第7話 こういう戦いもある

 まあ、簡単な輸送作業だったはずが、いっぱしの局地紛争のようなものに巻き込まれたあたしたち。

 もはや、こうなったら客もなにもなかった。

 一緒くたに行動するのは効率が悪いと、ロータスとイリーナがじゃんけんで順番を決め、六名から引き抜いていく形で、急造で二班に分かれた。

 あたし一人が余る形になったが、車に一人は残らないといけないため、今回は無線交信担当になった。

「おう、しっかり留守番してろ!!」

「多分、そんなに掛からないと思う。いってくる!!!」

  ロータスとイリーナが車の両脇の森に歩いていった。

「さて……」

 砲手席に戻ったあたしは、インカムをつけて無線に耳を傾けた。

『ロータス!!』

 いきなり、無線に鋭い女性の声が飛び込んできた。

「こちらリズ。ロータスとイリーナは散歩中だぞ」

『ああ、遅かったか。その辺りに潜んでるの、人間サイズの手の込んだ野郎で、正確な数は不明。どうも、村の防御用に配備してあったみたいだけど、ご覧の通り待機モードのままね。いちゃったなら仕方ない。三機くらい連れて、ばかすかやらせてもらうから!!』

 それきり無線は途切れ、車の上をサッと気鋭が横切った。

「あーあ、大惨事決定だな。警告だけはしておくか……」

 あたしは無線のチャンネルを切り替えようとして、ふと手が止まった。

 何やら妙な気配がする小ぶりの戦車……M60が瓦礫を乗り越え。こちらに、向かってきていた。

「ヤバいな、今は動けない。目ざといスズキもいってなかったしな

 そもそもが射程圏内のはずだが、攻撃してこないのもおかしい。

 とりあえず、TOW対戦車ミサイルをロックオンしてから、あたしは慎重に様子をうかがった。

「馬鹿野郎、とっと撃っちまえよ!!」

 どこから戻ってきたのか、ロータスが車内に入って苦笑した。

「あの連中と遊んでたら、スズキの頼んでもいない近接支援でメチャメチャよ。とっとと帰ってたぜ!!」

 ロータスとイリーナが笑った。

「それにしても、やっぱりアイツだったな。あの戦車の砲塔をみてみろ、動けなくてジタバタしてるのが見えるぜ!!」

 砲塔の上から、ロータスの笑い声が聞こえた。

「なぁ、どうやって動いてるんだ、あれ。まあ、いいや。ぶっ壊しておくか」

 あたしはこしのショットガンに手を当て、小さく笑みを浮かべた。

「村一個ぶっ壊したんだ。こいつで蜂の巣にした方がいいかもしれねぇが。せっかくここまで、ロータスがお膳立てしてくれたんだ。これ一発で十分だ!!」

 あたしはロックオンしたままの戦車に向かって、ミサイルを一発打ち込んだ。

 的状態の戦車に余裕で命中したミサイルは、小爆発を起こした。

 その数瞬議、砲弾でも積んでいて誘爆したのか、ド派手に戦車が爆発した。

「よし、邪魔者は消えたぞ。世界一人を救った軍隊様号一行は、もう作業してるぜ。アイツらに比べたら素人だが、手伝いにいくぞ!!」

  ロータスが笑った。


 あえて名は明かさないが、あたしがいた世界を消滅させるきっかけを作ったのはアイツだった。

 その後もしばらくちょろちょろしていたが、ある存在が致命傷といえる一撃を与え、そのまま黙らせた。

 そして今、対戦車ミサイル一発で粉々にしたわけだが……まあ、これはいいだろう。

 訓練も受けていない生身では、大した事もできなかったが、あたしたちの車にあるだけの機材でテキパキと作業をしていく六人は凄かった。

「よし、こっちは任せて良さそうだな。さすがだぜ!!」

「はい、任せてください」

 ロータスの言葉にトモミが返事して、救助作業は順調に進んでいった。

「はい、ご飯です。戦闘糧食ですが……」

 車で警戒態勢をとっていると、トモミが温めた銀色のパックと缶詰を持ってきた。

「……く、食えるの?」

「はい、これは鶏飯で缶詰はやっぱりこれの沢庵です。食べられる程度には、おいしいと思いますよ」

 トモミが笑みを浮かべて車から離れていった。

「安心しろ、両方とも美味いと大好評だ……」

「なんで、私にはあのくそボロいレーションなんだよ……」

 ロータスが遠くを見つめ、イリーナが缶とパックを見つめた。

「そ、そこまでか……。食ってみよう」

 あたしはまずは銀パックを開封し、中身を絞り出すようにして食った。

「う、うめぇ!!」

 なんだか分からないが、美味いことは事実だった。

「だろ、そっちの沢庵もやたら美味いぜ!!」

 ロータスが缶切りを放ってきたので、あたしはそれで缶をあけて中身の何かを食った。

「この野郎、パリパリしやがって。マジ、うめぇ!!」

 あたしは手早く飯を食った。

「な、なに、野戦糧食って事は、こういうときに食うもんだよな。下手な飯屋の飯よりうめぇぞ!?」

「そうだな、お国柄なんだろうな。私なんか、どっかの誰かに惹かれて学食で食うまで、飯食った事ねえからな。食えるだけマシだな……」

「そうでもない。食えるだけ残酷な事もあるぞ。なんだよ、あの薬品の塊はよ……」

 ……ロータスと犬姉が、かえってこなかった。

「……ツッコミはやめておこう、面倒な事になる」

 あたしが思わず苦笑したとき、インカムで無線ががなった。

『おーい、ロータスは戻ったか。空の大掃除は完了したぞ』

 どうりで攻撃がないと思っていたら、上空はスズキがしっかり押さえていたようだ。

「おい、あの制服似合ってるじゃねか。なにが、総務だよ!!」

  それだけ言い残して、あたしはわざと無線を切った。

「ああ、スズキか。みたぞ、バッチリな。うるせぇ、怒鳴るな!!」

 ロータスがそれこそ、無線で怒鳴った。

「んなことより、どうなってるんだ。ああ……」

 ロータスとスズキの会話はしばらく続き、最後にロータスが笑った。

「あの制服を着るにふさわしいか。私とイリーナでチェックしてやる。素人じゃねぇなら、容赦しねぇぜ!!」

「こ、こら、勝手に巻き込むな!!」

 一声叫び、イリーナは笑った。

「ったく、二対一かよ。これ、負けたらどうにもなんねぇよ。やめとけ!!」

「うるせぇ、なんだって勝てばいいんだよ。ダメだったら、リズもだ。三対一なら、なんとかなる!!」

「……え、エンジンのかけ方もしらないよ?」

 ロータスは笑い、小さく息を吐いた。

「アイツが調べたっぽいぜ。そしたら、ここ一週間この村に国軍は攻撃を仕掛けてねぇ。つまり、これは想定外の事だ。あの野郎らしく、短絡的に村をぶっ壊したらしいな」

「あの野郎は……」

  あたしはため息を吐いた。

「とにかく、ここの救助作業だけでも応援を呼んで。あの六人だけじゃ厳しいって!!」

「言われるまでもねぇ。増援がきたら、私たちは初心者の街に戻ろう。いてもやることがねぇからよ!!」

 ロータスの苦笑する声が聞こえた。


「ああ、ここに運んでいただくという契約でしたね。すでに前金でお支払いしていますが、危険な事があったので、上乗せを……」

「いらねぇよ。またどっかで会おうぜ!!」

 多数のヘリで救助隊がやってくると、あたしたちは六人に声を掛け、追加料金を払おうとしたトモミを制し、ロータスが車に乗り込んだ。

「じゃあな!!」

 砲塔上ハッチから身を乗り出したロータスが声を上げ、車は轟音と共に走り出した。

 メチャメチャな村を抜け出し、街道を走り始めたその時刻は、大体昼くらいだった。

 しばらく進んだ道ばたの草地に、見るからにゴツい戦闘ヘリが着陸していた。

「おいおい、スズキがお待ちかねだぜ!!」

 インカムにロータスの声が飛び込み、車はヘリの脇で止まった。

「またAH-64Dだって。このロングボウ野郎!!」

「イリーナ、さすがに意味が分からねぇぜ……」

 あたしたちが車を降りると。ヘリの脇に立っていた、ボーイッシュな女の子がニカッと笑みを浮かべた。

「貴様、生きてやがったか!!」

「貴様もな!!」

 ロータスとスズキが握手を交わした。

「……これ、なんとかならんの?」

「なんともならん。生存を称えあう戦士の挨拶じゃ!!」

 イリーナが苦笑して、あたしを背後から軽く抱いた。

「私たちはこっちだ。お疲れ!!」

「おう、ただの輸送にしては、面白かったぜ!!」

 あたしはそっとイリーナに寄りかかった。

 話すとエラい長くなるので結果だけ述べるが、あたしとイリーナは親子の関係にある。

 父親もちゃんと健在だが、ここにはいないし諸般の事情でここで話す事もできない。

 今さらだが、あたしのフルネームはリズ・ウィンド。

 イリーナも実の親ではないが、イリーナもウィンドを名乗り、父親もここではウィンドといっておこう。全て、あたしに合わせてくれたのである。

「おい、イリーナ。みてやるから飛ばしてみろとか、スズキのたこ野郎がナマいってるぞ!!」

 ロータスの声で、イリーナはあたしを軽く抱きしめ、小さな笑みを浮かべた。

「ガキンチョがナマいってんじゃねぇ。手加減はしてやんねぇぞ!!」

「あたしをおいて、イリーナはヘリに近寄っていった。

「あーあ、始まったぜ。こりゃ、しばらく掛かりそうだな!!」

 あたしは苦笑して、操縦席に乗り込むイリーナを見送った。

「へぇ、いうだけあっていい離陸だぜ。これなら、即応でもズバッと飛び立てるな」

 スズキが口笛を吹いた。

「ああ、いっとくぞ。ヘリはこいつの専門じゃねぇんだが、何だって乗れて飛べるって大喜びしてな。今じゃこれだぜ!!」

 ロータスが呆れたように苦笑した。

「うん、こっちは陸自の管轄だしね。ここがいいのは、そういう壁がない事だ!!」

 スズキは大きく伸びをした。

「へぇ、なんか大変そうだねぇ……」

「どこにでもある縄張り意識だよ。特に、こういう組織はアツいから大変だよ!!」

 スズキは首に提げていた金属性の小さな名札を外し、あたしの首に提げた。

「トモミから聞いてるぞ。なんか知らないけど、どう考えてももうダメな状態の人を一撃で治したとか。なんだ、神ってこんなところにいたよってのが正直な感想だし、だっただら拝んでおかないとね。これで安泰じゃ、飛行機乗りって案外こういうのうるさいんだぞ!!」

「ば、馬鹿野郎、勝手に拝むな!!」

 スズキは笑って、ちょうど戻ってきたヘリから降りたイリーナと怒鳴り合いを始めた。

「ああ、こりゃ長ぇぞ。アイツの専門はヘリだし、専門外のスズキがあーだこーだいったらどうなるか……よし、暇だしひとっ飛びするか?」

 ロータスの言葉にうなずき、あたしはヘリに近づいた。

「こういうタンデム型の戦闘ヘリの場合、飛ばすパイロットは後席なんだ。前席はガンナー席っていって、とにかくぶっ壊す事だけ考えればいい。そういう配列なんだ」

  ロータスは説明しながら、あたしを前席に座らせた。

  後席に座ったロータスが色々やってると、甲高いエンジン音が聞こえてきて、勝手に風防ガラスが閉じた。

 しばらくして、素早く離陸した機体が、適当な感じで飛んでいくと、さっき出発したばかりの村の上空に差し掛かった。

「……こりゃひでぇな。ほとんど壊滅じゃねぇか」

 まともな場所がない。

 そんな村では、あの六人が救助隊を指揮して働いているのが見えた。

「……力はやたらと使うな。経験だな」

 あたしは思わず苦笑した。

 しばらく村の上空を飛んだヘリは、ゆっくりと元の場所に戻ったのだった。

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