第13話 仕事からの招かざる者

 今回の仕事は、ガロモン王国での魔物退治と聞いていた。

 なんでも、いきなり出現したなんともいえないヤツで、それ自身は特に動かないが、凶悪な魔物を散発的に生み出しているという。

 まあ、とにかく邪魔なこいつを除去して欲しいとのことだった。

 飛行場から現場場までは一時間くらいの目処だった。

「おい、またカニ野郎がきたぞ!!」

「あいよ!!」

 海辺の道を走っていると、人の背丈はあるだろうというカニが三体行く手を塞いだ。

「ミサイルは温存だ。一応、いっておく!!」

「要らねぇよ、今まで通りだ!!」

 あたしは画面に浮かんだ照準をど真ん中のカニに合わせた。

 発射ボタンを押すと、主砲の二十五ミリ弾が吐き出され、まずは一体粉々にした。

 同じ要領で残り二体を倒し、ブラッドレーは何事もなかったかのように動き始めた。

「この程度の魔物なら、どってことねぇ!!」

「この程度ならな。Fランクでも難易度が高いプラスだ。油断はするなよ!!

 ロータスの声に、あたしは気を引き締めた。

 時々カニを倒しながら、車は海沿いから山へと進路を変えた。

 細い山道を上っていくと、車の行く手を遮るように、二体のオオカミのような魔物が二体現れた。

「おっと、初対面だな、やることは一つだけど!!」

 弾種設定は、装甲がない相手用の榴弾。目標をロック…………。

 あたしが発射ボタンを押すと。二十五ミリ機関砲が砲弾を吐き出した。

 同時に、狙っていた一体が飛び跳ね、車の前方にしがみつくように捕まった。

「……甘いぜ。こんな機能もある」

 前方に向けて、車体には二丁の機関銃が備わっている。

 あたしはそれで、全面にへばりついている魔物を弾き飛ばした。

「おい、こいつら素早いぞ」

「問題ねぇ、こうしてやる!!」

 弾き飛ばした魔物がもう一体と重なったところで、あたしはあえて徹甲弾で撃ち抜いた。

 あとは、こっちのペースだった。

 動きが遅くなった二体に向けて、あたしは榴弾の雨を浴びせた。

「よし、目標沈黙。手慣れたもんだな!!」

「そりゃ、こっちにきてからずっとここに座ってるからな。嫌でも覚えるぜ!!」

 最初はなんのこっちゃだったが、扱いは体で覚えた。

「そりゃ結構、いくぞ。前進!!

 履帯で魔物の死体を押しつぶし、車はゆっくり前進していった。

「おい、段々それっぽくなってきたぞ。十三時方向、マタンゴだな」

「ああ。あの全身キノコ野郎か。榴弾で焼き飛ばしてやる!!

 マタンゴに照準を合わせ、あたしは二十五ミリ砲弾をたたき込んだ。

 焼夷弾でもあればよかったのだが、キノコ野郎は爆発でちぎれ飛びながら、地面に倒れた。

「よし、ガンガンいくぞ!!」

 それから、あたしたちの快進撃が始まった。

 うろうろしていた魔物どもを倒しながら進んで行くと、いかにも場違いな感じで、宙に浮いている卵の黄身のようなものがあった。

「よし、おそらくあれだ。どこが植物なんだよ!!」

 それをみたロータスが、ツッコミを入れた。

「植物に見えちまったんだろ。いくぜ!!」

 あたしは二十五ミリ榴弾をたたき込んだ。

 大概のものは破壊するこの砲弾でも、黄身は平然とそこにあった。

「うぇ、頑丈だったぜ……」

「ミサイル撃ってみろ。一発だけな!!」

 ロータスの声にうなずき、あたしは黄身をロックオンしてミサイルを一発撃った。

 発射機から飛び出した対戦車ミサイルは、黄身の周囲を覆っていたらしい結界のようなものにぶち当たり爆発した。

「うわ、結界付きだって。リズ、分かるか?」

「無茶言うな。こっちの呪文体系も分からねぇのに……」

 当然のごとく、あたしはこの世界で魔法w使おうと研究をしている。

 しかし、はっきりってメチャメチャだ。使えないと結論付ける方が早かった。

「警戒、黄身の表面に変異。なんかくるよ!!」

 イリーナの鋭い声が飛んだ。

 慌てて画面を見ると、黄身の表面が波だっていた。

「これって、どう考えても……」

「ああ、新手のお出ましだぞ。今度はなんだ。

 考えるより勘が働いた。

 今まさに、なにか大物が出てこようとしている間に。あたしはミサイルを発射した。

 飛び立ったミサイルは、大物もろとも黄身を巻き込んで爆発を起こした。

「当たりだ。魔物を出す時は結界が切れる。切れねぇわけがないんだ!!」

 消滅した黄身があった場所を画面で見つめ、あたしは笑みを浮かべた。


 討伐目標だった、へんなヤツを粉砕したあたしたちは、依頼主のガロモン国王に謁見し、兵の確認の上で依頼完了のサインをもらった。

 その後、適当な浜に下りてささやかなバーベキュー大会になった。

「馬鹿野郎、その肉は私が育てていたんだぞ!!」

「うるせぇ、網に置いてあるもん食って何が悪い!!」

「こら、ロータスもリズもケンカしない!!」

 あたしとロータスの口に肉を放り込み、エリーナが笑った。

「……おい、なにこの気持ち。どうしていいか分からねぇんだけど」

「あたしは慣れてる。素直に食っとけ!!」

 などとやってると、スズキが不思議そうな顔をしてやってきた。

「あのさ、トモミをみなかった。いつの間にかいなくなちゃって」

 スズキの言葉に、イリーナが吹き出した。

「そっか、リズからショットガンを借りる事にならなくてよかったよ。あれは、いわば偽物のトモミだよ。チラチラ見えていたけど、自分から消えたならいいか」

「に、偽物!?」

 イリーナは笑った。

「だって、ここにいつきたのって聞いたら昨日とかいうし。そもそも、あの村の普及作業やってたでしょ。変だなの積み重ねで、ある存在に思い当たった。リズはおそらく気がついていただろうけどね!!」

 あたしは苦笑した。

「スズキとトモミで迷ったっていっておくぜ。でも、スズキの行動に妙な点はないし、あたしもいないはずのトモミがいた時点で、違和感を覚えたんだ。でも、ぶちのめすのはなって思ってな。自ら消えたならいいや」

 あたしが笑うと、ロータスが素早く拳銃を抜いてスズキを撃った。

「甘いぜ、お見通し。どっちもおかしかったんだよ、今頃初心者の街飛場にあるねぐらで昼寝してるぜ。最初は前の世界で使っていた機体で、どうにかしようと思っていたみたいだが、いきなり計算が狂って大慌てだったんだろう。リズに異常に執着してたしな。あの事故処理でぶったまげたのは事実だが、ここまでになるようなタマじゃないぜ!!」

 ロータスに撃たれ、倒れたスズキの姿が溶けるように消えていった。

「ほらな。チャラチャラうるせぇのはいらねぇんだよ!!」

 ロータスは肉を頬張り小さく笑みを浮かべた。

「……さすが、ロータスだぜ。こっちまでとは」

「まだ読みが甘いぜ。お前だって、なんか変だ位は思っただろ。そのときに、相談くらいしろ!!」

「私としたことが、やっちまったぜ!!」

 イリーナが苦笑して、ひたすら焼き網をガンガン叩き始めた。

「……これは、正常だな。むしろ、よくこの程度で収まってるぜ……」

「……ああ、ぶっ殺してぇ。畜生

「おいおい、せっかくのバーベキューだぜ。ゆっくり楽しもうぜ!!」

 ロータスが笑った。

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