第10話 いざ、仕事へ……の前の一服

 車の修理には約五日かかるらしい。

 その五日目、ピカピカになって戻ってきたブラッドレーとランドローバーを縁側に座ってみながら、あたしはこっちの世界にもあったド○ペを飲んでいた。

「しっかし、暑いな。もう夏か?」

 強めの日差しに照らされていると、四輪車でスズキがやってきた。

「おう、暇か?」

「おう、暇だ!!」

 ……どうにもならん挨拶。

「そっか、ならまた銃でも撃ちにいこうぜ!!」

「なんだよ、填まっちまったか!!」

  あたしは縁側から立ち上がり、スズキの車に近寄った。

「なんだこれ?」

  車体後部の荷台には、細長い袋がもぞもぞしていた。

「いけね、忘れてた!!」

  スズキが慌てて袋の口を解くと、げんなりした様子のトモミが出てきた。

「……なんかのプレイ?」

  呟いたあたしの頭に、ロータスのゲンコツがめり込んだ。

「ったく、騒がしいと思ったらよ!!」

「……いつきたの。気配を消すな」

 ロータスは自分の拳銃を抜いて、マガジンの残弾をチェックした。

「撃ちにいきてぇんだろ。すぐにイリーナもくる。トモミもチェックしてもらった方がいいな。あの成績じゃシャレにならねえよ。お見通し!!」

「うひゃあ!?」

 トモミが袋に自分で戻った。

「……えっ、そこは世界一殺さなくても、しっかりしてねぇと説得力がねぇぞ」

「まあ、世界一実弾を撃たない軍隊としても有名だからよ、ある意味しょうがねぇけどな」

 なんてゴネゴネしていたら、イリーナも出てきた。

「なんだおい、すっかり射撃好きか!!」

「おう、おもしれぇ!!」

 スズキの声に笑みを浮かべ。荷台のトモミをみた。

「こら、こっちは覚えなくていい!!」

「……くるぞ」

 思わず身構えたあたしだったが、なにもおきなかった。

「……あれ?」

「人さらいはもう十分やったし、教えたくない!!」

 エリーナが笑った。

「こ、今度は真面目かよ!!」

「本来、そういうテクニックだ。さて、いくぞ!!」

 袋からトモミを引きずり出し、ロータスは笑った。


 射撃場まで歩いて移動し、射撃場で弾薬を買った。

「そういや、トモミってなに使ってるの?」

「は、はい、さすがに官給品は使えないので、こちらで買ったものですが、重いのが悪いのか、なかなか……」

 トモミが取り出したのは、いかにも拳銃という感じの大型のオートだった。

「ああ、M1911か。ガヴァメントとでもいうかね。四十五口径はキックも強いし、この体格じゃきついでしょ。ここの射撃場でも、少しは売ってるからまずはそこからだね」

「は、はい」

 イリーナがトモミ連れて、数は少ないが銃の物色を始めた。

「すっかり、教え役が定着してきたな。それでいい!!」

 ロータスが笑みを浮かべた。

「よし、三人で勝負するか。五発撃って額のど真ん中に一番多く集めたヤツが勝ちだ!!」

「うぉ、ロータスと勝負かよ!!」

「ろ、ロータスとか。空ならまだしも、こっちでか」

  渋い顔をするスズキが、あたしの右腕を掴んだ。

「これで大丈夫。勝てる!!」

「あ、あたし、そういう神じゃないよ!?」

「何だっていいんだよ。それが自信になるならな!!」

 ロータスは笑ってブースに入った。

「何だっていいのかよ……」

 あたしはその隣のブースに入り、その隣にスズキが入った。

「好きなタイミングで撃て。いくぞ!!」

 トータスの声が聞こえ、発砲音と同時に自分の的の額をぶち抜いた。

「……あら、マジなのね。じゃあ」

 あたしも的を撃ち抜き、スズキもなかなかいいところをぶち抜いた。

 あとは淡々と五発撃ち、手元に寄せた的をみると、あたしは一発大きく外していた。

「あれ、失敗だぜ。スズキは?」

「私は二発大外れ。ダメだ!!」

  スズキが自分の的をみて笑った。

「まあ、そんなもんだろ。それでも上出来だと思うぜ!!」

  ロータスがみせた的には、額の真ん中一点に一つの穴しか空いてなかった。

「私も捨てたもんじゃないな。ワンホールショット。決めると気持ちいいぞ!!」

「……知っていたつもりだけど、ロータスのマジは強すぎる!!」

「うひゃ!?」

 ロータスが笑った。

「そりゃお前、裏方ってのはこういうもんだ!!」

「な、なにやってるの!?」

「そりゃ、色々さ。さて、あっちはどうかね」

 ロータスの視線の先を見ると、イリーナとトモミが銃を買って戻ってきていた。

「出やがったな、お家芸のワンホールショット!!」

「ああ、たまにやっとかないとな!!」

 イリーナとロータスが会話を交わし、トモミの手には真新しい銃があった。

「いやさ、当たり前にグロックとかはあったんだけど、普段はアサルト・ライフルを使ってるっていうし、いざって時の一撃でいいと思って、お友達とオソロのワルサーPPKにしておいたぞ。これなら、そんなに負担はなかろう!!」

「はい、大きさもちょうどいいです。これならば………」

 ワルサーを手にしたトモミは。小さく笑みを浮かべた。

「じゃあ、早速練習しようか!!」

「あっ、待って。あんたは私よりヘボだから、神様に抱きついとけ!!」

  スズキがトモミを無理矢理あたしに抱きつけた。

「あ、あの、これの意味は?」

「あ、あたしに聞かないで!!」

 しばらくしてトモミを引っぺがし、スズキはそのままイリーナに押しつけた。

「これで、まともになったかと」

「な、なんで!?」

  イリーナが笑った。

「私も何度やっったかな、困った時の神頼み。そんなもんだ!!」

「そーいうこと、なんだっていいんだよ!!」

「そんなことないぞ。二発は大外れを外れ、3発はあの場所をスバってぶち抜いたもん。絶対、いいことあったぞ!!」

 スズキがにやっとした。

「おい、そんな能力あるのかよ?」

「それ、私も抱っこしとこ……」

 いきなり真顔になったロータスとイリーナが、あたしに力強く抱きついた。

「こ、こら、あたしになんの修正が加わったんだよ!!」

「修正ってなんか分からないけど、あの火災のあとで飛んだ連中がとんでもないハイスコアをたたき出しているんだよね。信じらんないよ、無謀にもロマン様が乗って出たスピットファイアが、F-22を撃墜したんだよ。もう、なんかの御利益があったとしか思えないし。だったら、あのときとしか!!」

 スズキがあたしの手を握った。

「つまり、こうやっときゃ最低でも死なない!!」

「え、エラい能力が開花してるし!?」

  ロータスとエリーナが吹き出した。

「早くも飛行機野郎の守り神になってるぞ!!」

「しっかし、お前もいつ開花したんだよ。こりゃいい!!

「……まあ、減るもんじゃないし、好きに使ってくれれば」

 というわけで、トモミの射撃練習が始まった。


「わ。私が。こんな成績を!?」

「おう、神様パワーだけじゃないぞ!!」

 自分が撃った的をみて、トモミが目を見開いていた。

「よかったじゃん。これもちゃんと納めておけ!!」

 スズキがトモミのドッグタグを外し、あたしにつけた。

「ジャラジャラ大変だな!!」

 ロータスが笑った。

「なに、今度はこうなっちまったのか?」

 あたしは苦笑した。

「所詮はおまじないみたいなもんさ。もっとも、スピットがラプターを堕としたのはすげぇが、条件がよかったんだろ!!」

 ロータスがあたしの肩を叩いた。

「よし、ほどよく遊んだし、仕事するか!!」

「おう!!」

「あいよ、いつでもいいぜ!!」

 あたしたち三人が声を上げると、スズキがあたしの服の裾を引っ張った。

「何するかしらないけど、見学させてよ!!」

「私もみたいかも……」

  スズキとトモミがいった。

「じゃあ、お前らはアパッチでも乗ってこい。トモミはあっちの世界では、アパッチのガンナーでブイブイ言わせてる。お見通し」

「なに!?」

 いち早くイリーナが反応した。

「な、なんで、それを!?」

「ああ、そうだったね。一緒にきてる野郎どもは、普通の普通科だけど、どういうわけかトモミは航空隊なんだよね!!」

 イリーナの顔が引きつった。

「あのさ、仕事の前にちょっと腕みせてくれる?」

「は、はい、大した事はないですが」

 スズキが笑った。

「知らねぇぞ、怒られても。半端ねぇから!!」

 イリーナがそっとあたしに抱きついた。

「……これで、怒鳴られない。大丈夫」

「うぉい!!」

 イリーナが笑みを浮かべた。

「飛行機くれねぇんだもん。こういうときしか、飛ぶチャンスがねぇ!!」

「あれま……」

 ロータスが笑った。

「しょうがねぇな、二人でやってこい。スズキも一緒に行った方が早いな。私とリズは仕事探しと準備してるぜ!!」

「おうよ、あとでな!!」

 いったスズキの口元には、堪えられない笑みが浮かんでいた。

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