ、大事?」
「馬鹿野郎、大事だって何回も言ってるだろ。無論、これ、大事だ!!」
あたしは笑った。
「どうしてもって……はいはい!!」
「……私になにさせるの」
スズキがきょとんとした。
「ん、なにか意味があるのか。今の?」
「これも、神的機密事項だ。神は秘密が多いんだよ。これ、大事!!」
「そ、そうか……大変だな」
スズキが笑みを浮かべた。
「リズにしてもイリーナにしてもロータスにしても、抱えてる神的機密事項が多すぎる気がするぞ。少しは話してくれても、別になんとも思わないぞ」
「それは、私も……」
スズキとトモミが笑みを浮かべた。
「ダメだ。この世界が崩壊しちまう。そのレベルの神的機密事項だからな!!」
「そういうこった。同じ神でもここまで知ってるのは、まずいねぇだろうな。いたら、怖いぜ!!」
あたしとロータスが笑った。
「まあ、色々あるんだな!!」
イリーナが笑みでこの話題を締めた。
結局そのまままっすぐ飛行場に戻り、そのまま寝るというスズキとこっちに部屋があるらしいトモミと別れ、あたしたちはあばら屋に戻ってきた。
「まあ、説教は勘弁しておくけど、二度とやるなよ。ガキンチョがやっていい事じゃないよ。そのくらいは分かれよ!!」
「分かってるよ。あたしは多分イリーナの数十倍はムカついたからやっただけだ。あんなのそうそうやらん!!」
イリーナのキンキン声に答え、あたしは苦笑して布団に転がった。
「温泉に入ったり出たりして暴れたせいか、なんかずっと怠いぜ。遅いし寝ちまうかな」
あたしがいうと、素早くロータスとイリーナがあたしの両脇に座った。
「リズ、これ飲んで。同じ事が何度かあると思うよ」
イリーナが差し出した透明な液が入った薬瓶らしきものを飲むと、急速に怠さがなくなった。
「おっ、なんかスッキリ!!」
「……いうと思ったぜ。まあ、いい。リズの力が半端なく強いから、この世界と時々不整合を起こすんだ。怠くなったらすぐにいえ。最悪、リズがこの世界からはじき出されちまうからな。まあ、そこまではまずないだろうが、怠いのは嫌だろ?」
「うぇ、そんな事が起きてたのね。危ねぇな!!」
イリーナが額を拭う仕草をした。
「……実は、この薬を作る能力、どっかの誰かに強制的に開かせられたんだけど、私一人しかいないんだよね。ロータスは最初からそんなのないらしいし。大事なことだからいっとく」
「そ、それ大事なんてもんじゃねぇよ。なんで、早くいわないの!!」
イリーナがため息を吐いた。
「こんな危険があるって、知って欲しくなかったんだ。でも、実際に起きたらそうもいえないでしょ。面倒だねぇ」
あたしは苦笑した。
「あの道具より万倍マシなくっつき方じゃねぇか。よくまあ………」
あたしの横に、そのままイリーナとロータスが転がった。
「まあ、いいじゃねぇか。寝ようぜ!!」
「おう、眠いものは眠い!!」
「せっかくスッキリしたのに……あたしも寝るか」
あたしはクソボロい天井を見つめ、そっと目を閉じた。
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