第14話 仕事終わって日が暮れて

 仕事後のバーベキューを終え、あたしたちは車で飛行場にもどった。

 機内に後退で載せ、ワイヤーで固定すると。後部ハッチが閉じた事を確認し、操縦室に羽織った。

 左の機長席にロータスが収まり。、右の副操縦席にイリーナが座った。

 ロータスが画面やスイッチをはじき、四発あるエンジンが一機ずつ始動した。

「さて、あとは帰るだけだよ。今はすいてるみたいだし、ちょうどいいか」

「そうだな。とっとと離陸しちまおう」

  輸送機がゆっくり動き始め、複雑な誘導路を抜けて滑走路に入った。

「いくぜ!!」

「ぶっ壊すなよ。お前は荒すぎる」

  イリーナとロータスが声を掛け合い、輸送機はあっという間に離陸した。

「このSTOL性能は、やっぱすげぇ!!」

「四発大型機でC-130並だもんな。気合いが半端ねぇよ」

「……」

 ……ついていけないあたし。

 輸送機の高度が上がると、ロータスが居眠りを始めた。

「すげ、ロータスが寝てる。私の腕もしてたもんじゃないぜ!!」

「……飛行機に乗る人って、操縦席に座るとみんなハイテンションになるなぁ」

 イリーナが笑った。

「だって、それが好きなんだもん。リズだって、砲手席に座るとノリノリじゃん!!」

「そりゃまあ、変に冷静だったら、気持ち悪いだろ!!」

  あたしは苦笑した。

「それと同じだ。やることは真面目にやってるから、安心して!!」

「そう願うよ

 あたしはイリーナに苦笑した。


 およそ一時間の飛行を終え、輸送機は初心者の街飛行場に戻ってきた。

 駐機場で車を下ろしていると、眠そうなスズキが頭を掻きながらやってきた。

「よう、無線で話は聞いてる。私の偽物が出たんだって。ふてぇ野郎だな。お詫びってわけじゃないけど、その輸送機は自由に使っていいぞ。元々、C-17は在庫が多すぎてね。デカくてもC-130までだからさ。それはそうと、イリーナ。あの変な癖直ったんだって。飛行場の連中が動画を撮ってて見たけど、確かにまともになってた。私がガンナー席に座るから、ちょっとみせてよ」

「く、癖だって、そんなのあったの!?」

 イリーナの声に、ロータスが笑った。

「まあ、気がつかねぇから癖っていうんだがよ。お前は降下からピッチの引き上げの時に何でか左に流れるんだ。見抜かれたら。イチコロでやられるぞ」

「そ、そうだったの。直そうとした事ないけどな……」

 とるもとりあえず車を下ろし、スズキとイリーナはすぐ隣に駐めてあった細身の攻撃ヘリに後混んだ。

「AH-1Sか。悪い機体じゃねぇな!!」

 ロータスが笑みを浮かべた。

 しばらくしてヘリのエンジンが始動して、回転翼が回り始めた。

 急速に回転速度を増した回転翼によって暴風が巻き起こり、そろりと離陸していった。

「さすがに、離陸は上手いんだよな。ここは、私も勝てないぜ」

「そ、そうなんだ……」

 飛行場上空で始まったデモ飛行をみながら、あたしは呟いた。

「やっぱり直ってる。認識すらしていなかった癖が勝手に直るわけがねぇな。やっぱり、リズ神様のご加護か?」

 ロータスが笑った。

「よしてくれ、あたしは火災をなんとかしただけだって!?」

 しばらく飛んでいたイリーナとスズキだったが、やがて元の場所に着陸した。

「パーフェクトだよ。これなら、ヘリも追加していいな。ヘリは貸し出しみたいな形にしてるから、必要な時にいってね」

 スズキは言い残して、建物の方にいった。

「あれま、合格が出ちゃった!!」

 イリーナが笑った。

「複座の練習機にして、後席にリズを搭載すれば勝てるかもな」

  ロータスが真顔でつぶやき始めた。

「搭載というな。あたしに、一体どんな機能が!?」

 などとやってると、さっき戻ったスズキが大慌てで駆け寄ってきた。

「マズい、もうすぐ着陸予定の機がトラブったみたい。胴体着陸っていってるからここは危険な……」

 スズキの言葉を遮って、重低音を響かせた四発プロペラ機が滑走路に向かっていった。

 胴体ではなく、きっちり降着脚で下りたその機は、何事もなかったかのように駐機場に駐まった。

「……ちょっと待って。状況を確認するから」

 スズキはポケットから小型の無線機を取り出し、どこかと交信したあと信じられない「という表情を浮かべた。

「まただよ。いや、どんなトラブルでも、この飛行場に近づくと嘘みたいに正常に直っちゃうって、偶然のレベルを超えて報告されているんだよ。おかげで事故数はゼロ記録更新中なんだ。くそボロいのもあるのに……」

「ああ、ついにくそボロいいっちゃった!?」

「……なんでもいいが、なんでオライオンなんだよ。どっかに、敵の潜水艦がいるのか?」

「飛べればなんでもよかったとか?」

 スズキが笑みをあたしに向けた。

「やっぱり、守り神だね。これ、お布施!!」

 スズキがポケットから、金属製のプレートを差し出した。

「『全航空機無条件使用可能証』?」

 瞬間、ロータスとエリーナがその金属製のプレートをむしり取った。

「こ、これ。これが欲しくて。みんなスズキの顔色をうかがうって!?」

「ああ、事実上この基地にある航空機は、全部乗れるっていう!?」

「うん、それはあくまでリズのものだぞ。他のヤツは、試験に合格したらだね」

 ロータスがうなずいた。

「試験やれ!!」

 スズキが笑った。

「はいはい、あっちにF-5があるからそれでね」

「おう、いいもん持ってるじゃねぇか。ただじゃおかねぇぜ!!」

 スズキがイリーナをみた。

「そっちはいいの?」

「うん、ヘリが使えるならいいよ」

  イリーナのこえにスズキが笑みを浮かべ、ロータスとスズキが歩いていった。

「……あたしにこれがあっても、なんの意味もないぞ」

「気持ちって事でしょ。ロータスもまんまと引っかかって!!」

  イリーナが笑った。

「この飛行場の近くでやるなら、スズキも同条件だからこの前と同じ。かといって、今の状況をみて飛行場から離れるとは思えないし、仮にそうなったらもっと酷いだろうね。スズキの能力は半端じゃない。ロータスじゃ勝てないよ。だから、勝敗以外のところをみるんじゃないかな。私の癖と同じようにね!!」

 イリーナは頭を掻いた。

「しっかし、そんな癖があったんだねぇ。私としたことが」

  イリーナは笑みを浮かべた。

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