第20話 あの人(神だけど)再び

 あたしたちを乗せた車は、夜闇を切り裂いて走り続けていた。

 初心者の街には、何もなければ明け方には到着するだろう。

 空は曇りで月の明かりはなかったが、暗視装置完備なので問題なく初心者の街までの距離を縮めていた。

「おっと、降り始めたな」

 お見通しだったのか、あらかじめ防水ポンチョを付けていたロータスの声が聞こえた。

 こんな天気でも砲塔から身を出して。周囲の様子に目を光らせないといけないらしい。

 街道といっても、少し幅が広くて未舗装なので、雨が降り始めるとたちまち泥沼のような状態になってしまうので、なかなか大変だったりした。

「一気に強まったな。音で分かるぜ」

 装甲を叩く雨音で、雨が強くなった事が容易に分かった。

「エリーナ、無理はするなよ。変に填まると厄介だからな!!」

「誰にいってるの。まだ余裕だぜ!!」

 インカムでロータスとイリーナがやりとりする声を聞きながら、あたしは暗視モードの画面を見ていた。

「ん?」

「いいから撃て、今のうちだ!!」

 画面になにか熱源を発見した途端、ロータスの声が飛び込んできた。

「……車両っぽいな。ミサイル撃っときゃいいだろ」

 あたしは熱源をロックオンして、ミサイルを撃った。

 それは、狙い違わず熱源にヒットして爆発したのが分かった。

「びっくりしたぜ。生意気にもT34で武装したゴブリンだ。八十五ミリの方な。旧式どころじゃねぇが、アイツの砲撃にコイツは耐えられねぇ!!」

「ど、どんなゴブリンだよ!?」

 ゴブリンとは、要するにちっこくて悪さする人間みたいな魔物だ。

 一般に知性は低いとされ、攻撃もなにかでぶん殴ってくる程度なのに、戦車に乗って待ち伏せだかなんだかしてるヤツは、さすがに初耳だった。

「さっきのあれ。履帯が切れたらしくて直しているところだったんだよ。運がよかったな。こっちも視界が悪くて、何がいるんだか分からねぇよ!!」

 ロータスが苦笑する声が聞こえた。

「お見通しはどうしたんだよ!!」

  あたしの声に、ロータスが笑った。

「おいおい、なんでもそれじゃつまらねぇだろ。エンジョイしようぜ!!」

「ま、まあ、なんでもそれじゃな。確かにつまらん!!」

  あたしは笑った。


 結局、それ以降妙なものも出現せず、明け方近くに初心者の街に到着した。

「よし、洗車だっといいたいけど、雨がやまないねぇ」

 あばら屋に入ると、イリーナがつまらなそうにいった。

「あれを洗車かよ。まあ、いいけどよ!!」

 ロータスが苦笑した。

「まぁ、ゆっくりしよう。こんな天気の時は、出歩かない方がいいぜ!!」

 あたしはあくびをかみ殺し、基本的に敷きっぱなしの布団に収まった。

「そういや、寝てなかったね。やべぇ、どっかの大神と同じになるところだったぞ!!」

 イリーナがあたしの隣に転がり、抱きついてきた。

「な、なに!?」

「ビビるな、そういう事じゃない。もうそんな年じゃねぇけど、母ちゃんの抱っこだ!!」

 イリーナが笑った。

「ああ、なるほどな。リズ、ちょっと我慢して抱っこされてやってくれ。詳しくはいわねぇが、そういうのが欲しくなっちまったか」

「おう、たまにはいいだろ!!」

 ロータスとイリーナが笑った。

「な、なんか、陰に隠れたものが!?」

  あたしを抱っこしているイリーナが笑った。

「でっかくなっちまったけど、子供は子供だ!!」

「まあ、色々あったんだよ。コイツが結婚してて子供までいたってのは知ってるだろうけど、その辺で勘弁してやってくれ」

 ロータスが苦笑して、動かそうとした足を止めた。

「あ、危ねぇ。今、妙な癖で……」

「……別にいいよ」

「ダメだ!!」

  イリーナがあたしを強く抱きしめた。

「そーいうのなしだ!!」

「分かってるよ。ただ、癖ってのはこういう時にな……」

「……そっか、ないのか。それもまたいいよ」

 なんてモゾモゾやっていると。あばら屋の扉がノックされた。

「はいはい」

 立っていたロータスがあばら屋の扉を開け、ぶったまげて腰を抜かした。

「うん、また妙な世界にたどり着いたな。私は、これから暇だから魔竜を狩りに行こうぜ!! というノリだ。ここの連中は勢いがあっていい」

「ぜ、ゼウスだと!?」

「うぉ!?」

「いきなりだぞ!?」

 そう、前の世界では恐らくキーパーソンの一人だったゼウス(すげぇ神)が、いきなりやってきたのだった。

「うん、事前に連絡する手間を惜しんでしまってな。脅かすつもりはなかったのだ。まあ、ほんのお遊びだが、出立前にリズの顔を見ておこうと思ってな。私もリズ贔屓だからな」

 飛び起きて布団を蹴散らすと、ゼウスが入ってきて笑みを浮かべた。

「うん、緊張するな。少し、顔出ししたくらいだからな。ついでに、願わくばだがこの街にも温泉が欲しいと思う。あの体験は、そうそう忘れられるものではない」

 ゼウスの体が光り、あたしの体が光った。

「ぬわっ、な、なんか色々見えるぞ!?」

「うん、それがここの地下構造だ。これで調べて、もう一つ与えたといったら偉そうだが、その力で一気に掘削すれば、温泉も出来るかもしれないな。もし、この街の地下になければ、それならそれで構わん。暇な時にでもやってくれると嬉しい」

「ま、また、地味な能力が芽生えたぞ……」

 あたしは苦笑した。

「では、待たせているのでな。ああ、魔竜の脳天にめり込ませるのは、バンカーバスターでいいかな?」

「せ、戦闘機で魔竜をぶちのめすのかよ!?」

 イリーナが声を上げた。

「い、いや、アレは貫通するからいいの。めり込むだけじゃただのクソ重い爆弾だっての!!」

 ロータスが吠えた。

「……その前に、ゼウスが飛行機に乗れる事にツッコミを入れろ」

 ゼウスが小さく笑った。

「やはり、面白い連中だな。全員が力を持っているのに、それを極力使わないようにしている。それもまた、この世界での姿なのだろう。油断させておいて、相手が調子に乗ったところで、いきなり神罰をドカンと下す。うむ、もう一度いうが、面白い」

「い、いや、そうじゃねぇって!!」

 しかし、ゼウスは含み笑いを残し、あばら屋から出ていった。

「こら、いい逃げするな!!」

 あたしは苦笑した。

「くそボロいは抜けたみたいだね。代わりにめり込むがインストールされたけど!!」

「ってか、なにに乗ってやがるんだ。あのオヤジが乗る機体って……」

  呟いたロータスの肩を叩き、あたしは笑った。

「お見通しじゃねぇのかよ。簡単だ、F-117だ。間違いねぇ!!」

「なんで、あんな自立飛行もままならない、飛行機としては欠陥だらけの機体に?」

  不思議がるイリーナの頭に、ロータスが小さな冊子を手渡した。

「取り扱い説明書って……な、なんじゃこりゃ。まんまじゃねぇけど、モロにF-117じゃねぇか!!」

「そういう事。神々だって戦闘機で戦うんだよ!!」

「うん、一般常識だとどっかの大神は思ってるぞ」

 イリーナが笑みを浮かべた。

「ってことは、そのうちあれか?」

「いや、それはねぇ。お見通しだ」

「あたしが困っちまうぜ。なぁ」

 あたしは小さく笑った。

「しっかし、いきなりゼウスがきて、あたしに地中探査っていうのか、そんなもんと掘削能力を与えて温泉掘ってって、びっくりしたぜ!!」

「ああ、それね……。リズ贔屓なだけじゃないよ。再生に誰かさんを丸呑みにしたでしょ。それで、寂しいのかもね」

 イリーナが苦笑した。

「……しまった。それを忘れたわけじゃねぇけど、全然出てこなかったぜ」

 あたしは小さくため息を吐いた。

「ああ、別にお前が悪いわけじゃねぇよ。きたときはなんだって思ったが、顔が見たかったのと温泉が欲しかったんだろうな。単純にそれだけだろ!!」

 ロータスが笑った。

「ならいいけどな。よし、温泉探すか。魔竜とかいうの倒して帰ってきたら、ひとっ風呂浴びてぇだろ!!」

 あたしはそっと笑みを浮かべた。

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