第11話 次の仕事へ

「なんで!?」

 斡旋所で適当に仕事を見つけ、出発準備をしていたら。すげぇ勢いで四輪車がスペース前に止まり、スズキが転がり出てきた。

「おう、どうだ。下手くそだろ。引き上げで左に流れるんだよな。癖だからしょうがねぇけど、だっせぇって思ってたんだ」

 ロータスがチョコバーを囓りながら笑った。

「そ、それが消えてるんだよ。それで、最初はNG出したんだもん。危ないって!!」

 ロータスが呆けたような表情を浮かべ、あたしを抱きしめた。

「……いくら出せばいい。私の癖を直してくれ」

「耳元で囁くな。なにもしてねぇよ!!」

 スズキがあたしの手を掴んだ。

「と、とにかくいこう。みる人がみれば、驚異の飛行能力だってわかる!!」

「お前がそこまでいうなら、私も気になるな。いくぞ!!」

「今度は、なにがインストールされたんだよ!!」

  結局、あたしたちはスズキの車で飛行場に行った。


「……おい、マジでアイツが操縦してるのか。私じゃ勝てねぇかもしれねぇぞ!?」

 飛行場上空でバタバタ飛んでるイリーナとトモミの戦闘ヘリをみて、ロータスが素っ頓狂な声を上げた。

「でしょ。半端ないんだって!!」

 声を上げスズキがあたしの前に立って、敬礼した。

「……神のご加護を」

「なんか違うし、やめてくれ!!」

 スズキが敬礼をやめてため息を吐いた。

「このところ事故が多かったんだけど、それも一発でゼロになったんだよ。他に理由がないんだな」

「ああ、そういや家内安全とかなんかそんな機能があったな!!」

 ……機能ではなく、能力です。

「そっか、それと飛行技術向上……ああ、事故に繋がるからだ。なるほどね、イリーナの操縦はいうことないんだけど、ただ一つ悪癖みたいなものがあってさ。意地悪じゃなくて冷静に危ないって判断してダメっていったんだけど、これなら文句つける方がおかしいな。これなら……」

「おっと、その判断は待った方がいいぞ!!」

  ロータスの体が光り、急上昇していたヘリを光の網が覆った。

「馬鹿野郎、調子こいて無理に急上昇して、失速しやがった!!」

  ロータスが苦笑した。

「……ロータスが力使うの、初めてみた」

「ん、常に何かしら使ってるぞ。お見通しとかな!!」

 ロータスはヘリを地上に降ろした。

 頭で回転していた翼が止まると、スズキがロータスに驚きの目を向けた。

「ろ、ロータスまで!?」

「ああ、私は半分だけ神だからな。半分は優しさでできているってな!!」

「……でたな」

 スズキが驚嘆の表情を浮かべた。

「神だらけじゃん!?」

「いや、たまたまね。普段はないよ。多分」

 ……あっても、怖い。

「ったく……おい、スズキ。私もなんか乗せろ。メッサーシュミットとか?」

「い、いいよ。今ならB-29もあるよ。ロマン派に人気の!!」

 ロータスが笑った。

「馬鹿野郎、デカすぎるわ。一人で操縦するもんじゃねぇし!!」

「ああ、そうか……リズがいることを条件に、いくらでも乗っていいから!!」

「……あたし、どこに乗るの?」

 ロータスが笑った。

「エラい信用されたな。神は信じられてなんぼだぜ!!」

「うん、ここにいてくれれば安心だよ。もっと早く仲良くなりたかったよ。神の能力とか抜きにして。野郎どもばっかりで、女の子少ないからさ!!」

 スズキが笑った。


「この馬鹿野郎が!!」

「……ごめんなさい」

「……反省してます」

 コンクリの地面に正座して、ロータスの説教を聞いているエリーナとトモミを皆がら、あたしはスズキが建物から持ってきたアイスバーを囓っていた。

「そういや、ブラッドレーだったよね。C-130じゃギリギリ積めないんだよなぁ。なにか因縁があるとかで、できればみせるなって言われてるんだけど、あれが積めてなおかつC-130並の離着陸性能っていったら、C-17くらいしかないんだよね。ほとんど理解できないけど、前の世界にも存在したとかしないとか……」

「ああ、あの輸送機か。あれは便利だったな。こっちにもあるのか?」

 あたしが聞くと、スズキはうなずいた。

「当たり前のようにあるよ。数も結構豊富だし、あの説教が終わるまで暇だろうから、一緒に見に行こう」

「おう!!」

 こうして、あたしたちは飛行機が集められている区画に移動した。


「ホントだ、たくさんあるな……」

「ここまでの能力は要らないとか、色々な理由であんまり人気ないんだよね。もったいないから、一機あげるよ。ここにおいといたら、腐っちゃうし!!」

 スズキが笑った。

「ま、また、ビッグなプレゼントを!!」

「お布施ってことにしとく。リズは飛ばせるの?」

 スズキが笑みを浮かべた。

「できるわけねぇだろ。その気になったら魔法で飛んでたな。魔法が分かるかわからねぇけど、生身でマッハ六とか出してたぜ!!」

 ……そんなバカは、あたしだけです。

 スズキがきょとんとした。

「生身でマッハ六!?」

「昔の話だよ。こっちにきたら魔法が使えなくなったから、そういう意味では普通だな!!」

 スズキが笑みを浮かべた。

「やっぱ、半端ないよ。これは、マッハ六は出ないけど……」

「……知ってるし出ても困るよ」

「おい、どこ行ったかと思ったら、ここだったか。どうしたんだ?」

 説教が終わったようで、イリーナとトモミを連れたロータスがやってきた。

「おう、リズに一個あげようと思って!!」

「一個って、オモチャじゃねぇんだから……」

 瞬間、ロータスを始め三人が呆けたような表情を浮かべた。

「お、お前が一個あげるのか?」

「うん、輸送機があった方が、仕事の範囲も広がるだろ。いわれてはいたけど、要求スペックが合いそうなのって、これしかなくてね。C-17ならいっぱいあるから!!」

 次の瞬間、イリーナがあたしにしがみついた。

「でかした。これで、色々できるぜ!!」

「……あたし、なにもしてないよ?」

 ロータスが小さく笑った。

「リズ様がいれば安心ってか。こりゃ、仕事取り直してくるか。イリーナ、リズじゃ分からねぇだろうから、しっかり見立ててやれ。

「おう、任せろ!!」

 仕事を変更しにいったロータスに代わり、イリーナが先頭に立って居並ぶC-17の選別がはじまった。

「どれも新造機ではないね。だから、いいんだけどさ。癖がはっきりしてるからね」

 ざっと二十機以上はあるC-17をみてる歩くうちに、一機の垂直尾翼を指さしてイリーナが笑った。

「これ、あの世界にあったヤツだよ。識別コードが同じ!!」

「なに!?」

 見た目では分からなかったが、イリーナがいうならそうなのだろう。

「これねぇ、いつの間にかあった謎機体なんだよね。知ってるなら、これがいいかな」

「どうもこうも、これにしろって圧すら感じるぞ。イリーナ、これでいいだろ?」

 イリーナは苦笑して首を横に振った。

「変な世界で酷使されすぎてる。すぐにエンジンがダメになるよ。この子なら問題ないな」

 その二機隣のC-17をみて、イリーナはうなずいた。

「うん、私もそう思うぞ。一番程度がいいやつを選ぶとは、さすがだね。意地悪のつもりじゃなかったんだけど、他の選んでもこれにするつもりだったんだ!!」

 スズキが笑みを浮かべた。


「お前らもちょっとは遊びてぇだろ。ガロモン王国の魔物退治って取ってきた。終わったらビーチでバーベキューでもやろうぜ!!」

 飛行場にいた人総出で選んだC-17を駐機場に引っ張り出していると、一人でブラッドレーを操縦してきたロータスが笑みを浮かべた。

「ガロモンか。まあ、ちょっと遠いけど輸送機でなら一時間もあれば着くね。私はこっちでやることあるから、トモミもいってくれば。暇だってぼやいてたし!!」

「わ、私!?」

 トモミが驚きの表情を浮かべた。

「こっちは構わねぇぜ。いざって時は、一人でも多い方がいい!!」

 ロータスが笑った。

「おう、いいんじゃねぇか。いこうぜ!!」

「え、えっと、武器は拳銃しかないし……」

 ロータスが操縦席ハッチから飛び出し、後部ハッチを開けた。

「お見通し。いつもの武装はこれだろ?」

「は、はい!?」

 トモミが後ろから車内に入り、その全てを点検し始めた。

「いつも通りどころか、かえってよくなってる気が……」

「ああ、私の見立てでより適切なものに変えてある。どれも、基本的には変わらないはずだ。スズキもこいよ、お友達が一人で寂しくなっちまうぞ!!」

 スズキがびっくりして飛び上がった。

「わ、私、陸戦の経験ないよ!?」

「誰だってそうだ。いざとなったら、リズを盾にでもすれば……」

 反射的に握った拳を開き、あたしは苦笑した。

「ああもう、盾でもなんでも使え!!」

「そんな事できないって!?」

「は、はい、それはもちろん!!」

 あたしは小さく笑みを浮かべた。

「……それが、神だ」

「うっそ!?」

「な、なんてことを!?」

 ロータスが笑った。

「まあいい。二人ともいくぞ。とっとと、こいつを載せちまおう」

 無事に引き出され。後部ハッチが開いたC-17に操縦を変わったイリーナが慎重に載せた。

 貨物室にワイヤで固定し、ブラッドレーの積み込みは完了した。

 そのまま五人で機内に入り、スズキは迷わずカーゴルームに移動した。

「あれ、操縦しないの?」

 エリーナが不思議そうな顔をした。

「うん、仕事に出るって事は受けたチームの責任だからさ。私は後ろでのんびりしてるよ」

 スズキが笑った。

「だって、こりゃ下手な操縦はできねぇぞ!!」

「だねぇ、燃えてきたぜ!!」

  ロータスとイリーナが笑って操縦室に入って行った。

「うわ、輸送機なんて滅多に乗らないよ」

「私だって乗らないよ。リズもこっちだ!!」

  あたしの手を引っ張って、スズキは壁際の椅子だかなんだか分からないものに座った。

「これ、痛いんだよね……」

  あたしを挟む形で、トモミが腰を下ろした。

「いつも飛行場だから、たまにはこういうのもいいな!!」

「私はいつも徒歩だから。馬車くらい欲しいのに」

「……ここにきて、なんで馬車?」

 ともあれ、あたしたちを乗せた輸送機は、程なくエンジンをスタートさせた。

「おう、いい音だ。このエンジンは当たりだぜ!!」

「馬鹿野郎、場所を考えろ。小屋がぶっ飛んじまうぞ!!」

「……ナイス、連携。仲いいな!!」

  あたしは苦笑した。

  輸送機が動き始めると、スズキがそっと手を握ってきた。

「恥ずかしい話なんだけど、人が操縦する飛行機に乗るのが怖くてさ!!」

「へぇ、意外だねぇ」

 輸送機が滑走路に入ると、急発進してあっという間に離陸した。

「……これ、こんな高性能だったのね」

「う、うん、短距離離着陸性能が高いから。でも、これは驚異的だよ」

 輸送機の高度が上がると、スズキはため息と同時に、あたしの手を放した。

「ふぅ、こんだけ上がれば大丈夫。ごめん!!」

「誰だって怖いものはあるさ!!」

 あたしは笑った。

「ガロモンですか。一度行きましたが、南国のいい島国なんです。高い料金を払って乗せてもらってですが。どうしても、空路になってしまうんですよね」

 トモミが笑みを浮かべた。

「へぇ、そりゃ楽しみだ!!」

 あたしは笑った。

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