第18話 ここにもいた
「ありがとうございました。これで、この街も安全でしょう」
機嫌が悪いロータスは先に宿に戻り、あたしとイリーナはさっき飯を食った店でささやかな祝杯を挙げていた。
ちなみに、あたしは二十七才でイリーナが四十四才だ。
二人とも、とっくに成人しているので、念のため。
「しっかし、あの数でアパッチはやり過ぎだぜ。ギ○で倒せる馬鹿野郎を、いきなりベギ○ゴンでぶちのめしたようなもんだ」
「……これ、どっかで」
あたしは苦笑した。
「馬鹿野郎、ファイア・アローで倒せる相手を、オメガブラストでぶっ殺したようなもんだ」
「馬鹿野郎はそっちだ。通じねぇよ!!」
イリーナが笑った。
「ああ、そうだった。そう思うと、エラいものを失ったな」
「それだけじゃねぇぞ。過去、現在、未来の全てが無に還ったわけだ。私とロータスはあれだけど、リズだけ取り残されちまったようなもんだ。必死こいて作ったり覚えたりした呪文は、忘れたくても忘れねぇだろうが、大事な土産だ!!」
イリーナは笑みを浮かべ。あたしの頭をそっと撫でた。
「まあ、これがあってあたしだからな。こっちの理はゴチャゴチャ過ぎて、神の力を使っても理解できん!!」
「その分、銃があるって。神の力もね。まあ、いざとなったらだけど。なんでもこれじゃ、何やってるんだか分からないぜ!!」
イリーナはグラスを空け、次の酒を注文した。
それとほぼ同時に。長が店内に入ってきた。
「宿かと思ったのですが、多分ここにいると伺ったもので。これは謝礼です」
長は小さな革袋をテーブルに置いた。
「おう、ありがとう!!」
「これも、航空チームとさん等分……おっと、コホン。ありがとうございます。これは無料でいいですよ。ついでですから」
あたしがショットガンを抜き、イリーナが拳銃を抜いた瞬間、他の客のほとんどが立ち上がった。
「こ、これは?」
慌てる長に向かって、あたしは小さく笑った。
「なにも、盗賊はアジトに引っ込んでるだけとは限らないって事。二十人くらいか」
「外も物騒な連中が集まってきてるね。合わせて三十名ってところか。
「ったく……。おい、長は関係ねぇ。なんかあったら、大事になるぞ。素直に通せ!!」
あたしはショットガンに弾を込め、あたしは怒鳴った。
「分かってるよ。そいつになにかったあったら、俺たちじゃひとたまりもねぇ。おい、とっとと失せろ」
この馬鹿野郎な盗賊声で長は心配そうな表情を浮かべ、なにかいいたそうだったが、そのままそれを飲み込んで店から出てていった。
「なんだ、おい。あの兄ちゃん、いいところの人だったか?」
イリーナが笑みを浮かべていった。
「知らねぇし、別にどうでもいいだろ。しっかし。街中で大暴れとはな!!」
「だって、やる気満々で待機してたんだもん。それなりに相手しないとね!!」
相手のセリフなど知ったではない。
なにかいおうとした馬鹿野郎その一に向かって、あたしは容赦なく引き金を引いた。
拡がった散弾が周辺にいた連中を巻き添いにして、あっという間に五人が床に倒れた。
その間にも、もちろんイリーナも銃を撃っていた。
「散弾っていいけど、二連射だからな。あたしがフォローみてぇなもんだから!!」
「分かってる。この場合はそれが正解だ!!」
イリーナとそんなやりとりをしながら、外の連中もなだれ込んできて、店内は一気にメチャクチャになった。
推定三十対二。数の上では圧倒的に不利だが、あたしたちの方が圧倒していた。
銃は不向きな距離と判断したか、腰から抜いたナイフで片っ端からサクサク敵を倒していき、あたしはもう一丁メインで使っているM79グレネードランチャーで、敵集団に向かって擲弾を発射していた・
これはまぁ、手榴弾を発射しているようなもので、店内ではそこら中で爆発が起き、集団になって固まっていた大半がこれで吹っ飛んだ。
「最後!!」
イリーナが最後の一人を倒し、あたしと一緒に店を出た。
「……ヤバい、非武装の相手にえげつない事しちゃったね」
「うん、正当防衛で切り抜けるのはきついぜ。逃げろ!!」
イリーナとあたしは、宿まですっ飛んで逃げ帰ったのだった。
「お見通し。馬鹿野郎、あんなところで暴れやがってよ。騒ぎになる前に逃げるぞ!!」
宿の部屋に転がっていたロータスが立ち上がり、頭を掻きながらため息を吐いた
「……なんで、私を呼んでくれないの。悲しい」
ロータスが目を擦った。
「馬鹿野郎、お前も暴れたかっただけじゃねぇか!!」
「泣くなよ……」
イリーナとあたしがいうと、ロータスが頭を横に振った。
「馬鹿野郎、反応を間違えちまったじゃねぇか。いいから、ダッシュでこの街から出るぞ!!」
「は、反応を間違えた!?」
「……また、なんかやってのかよ」
ロータスはあたしたちの手を掴み、慌てて部屋から駆け出た。
「妙な要素が入っただけだ。いつも通りで、なにもしてねぇ!!」
「ああ、いつも通りだな……」
「たまに出るアレか……」
というわけで、あたしたちは早々に宿を引き払い、街道に飛び出たのだった。
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