第0話 閑話:作者とかいう野郎とあたし

 閑話:作者とかいう野郎とあたし


 いつも通りの軽い酩酊感の後、あたしは「穴」としか呼べない口を飛び出した。

 間を開けず、あたしの両脇をそれぞれ、ロータスとエリーナが挟んで立った。

「よし、無事に帰ってきたな。どうもこう、頭が乱気流でいかんな……」

 あたしたちの前に立っていた、作者とか名乗るオッサンが頭を掻きながら、机の前にある椅子に座り左肘を乗せてため息を吐いた。

 あたしもため息を吐き、そっと声を出した。

「あたしのせいだったんだろ、この不調は。病院じゃいつもの空耳がひでぇとかいってたけど、ごめんなさい」

 あたしは作者に向かって頭を下げた。

「馬鹿野郎、謝られたらかえってな。頭の中で騒いでくれた方が、よっぽどマシなだ。ちょっと待ってろ。書けば勝手に治る」

 作者は口角を上げ、いつも通りガタガタ机まで揺らしながら、机上にあったノートパソコンをイジり始めた。

「ふぅ、リズ自身だったんだ。全く、聞いたことないよ」

 ロータスが小さく笑って、あたしの手を握ってベッドに座らせた。

「あたし……どうしよう。あれだけ振り回して五百万文字を超える文章を書かせて、それでも納得いかないからやり直しってやって、なんか変なところでぶち切って、延々と雑談して、見かねた作者が修正したら最悪な結果に繋がる事を平然とやって、『これがこの世界で起きた日記である。そして、世界は無に返った』なんて吐き出しちゃったら、さすがに放っておけないからって、全部削除……謝って謝れる問題じゃないぞ」

「問題ないって、そういうのも自分のせいで片付けるから。変な書き方してる方がいいのができるからって、聞けばこう答えるでしょ」

 ロータスが笑った時、猫を抱きながらエリーナがロータスと反対隣に座った。

「ここ、相変わらず猫が多いね。また増えた? って聞いたらさ。多分百二十匹くらい。増える一方だってさ。リズにはきついこというぞ。猫は増える一方だけど、ぶっちゃけ怖くて出せないんだって。不甲斐ねぇってさ!!」

 エリーナが苦笑して、あたしの頭を撫でた。

「怖いか。そうだよな……。よその世界創りまで妨害しちまった。もう、さすがに使ってくれねぇだろうな」

 あたしが呟いた時、作者がキーボードを叩く手を止めたぞ。

「おい、弛んでるんじゃねぇ。一から創るのは面倒だから、完結済みの世界を使うぞ。タイトルは『異世界の日常』だ。好きに暴れてストレス発散してこい。その並び通り、今度もリズ主人公だぜ!!」

 作者があたしたちをみて、にやっとした。

「えっ!?」

「は、早すぎるよ!?」

「いつもの同時並行十本書き。もう、この遊び場に私たちを放り込むつもりで帰還させて書いていたのでしょう。お見通しです」

 あたしとエリーナが声を上げ、ロータスが笑った。

「主人公って、またあたし!?」

「ってか、色々すごいぞ!?」

「まあ、もうできたという事は、そんな事はどうでもいいから、とっとと行けということです。今度はどうでしょうね」

  ロータスが笑みを浮かべた時、視界が真っ白になった。

「……ありがとう」

  あたしはそっと、目から顔に流れた涙を拭いたのだった。



 *私自身信じられませんし怖い話なのですが、潜在意識だかどこだかに入り込んだ執筆中のキャラに、事実上乗っ取られてしまったという、最近起きた極めつけ奇妙な経験をしました。

 まずないでしょうが、これはなかなかの恐怖体験ですよ。

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