第22話 温泉にて

 思わぬところで、いきなり合流した馬鹿野郎集団ことワルキューレたち。

 初心者の街に温泉を引くという事のために、久々の挨拶もそこそこに、早速作業に入った。

 まずは、あたしの地中をみる能力で、温泉を探す事となり、スズキからもらった街の裏手の山が、かつては活火山だった事を知った。となれば、行くしかない。

 大雨の中、あたしたち三人は早速山に入ったのだった。

「木と草しかねぇな。本当に火山だったのかよ!!」

 雨具もあまり役に立たない天候の中、あたしたちは藪をかき分け進んでいた。

「……そうみたいね。過去がみえたよ。かなりの暴れ馬だったみたいだよ」

 イリーナがそっといった。

「なんだ、もう力になれちまったか。さすがに早いな」

 ロータスが笑った。

「まあ、大体ね。となれば、この辺りの地下水脈は可能性があるかもね」

 エリーナがあたしの肩を叩いた。

「ここできたか。まだ慣れてねけけど、やってみるか!!」

「気をつけろよ。変に弄るとまた爆発しちまうからな!!」

 ロータスの声に手を上げて応え、あたしは力を解放した。

 どんな感覚かというのも難しいのだが、地中の様子が「見える」としかいいようがなかった。

「おっ、あったぞ。熱々の水がたまってる層があるぜ!!」

 あたしは思わずガッツポーズを決めた。

「おい、その水は本当に水か。色は?」

 ロータスが慎重な様子で聞いた。

「あのな、マグマと水の違いくらいは分かるぜ。ここから地下およそ二百メートルだ。サクッと掘っちまおう!!」

「……待て、ここで真心をぶち込まねぇわけにはいかねぇな!!」

 ロータスはにやりとして、衛星電話を手にした。

「出番だぞ。真心を忘れるな!!」

「……真心ってのがなぁ」

「あれに真心があるんかい!!」

 しばらくすると、ガタガタとものすごい音共に、重機の数々が木々をなぎ倒しながら坂を登ってきた。

「真心の欠片もねぇな」

「これが、こいつら流なんだろ!!」

 あたしとイリーナが笑った時、重機の群れが到着した。

「よし、イリーナはリズを連れて戻ってろ。もう、街の配管作業は終わってるだろうから、点検作業を頼む」

 ロータスが笑みを浮かべた。

「も、もう配管したの!?」

 イリーナが素っ頓狂な声を上げた。

「相変わらず、作業が早いぜ。真心でな!!」

 あたしは笑った。


 山から街に戻ると、あたしたちより先にスズキとなにやら皆様が、新設されたばかりのマンホールやら何やらを開けて騒いでいた。

「あっ、帰ってきたな。そっちの首尾はとうだった?」

 あたしたちに気がついたスズキが、駆け寄ってきて問いかけてきた。

「おう、見つけたぜ。今は掘ってる最中じゃないか。街で配管のチェックしろっていわれたけど、どうすりゃいいかわからん!!」

「ああ、それなら間に合ってるよ。あまりの手際に、そこら中の建設工兵野郎どもがざわついたなんてもんじゃなくてね。ネジの一本までみて回って、その精度のすさまじさで話題騒然だよ」

 スズキが笑った。

「ま、まあ、その木になったら一瞬でビルとか建てちまう野郎どもだからな……」

「それ、マジ?」

 スズキが声を裏返して叫んだ。

「おう、私もみたぞ。ホント、一瞬で凄まじく豪華な宿舎とか作ったぜ!!」

 イリーナが笑った。

「そ、そうか。あとで、飛行場の建物も面倒みてもらおうかな。いい加減、クソボロくて雨漏りが酷いんだよ。ってか、実は冗談交じりにいったら、監督に聞いてくれっていわれてさ。監督、どうだ?」

 スズキが笑った。

「ま、またかよ……。断る理由なんてないし、アイツらが帰ってきたら、そこそこしっかりやっとけっていっておく!!」

 あたしは小さく笑い、スズキから渡されていた無線機を返そうとした。

「ああ、それは持ってて。街中くらいしか通じないけど、何かと便利だからね。

「そういうことか。じゃあ、ブラッドレーの無線機に繋げられるようにしておくよ。そうすれば、もう少し使える無線機になるよ!!」

 イリーナが笑った。

「なんだ、そんな事出来るんだ?」

 あたしが問いかけると、イリーナが笑みを浮かべた。

「意外となんでも出来るぞ。無線関係は重要だし、必須技能かもね!!」

「へぇ……」

 ……なんでも出来そうで、出来ない神があたし。

「それはいいね。航空支援は任せてね」

 スズキが笑みを浮かべた。

 しばらく立ち話していると、なんのこっちゃという顔をしたトモミがやってきた。

「あ、あの、なにか街が騒がしいようですが……」

「おっ、やっときたな。温泉引くんだって、もう大騒ぎだよ。今掘ってるって」

 スズキが笑うと、トモミはきょとんとした。

「お、温泉ですか。また大がかりな……」

 トモミの言葉が終わらないうちに、街に湯気が溢れた。

「は、早いねぇ。一気に温泉街になったよ。こりゃいい」

  スズキが笑った。


 ついに、街に温泉を引いてしまったあたしたち。

 希望者には宅内まで配管されて、自宅で温泉に浸かれるという感じだったが、意外にもその数は少なく、新設されたデカい公共浴場の方が人気だった。

 恐らく、湯に浸かる習慣がなかったというのが、あたしの考えだった。

「どうだ、真心込めた分ちっと時間が掛かっちまったがな!!」

 あえて木製にしたという公共浴場にいくと、ロータスが胸を張って立っていた。

「真心って……。どこが遅いんだよ!!」

  あたしは笑った。

「よし、やっぱりきたぜ。温泉好きのおっかねぇのがよ!!」

「えっ?」

 公共浴場の出入り口に立っていたあたしは、背後を振り向いた。

「うん、思ったより早くて、少々驚いたぞ。私も堪能させてもらおうかな」

「ああ、もちろん!!」

 あたしの声を聞いて、ロータスが笑みを浮かべた。

「コホン。ようこそ、ゼウス様。このような場所に足をお運び頂き、さぞお疲れかと思います。中には個室風呂も用意しています。どうぞ、湯をお楽しみ下さい」

「ろ、ロータス!?」

 いきなり真面目モードになったロータスは、小さく笑みを浮かべた。

 ゼウスは笑い出入り口をくぐった。

「うむ、さすがにリズ殿だ。気が利くよい側近を擁しているな。今まさに、一人で湯を楽しみたい気分なのだ。個室風呂とやらは、どこにあるのか?」

「はい、こちらです……お前ら、先に行ってろ」

 言葉の後半を小声にして、ロータスが共同浴場に入っていった。

「……ロータスのマジ。久々にみたぞ」

「……なにアイツ、あんな態度と言葉遣い出来るの?」

 イリーナの声に、あたしは笑った。

「あれが本来だぜ。あの馬鹿野郎たちもな。堅苦しいからやめろっていったら、はじけ飛んでこうなっちまった」

「はじけすぎだろ!!」

 イリーナが言ったとき、ロータスが戻ってきた。

「先にいけっていっただろ。まあ、最高神もたまにはってやつだ。私たちは大風呂だぞ。これだけ雨に打たれたら、さすがに私でも寒いぜ!!」

「ああ、そうだった。いくぞ!!」

「……変わり方が半端ねぇな」

 というわけで、あたしたちは風呂に向かった。


 大風呂は、あたしも見慣れた洗い場と湯船がある場所だった。

 なにやら大人気でそこそこ混んでいたが、まあこの位じゃないと寂しいなという感じだった。

 着ていた服を脱衣所で脱いで気がついた。

「しまった、替えの服を持っていなかった……」

「ああ、忘れた!!」

 あたしとイリーナが声を上げると、ロータスが笑みを浮かべた。

「だろうと思ったぜ。私も寒いから纏めて持ってきた。お見通し!!」

「……このお見通しは怪しいな」

「うん、多分偶然だな」

  あたしとイリーナは笑った。

「いいんだよ、お見通しにしろ。よし入るぞ。露天もあるが、今日は我慢だな。この雨で入ったら温くて仕方ねぇ!!」

  ロータスは手早く体を洗い、湯船に入った。

「熱いじゃねぇか。湯畑まで作って温度を下げても、まだこれだけ熱いとはな……」

 ロータスがぼそぼそいう声が聞こえてきた。

「……熱いらしいぜ」

「ここまできて、シャワーだけってわけにはね!!」

 イリーナはあたしの手を引いて、まずは体を洗った。

「……修正しないんだね。体の傷」

「ああ、これね。修正したら、ぶちのめすぜ。それだけのミッションだったんだよ。なんせ、ハードでね。リズは八重歯が戻ったね!!」

 イリーナが笑った。

「ああ、これね。これがないと、あたしって感じじゃないぜ。大神もたまには忘れるってね!!」

 あたしは、座っていた洗い場用の椅子から立ち上がった。

「それじゃ、熱いらしい湯にいくぞ!!」

 イリーナが笑って立ち上がった。

「今だけいうぞ。あいよ、相棒!!」

「あ、相棒って。まあ、いいけど!!」

 あたしたちは、片足を湯船に入れた。

「……ん、普通に快適だぞ?」

「引っかかったな!!」

 あたしの声にロータスが笑った。

「計算通りの湯温だよ。むしろ、今日は雨の分ちと温めだぜ!!」

「じ、地味にむかつく……」

「……うん」

 とまあ、これはどうでもいい。

 あたしたちはのんびり湯に浸かった。

「よし、そろそろ上がるか?」

 ロータスが立ち上がって声を掛けてきた。

「おう、上がろう!!」

「あいよ!!」

 あたしたちは湯から上がり、脱衣所で乾いた服に着替えて休憩スペースに向かった。


「こ、コーヒー牛乳とイリーナ……」

 ……数々の思い出。

「馬鹿野郎、世界がちがうだろ!!」

 イリーナが買ってくれたコーヒー牛乳を飲み、あたしはため息を吐いた。

「これだけで、緊張するぜ!!」

「なにがだ、問題ねぇよ!!」

 サッパリしたあとのビールを飲みながら、小さく笑った。

「ゼウスの御大もそこのマッサージ椅子でゴリゴリやってるぜ!!」

「ゴリゴリって……あっ、ホントだ」

 ロータスの声にそっちをみると、満足そうな笑みを浮かべたゼウスがいた。

「……いった方がいいな。これ」

 あたしはゼウスに近寄った。

「うん、なかなかいい湯だったぞ。もう神界で話題になっているからな。こういう情報は早いのだ。是非、案内してやって欲しい」

「は、はい……」

 あたしは小さく息を吐いた」

「うむ、気にしているようだが、娘の事は当然の行動故に気にしなくていい。その結末もだ。こうして、温泉が復活したのだ。喜ばしい事だな。だから、そんな神妙な顔をしないで欲しい」

「あ、あの、ここの世界を管理している神は?」

 ゼウスが笑った。

「やはり、気になるだろうな。ここは、私の上ををいくある存在が直轄している場所だ。好きなように遊ぶといい。リズなら嫌とは思わないだろう。

「ま、まさかの直轄なのか。じゃあ、なおさら大事にしねぇとな……」

「気にする事はないだろう。さて、私はもう行こうか。サボると滅びる世界ばかりでな。またくるので、よろしく頼む」

 ゼウスはマッサージチェアから立ち上がると、そのまま休憩スペースを出ていった。

「いっちまったな、文句一ついわねぇで……」

「あの御大はそういうヤツだ。問題ねぇよ!!」

 いつの間にか背後にいたロータスが、あたしの肩を叩いた。

「よし、帰るぞ。久々にやったら、さすがに疲れて眠いぜ!!」

「そ、そうだな。帰ろう!!」

 色々な思いが錯綜する中、あたしは努めて明るく帰したのだった。

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