第16話 ゴチャゴチャと旅へ
「ったく、だせー!!」
ガロモンから帰宅した足だったので、消費した弾薬を補給するを忘れていた。
一度初心者の街に戻り、補給を行った。
改めて街を出発し、あたしたちは街道を急いでいた。
「あたしもだけど、気を張らねぇとヤバいぜ!!」
「ああ、全くだ」
「飛行機の件で、浮かれてたね」
街を出たのが昼過ぎで。今は夕方になろうとしていた。
「いっておくが、泊まらねぇぜ。あの手紙がきたのは昨日だ。急いだ方がいい」
「あたしは逆だな。着いたけど動けねぇじゃ、話にならねぇよ!!」
しばらく沈黙が流れ、ロータスが小さく笑った。
「リズのいうとおりだな。イリーナ、次の街で休むぞ!!」
「あいよ!!」
イリーナの声が響き、車は街道を進んでいった。
街いるに車が到着したのは、やや暗くなってきた頃合いだった。
「へぇ、エルピーダシティね。初めてきたな」
「そうだな、いつも通過しちまう辺りだからな。特産品とか調べておかなかったぜ!!」
あたしとロータスは笑った。
「エルピーダねぇ。典型的な宿場町で、特に特徴はないって。スズキがくれたこの界隈のガイドメモ!!」
エリーナの笑い声が聞こえた。
「あの野郎、よこすなら私だろ!!」
「まぁまぁ……」
怒鳴ったロータスに、あたしは笑った。
そのまま宿を探して街中を走っていると、猛スピードで通りの向こうから軍用小型四輪車ががやってきた。
やたらと銃を撃ちまくり、余裕で避けたとはいえ、あたしたちにはRPGロケット弾を撃ち込む気合いの入り方だった。
「ったくう、うるせぇバカだ。リズ、二、三発食らわしてやれ」
「いわれなくても!!」
あたしの操作で砲塔が旋回し、勢いよく突っ込んでくる小型四輪車に二五ミリ砲弾がガンガンめり込んだ。
ほとんどバラバラになった四輪車は積み荷を盛大にぶちまけ、もはやヤケクソなのか、動ける連中が拳銃を撃ちまくってきたが、当然そんなものでこの車の走行は打ち抜けない。
「これ以上の攻撃は、警備隊になんかいわれそうだ。イリーナ、無言で迫れ。リズ、撃つなよ!!」
「はいよ!!」
「んだよ、トドメ刺さねぇのかよ!!」
あたしは苦笑した。
一応、一列横隊で四人ほどが銃を撃ち続け、それに向かって車はモッサリ進んでいった。
「バカめ。RPGはこうなったときに使え。あんなどうでもいい時に使うんじゃねぇよ!!」
ロータスの笑い声が聞こえた。
結局のところ、どっかの盗賊一味が微妙な時間に、街中で慣れない銀行強盗をやった結果、手際が悪くてあの醜態を晒す羽目になったらしい。
次いでだからと、事後の後片付けも手伝う事となり、一回でいい加減に拘束された人質の皆さんをロータスとイリーナが解放している間、あたしは開け放したままだった金庫室に入った。
大慌てで適当に奪い取ったと分かる荒っぽさが滲む金庫の中は、特に誰も……。
微かな音を聞いたあたしは、身を大きく落としショットガンを引き抜いた。
相手の姿がみえたとき、あたしはすでに引き金を引いていた。
「なんだ!!」
「なんかいた?!」
すぐにロータスとイリーナが、金庫室に飛び込んでいた。
「残り物だ、福はなかったみてぇだがな!!」
「いや、最初から福になる要素がねぇよ」
ロータスが笑った。
「逃げ遅れか。だせぇ!!」
イリーナはあたしを金庫室から連れ出した。
「リズが危なかったって、内心ぶち切れてるから。ロータス……」
イリーナの声とともに、金庫室から怪しげな光が放たれた……。
「な、なんじゃ!?」
「私も分からないけど、みない方が身のためだよ。アイツを怒らせると、マジ面倒だから!!」
イリーナは笑ってあたしの手を引っ張った。
「こっちの用事は終わり。あとは、ロータスの気が済むまで車で待機しますか!!」
「ったく、夜中になっちまうぞ!!」
あたしは苦笑した。
適当な場所で宿を取り、近所の飯屋で飯を食っていると、例の事後処理で顔見知りになったこの街の長がやってきた。
「こちらでしたか。夕方の件はありがとうございました。至急便で初心者の街へ連絡を送り、事後承諾になりますが、依頼料というよりはお礼という形になりますね」
長がテーブルに決して小さくはない革袋を置いた。
「こりゃ、気前いいな。ありがたく、受け取っておくぜ!!」
ロータスが袋を懐にしまった。
「はい、そしてついでというわけではありませんが、この街からやや北西寄りに進んだ場所に、今日片付けていただいた輩も含めた、盗賊団のアジトとでもいいますか。そのような場所があります。何かと被害を被っていますので、この際退治していただければと」
ロータスがイリーナに手を差し出し、イリーナが地図を手渡した。
「大体でいい、どの辺だ?」
「はい、この辺りです」
ロータスが長がマークした地図を眺め、小さく息を吐いた。
「規模が分からねぇと。もう一人分、依頼料を出せるなら、引き受けるか検討するぜ。どうだ?
「はい、同額程度でよろしければ……」
ロータスはにやりとした。
「分かった。ちょっと待ってろ、無線機が欲しい」
ロータスは店の外に出ていった。
「ど、どこと連絡するの!?」
「大体、分かった……」
イリーナが苦笑して、食べかけのシチューに手を掛けた。
「安心してください。あそこに連絡したってことは、もう引き受けたも同然ですから。
「は、はい、よろしくお願いします」
長が出て行くと、イリーナは笑った。
「ロータスが連絡した場所は、初心者の街のスズキだよ。今頃は無人機の偵察オペレーションと、可能であればヤバいポイントへの攻撃もやってるはず。怖いよー、前触れもなく気づくと同時にヘルファイヤでドカン。狙われたら、たまったもんじゃないぜ!!」
「む、昔からそういう輩が寄ってくるような………なんで、あたしを狙うんだよ!!」
イリーナは笑って、シチューの次に親子丼をかき込み始めた。
「め、メニューがめちゃくちゃだし」
「リズにいわれたくない・イカスミパスタからのペンネグラタンはいい。次になんで盛りそばなの?」
「いや、なんも考えてねぇ。そういや、変だな」
……ようするに、食えればなんでもいい二人。
とまあ、そんなわけで、飯も終わってあたしとイリーナは宿に戻った。
「ああ、大体分かったぜ。対した事ねぇけど、四基あった銃座は潰してある。明日まで待つこともねぇよ。今からひとっ走りして潰してこようぜ!!」
宿の脇に駐めてあった車の脇で、ロータスが笑った。
「い、今から!?」
「た、短気だねぇ」
ロータスが恍惚とした表情を浮かべた。
「……だってよ、あのミサイルの爆光ときたら。そそるもん」
「き、気色悪い。やめろ!!」
あたしの……先手をとって、ロータスの顔面にイリーナの拳がめり込んだ。
「遅い!!」
「い、イリーナからツッコミ教育的指導だと!?」
「ったく、遠慮すんじゃねぇ。こんなの!!」
イリーナが笑った。
「全くだ。ツッコミはコンマ一秒を争う競技だろ。失格だ!!」
「きょ、競技じゃねぇよ!!」
あたしの拳が、ロータスの鼻先をかすめた。
「……よ、避けた!?」
「いけね、癖が出ちまった。ボケた者は微動だにするな。これ、教科書に書いてあるからな!!」
「ど、どんな教科書だよ……」
「うん、リズ操縦マニュアル……い、いけね。あの本に書いてあるもんね!!」
「でたよ操縦マニュアル……。まだ更新してるのかよ!!」
ロータスがあたしの肩に手を置いた。
「更新ではない。新規作成だ。世界が変わったからな。まだ、初版本しかない!!」
「つ、作るな!!」
「ないと不安だ。ツッコミポイントの策定なんて、やった事ねぇ!!」
「んなもん、ノリと勢いだろ。計算してボケるな!!」
なんてやってると、イリーナがロータスに蹴りを入れた。
「もういいだろ。いくならいくぞ!!」
「……今のもツッコミか?」
「……ああ、初歩的なヤツだな」
イリーナが操縦席に座ってエンジンを掛け、ド派手に空ぶかしした。
「……おい、怒ってるっぽいな。急ごう」
「ああ、間違いなくぶち切れ寸前だ。急ごうぜ」
あたしとロータスも車に乗り込み、そのまま夜の草原へと駆け出していった。
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