第21話 準備完了

 なんの因果か、もう会う事はないと思っていた神ゼウス。

 その娘であるアルテミスは、以前あたしを再生させるために、そのまま丸呑みしてしまったような形になった。

 それに比べたら、出来れば温泉に浸かりたいという、柔和な笑みからでた言葉は、ごく軽いものだった。

「おう、どっかに戦か?」

 雨具を着て外出準備をしていると、たまたまいたらしいスズキがあばら屋にやってきた。

「戦っていえば戦だな。どっかに眠ってる温泉を探すっていう……寝ぼけてねぇからな!!」

 あたしが笑うと、スズキも笑った。

「そりゃ助かる。こっちで温泉に入れるなら、いうことないな。神ってのも、色々な能力があるもんだねぇ」

 あたしたちが雨具を着込むと、スズキが待ったをかけた。

「もし温泉が出たら三人じゃ対応に困るでしょ。どこで出てもいいように、この天気じゃどこからもお呼びが掛からないって、暇そうにしてる建設工兵のチームがいるから呼んでいみるよ」

 スズキは自分の雨具のポケットから無線を出した。

「ああ、いいよ。私に当てがある!!」

 ロータスがにやりとして、ガラケー……にしかみえない、衛星電話を取りだした。

「ちょっと、衛星通信なんてここにあるの!?」

「これは神用だ。色々やる事があってな。待ってろ、どの世界に行っても多分最強の工兵を呼ぶからよ!!」

 ロータスが、衛星電話でなにか話し始めた。

「ま、まさか!?」

「あ、あの馬鹿野郎どもか!?」

 きょとんとしているスズキの前で、あたしとイリーナが声を上げた。

「他に誰がいるんだよ。スズキは車か?」

「えっ、ああ。暇つぶしに歩いてきたんだ。それより、何が始まっちゃうの?」

 スズキが笑みを浮かべた。

「工兵の仕事っていったら、ぶっ壊したり直したり作ったり……そういう仕事だろ。いや、すっかり得意になっちまってな。リズは懐かしいだろ。すっ飛んでくるから、急いで飛行場まで行くぞ!!」

「やっぱ、空輸でくるのかよ!!」

 あたしは思わず苦笑した。


 あたしたちのランドローバでスズキを交えて乗り込み、初心者の街の中をぶっ飛ばして飛行場までいくと、そのまま駐機場に乗り入れた。

 悪天候なので、飛ぶ飛行機が少ないというスズキの言葉通り、駐機場も少し寂しい感じだった。

「ほれ、もうきたぞ!!」

 雨具を着たままのあたしたちは、ロータスの声で駐機場に飛び出し、徐々に風雨になってきた中、ロータスが指さす方を見上げた。

 暗い空の中で一際目立つ着陸灯を四つ点らせた輸送機らしきものが、ゆっくり滑走路を目指してきていた。

「……この天候であの大型機か。よっぽど慣れてないと、危ないね」

 スズキが小さく鼻を鳴らした。

「問題ねぇよ。銃弾よりは優しい雨だぜ!!」

 ロータスが笑った。

「……今の私がいおうとしたのに。馬鹿野郎!!」

 イリーナが笑った。

「ちょっと待って。一機じゃないよ。なに持ってきたの!?」

「だから、ぶっ壊したり直したり作ったりする道具だよ。要らねぇんだけど、真心が大事なんだとよ!!」

 ロータスが笑った。

「ま、真心!?」

「いいじゃねぇか、なんでもよ。注文だけだして、好きなようにやらせりゃよ。にしても、段々荒れてきやがったな。ここにしちゃ珍しいな!!」

 ロータスが降りてくる機体を見上げていった。

「月に何回かはこんな日があるんだけどね。タイミング悪かったね。これ以上荒れるとさすがに難しいかな」

 イリーナが小さく鼻を鳴らした。

「まあ、この程度どうってことねぇよ!!」

 ロータスが笑みを浮かべた。

 降下してきた輸送機は、強い風雨の中をスムーズに滑走路に降り立った。

 片側三発合わせて六発のド派手な逆噴射音と水しぶきを上げ、超巨大な輸送機が駐機場の前を駆け抜けていった。

「ちょ、ムリーヤって。ロータス、どこで手に入れたの。この世界の航空機が全部あるはずのここにはないのに!?」

 スズキが唖然としていた。

「おう、なにしろ神の輸送機だからな。デカい重い、でも実は不整地OKって、もう最強だぜ!!」

「か、勝手に神の輸送機にしちまった!?」

「お、怒られるぞ!!」

 あたしとイリーナが声を上げると、スズキが吹き出した。

「さて、あのデカいのから何が出てくるのかな。楽しみだね」

「あ、あまり期待しない方がいいぞ……」

 あたしは誘導路を駐機場に向かって走っている巨体をみて、あたしは苦笑した。


 目の前に駐まった巨大輸送機から、懐かしのワルキューレ集団が降りてきた。

「おう、監督。濡れちまうな、今は真心より迅速にだぜ!!」

 誰かが叫ぶと、凄まじい速度で荷下ろしが始まった。

「は、はや!? 輸送機の後部ハッチって、あんなガコンって動かないのに」

 スズキが目を見開いた。

「……まだ、監督かよ。いつまでそれだ?」

「もはや、コードネームだね!!」

 イリーナが笑った。

「まあ、連中も到着したし、これで問題ねぇな。スズキ、どっか機材おける場所あるか?」

 ロータスがスズキに聞いた。

「うん、それならすぐ裏手の飛行機置き場にいくらでもあるけど。案内しようか?」

「おう、頼む。悪いが、いても邪魔だろうから、私たちは先に飛行場の建物に入っているぞ!!」

 こうして、あたしたちは飛行場の建物に入った。


「お待たせ、なにも玄関に立っていなくてもいいのに」

 しばらくして建物に入ってきたスズキが、玄関を入ってすぐの場所に立っていたあたしたちに笑った。

「雨でビチャビチャだからな。遠慮の一つくらいするさ!!」

「あれ、いいのに。みんな、荒いから」

 ロータスに声にスズキが笑った。

「あの賑やかな連中は、外でテント張って勝手にやってるから、出番が来たら呼んでくれってさ」

「ああ、あっちは声かければ勝手に動くからよ。さてと、この雨じゃ温泉探しどころじゃねぇか。明日、晴れたらやればいいかねぇ」

 ロータスがあたしをみた。

「あのねぇ、意地悪いつまでいうんだよ。あたしがそういうと思ったのかよ。これからやる。命令だ!!」

 ロータスが笑った。

「よし、いったな。命令となったら、私はやるしかないぞ。上司だからな!!」

「じょ、上司!?」

 スズキが驚きの声を上げた。

「なんなら、上官でもいいぞ。リズってすげぇんだぜ、その気になったらF言葉とかバリバリぶち込んで、ガンガン叩くからよ!!」

「おう、もうね。部下を機械かなんかとしか思わない、クールな司令官だぜ!!」

 ロータスとイリーナが笑った。

「馬鹿野郎、それをいうな。恥ずかしいから!!」

 スズキが笑った。

「どうせ乗せられたんでしょ。私がみる限りじゃ、素直でいい子じゃん。そんな事は出来ないってわかるぞ」

「す、素直って、それもなんか……」

 ……初めていわれたような?

「まあ、いい。リズがやる気なら、私もイリーナもやるぞ。ついてまわるだけだがな。ああ、リズは地中の様子を見る事が出来るようになってな。見つけて、また力で一気に掘削してやればいいだけだ。そのあとは、あのうるせぇ連中に配管なんかやらせればいいかねぇって思ってるんだが……」

 ロータスがいうと、スズキは考える仕草をした。

「もうこの程度じゃ疑問にすら思わないけど、この街の裏手にある山は昔は活火山だったって聞くし可能性は高いと思うよ。私は飛行場の作業があるから行けないけど、なにかあったら、これで連絡して。どんな天候だって飛ばしてみせるから」

 スズキは、ポケットの無線機をあたしに手渡してきた。

「あ、ありがとう、迷惑じゃない程度でいいよ」

「どうせ、これじゃ気持ちよく飛べないからって、誰も飛ばないと思うし大丈夫だよ。遠慮なんかしないでね」

 スズキは笑みを残し、建物の奥に入っていった。

「よし、んじゃやるか!!」

 あたしの声に、ロータスとイリーナは笑みで頷いたのだった。

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