第6話 小さな村で大きな戦い

 途中でちょっとあったが、概ね順調に道を走り抜け、車はフォースビルに到着した。

 時刻は明け方からやや過ぎ、辺りはもう明るかった。

 それはよかったのだが、村はほとんど壊滅状態で、あちこちで時々爆光や爆音がおきていた。

「まあ、どう考えても平時じゃねぇな。何がおきてるんだ?」

 とりあえず物陰に車を隠し、全員で降りてから、ロータスが口を開いた。

「は、はい、そろそろ少し大きな仕事を受けようと、この依頼を受けたのです。Dランクでしたし、何となると思ったのですが、ここの鉱山で産出される金を国が独占しようとして揉めていたら、こうなってしまったようです。『ちょっと痛い目に遭わせてやれば大丈夫』と聞いていたのですが、これは痛い目どころじゃないですね」

 トモミがため息を吐いた。

「アハハ、よくあるぜ。で、どうすんだ?」

 あたしは笑ってショットガンを抜き。隣に立っていたロータスの肩に短い銃身を乗せ、ちょっとした茂みになっている林に向かって、迷うこと事なく引き金を連続で二回引いた。

「全員乗車、どうするもこうするもない!!」

 派手に飛び散った散弾にやられれた戦闘服姿がバタバタ倒れていく中、あたしはショットガンに二発リロードした。

「ば、馬鹿野郎………うるせぇ」

 ロータスが耳を押さえて頭を振った。

「一回やってみたかったんだこれ。イリーナでやったら、ぶっ殺されるかららな!!」

「おう、やるか!!」

 手にしていたサブマシンガンを肩に提げ、ここぞっといいうときにしかやらない左右二丁拳銃で、すさまじい発射速度で林の中をひたすら撃った。

 その銃弾の前に、次々とさらに戦闘服姿がバタバタ倒れた。

 最後にサクッと左右のホルスターに拳銃を戻し、吐息を漏らした。

「なぁおい、ロータス。撃っちまったけど、どうしようか?」

「馬鹿野郎、状況も分からねぇうちに撃つんじゃねぇ!!」

 ロータスが怒鳴るついでに、あたしの後頭部に拳をめり込ませた。

「……ジタバタするんじゃねぇ。撃ってくるヤツが敵だ。いいだろそれで?」

 あたしは小さく鼻を鳴らし、笑みを浮かべた。

「……嫌いじゃねぇな。そういうもよ」

 ロータスが笑みを浮かべ、あたしにめり込んでいた拳を引っこ抜いた。

「ああ、悪い。お前らの意思を聞いてなかった。この依頼はどう考えても不成立だ。怪我してもしなくても金にならねぇ。ここで帰った方がいいとだけいうが、嫌じゃなければもう一回乗ってくれ」

 ロータスの声に六人は迷わずうなずき、再び車の後ろに乗った。

「へぇ、やる気は満々か。おもしれぇ事になりそうだぜ!!」

「おう、こりゃいい」

 ロータスとイリーナも車に向かった。

「……あんだけ殺気放ってたら、バカでも撃つぞ。ったく!!」

 車に向かいながら。あたしは小さく笑みを浮かべた。


「いくぞ。微速前進」

「はいよ」

 インカムにロータスとイリーナの声が聞こえた。

 照準器モードの画面をみながら、あたしは油断なく見える範囲でチェックしていた。

 程なく、村の入り口にあるガタガタになった木戸が見えてきた。

「この様子じゃ、計画的に地雷は配置していないだろうな。リズ、あのくそボロい木戸をぶっ壊せ!!」

「あいよ!!」

 あたしは即座に照準を合わせ、木戸に一発単射モードで二五ミリ弾をたたき込んだ。

 木戸は綺麗にぶっ飛んだ。

「よし、進め。ついでに、航空支援も要請しておいた方がいいな」

  ロータスの声が聞こえ、車は村の中にゆっくり入っていった。

  まずは、砲塔を旋回させて情報収集。

  危険を感じた瞬間、ロータスが全速後退の指示を出した。

「うぉっ!?」

  ロータスが声を上げ、爆音と共に車体が揺れた。

「アブねぇ、ドラゴンが五百ポンド爆弾落としていったぞ!!」

「……大丈夫、そういうの慣れっこだし」

「……あの世界はね。なんでもありだったからね」

 危ないということで、車は一度村の外に戻った。

「はぁ、航空攻撃には弱いんだよな。するのは得意なんだけどよ!!」

 再び車を降りると、ロータスがため息を吐いた。

「まあ、あいつだ。スズキに航空支援をしたら、十分で行くっていってたからな」

 ロータスは笑みを浮かべ。イリーナの肩を叩いた。

「やかましい。操縦なんて下らねぇ事は、機械にやらせておけばいい!!」

 イリーナが大声で笑った。

「スズキって、もしかして初心者の街でどうとかいってた、総務課のスズキさん!?」

 いきなりトモミが大声を上げた。

「……まさかの知人ってやつか?」

 ロータスがあたしの耳に手を当てて聞いた。

「……知らねぇよ。なぁ、ソウムカってなんだ?」

 あたしはイリーナの耳に手を当てて聞いた。

「馬鹿野郎、学院長やってて知らないのか!!」

「ああ……一番謎の部署だったな。課長の名前しか知らなかった」

「どっかの秘密組織か!!」

 ……結局、永遠の謎組織。カリーナ魔法学院 総務課。

「あ、あの、スズキさんってこういう方なのですが、こっちであったら遊ぼうって言われていて……」

 トモミが平べったい機械……ええい、もう分かる。

 スマホに写った写真を見せてきた。

「うぉ、アイツあっちじゃめっちゃまともじゃん!?」

 ロータスが写真をみて素っ頓狂な声を上げた。

「いや、びっくりしたぜ!!」

 スズキというのは、ここで知り合ったどっかの世界の人間だ。

 扱いが難しいので、この世界ではそう多くない戦闘機乗りの明るいお姉さんだった。

 ここでみる普段のだらけ顔とは違い、何やら制服をバリっと着込み、綺麗な敬礼を放っていた。

「……あのさ、もしかしてスズキってなんかのプロ?」

 イリーナがそっとトモミに聞いた。

「はい、プロっていうか空自でF-2のケツを蹴飛ばしてどうとか。よく分からないこといってました。あっ、これは聞かなかった事に。総務課だといえといってました!!」

「おいおい、もうダメだろ!!」

 あたしは笑った。

「え、F-2だと。こっちじゃ超絶レアな野郎をイケイケでぶっ飛ばしてやがるって、完璧にプロじゃねぇか。どうりで、どうやってもあと一歩届かねぇわけだ。そこが、ひたすら飛んでるプロだからな!!」

 イリーナが苦笑してため息を吐いた。

「ああ、そこはお見通しだったが、やたら格好いいのがむかつくな。おい、帰ったら二対一で袋だたきにしてやるか?」

「……無理って嫌いな言葉だけど、アイツはいかん。もう一歩、私たちじゃ足りない何かがあるんだよ。やるだけ恥かくよ」

 イリーナが言ったとき、上空に数十機からなる航空機の大編隊が現れた。

「さて、始まるぜ。あの野郎、騙しやがったな!!」

 イリーナが上空を眺めて苦笑した。

「まあ、航空機は少ないからって、配給制になってたんだからよ。その元締めが『不適格』を出したんじゃ文句もいえねぇよ。私なんて一分であっという間に『撃墜』だぜ。やってらんねぇよ!!」

 ロータスが指でピストル型を作って、空に向けてバンといった。

「そ、そんな事をしていたんですね。私たちは陸自なので、友人という以外全く接点がなくて……」

 トモミがいった瞬間、ロータスが固まった。

「おい、陸自っていったな。基本だ、何号でもいいから六人全員匍匐してみろ。基本だぜ」

「は、はい。好きなのでいいのですね」

 六人はサッと地面に伏せ、非常にスピーディに匍匐前進してみせた。

「大体分かったぜ。お前ら、むしろ私たちに教えるくらいじゃねぇとダメだろ。なんだよ、あのくそボロい装備は!!」

「え、えっと、どうせなら気分を変えようと思って………」

「馬鹿野郎!!」

 ロータスが地面に伏せたままの六人の頭にゲンコツをめり込ませた。

「なんだ、プロなら話は早いぜ。さっきっから、こっちをこっそり伺ってる馬鹿野郎どもを掃討するぞ。どうしようかと思ってたぜ!!」

「あの、世界一人を助けて世界一人を殺さない軍隊に、なにを?」

 あたしは笑った。

「へぇ、そんな軍隊もあるのかよ。ある意味、最強じゃねぇか。国民を守るのが意義だって軍隊だったらな!!」

 あたしがいった瞬間、地面から飛び上がってトモミが手を握った。

「異世界でもどこでもいい。私たちを肯定してくれるなら……」

「……な、なんか、大変なのね」

 あたしは、苦笑してトモミを軽く抱きしめて放した。

「あたしたちは仕事じゃなければ、初心者の街のあそこにいる。無駄話でもいいから、六人纏めてくればいいよ。この戦局を乗り越えたらな!!」

 あたしはトモミの肩を叩いた。

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