第2話 肩慣らしの戦闘漬け

 この名もなき世界に飛んできたのは、いつ頃だっただろうか。

 あたしたち三人にも元の世界があるし、後ろの六人も当然そうだ。

 未舗装の街道を進んでいると、徒歩の旅人がまずいない事に気づく。

 これが、あたしたちが運び屋的な仕事があるかも……と、なんとなく思いついた事だった。

「おっ、一三時の方向。ゴブリンのクソッタレが、輸送トラックを狙って草原を爆走してるぞ。リズ、お前どっちにつく?」

 インカムからロータスの声が聞こえた。

「そうだねぇ、ゴブリンについてもくせぇだけで得はねぇな。どうあっても、輸送トラックしかねぇよ!!」

「馬鹿野郎、いちいち考えるな。決まってるだろ!!」

 インカムをぶっ壊す勢いで。イリーナが怒鳴った。

「ただの冗談だろ。いちいちぶち切れてるんじゃねぇ」

「お前らがいうと冗談に聞こえん。ほら、とっととぶっ殺す!!」

 ロータスの笑い声に、これ以上はないほどイリーナが怒鳴った。

「おお、怖いねぇ。リズ。ぶちかましてやれ!!

「はいよ、まずは先頭か……」

 ほとんど自動化された攻撃モードは、あたしの操作で目の前の画面に外の光景を映し出した。

「……ロックオン。いくぜ」

 小さく笑みを浮かべてから、あたしは二五ミリ機関砲を解き放た。

 車体を揺さぶる振動と発砲音、車がとにかく色々騒ぎ立てて、防音も兼ねたインカムもあまり役に立たなかった。

「よし、相変わらずいい腕してるな.。その調子でばかすか撃ちまくれ」

「いわれるまでもねぇよ。ばかすか撃ちまくってやる!!」

 あたしはインカムから聞こえる苦笑して、先頭を集中砲撃した。

 そして、急激に勢いをなくしたゴブリンの群れは、あたしの「のぞき窓」では追えない勢いで、いきなり方向転換した。

「よし、輸送トラックが無事に通過したぞ。生意気にも目標をこっちに変えたぜ。リズ、一五時の方向だ」

「甘いぜ!!」

 あたしは砲塔を旋回させ、パネルのキーを素早く叩いた。

 照準器に迫ってきたゴブリンを捉えると、惜しげもなくTOW対戦車ミサイルを二発ぶち込んだ。

「馬鹿野郎、一発いくらすると思ってやがる!!」

 即座にインカムに飛び込んできたロータスに笑い、さすがにビビったらしい ゴブリンが、慌てた様子で逃げ始めた。

「ロータス、追撃は?」

 静かなイリーナの声が、インカムに飛び込んできた。

「馬鹿野郎、するわけねぇだろ。それは、業務外だ。まあ、中指でもおっ立てておけ!!」

 あたしはロータスの声に笑い、本当に中指をおっ立てたのだった。


 ゴブリンの一団を押し返したあたしたちは、街道をひた走っていた。

 日が傾いて夕方が近くなったころ、そろそろ次の村かというところで、インカムにロータスの声が飛び込んできた。

「客の意向だぜ。できるだけ宿泊は控えて、先を急ぎてぇってよ。イリーナ、ここの村はパスしろ」

「了解」

 ロータスとイリーナの短いやりとりがインカムに響いた。

「んだよ、休憩かと思っていたぜ!!」

 あたしは苦笑して、画面の残弾数を確認した。

「いずれにしても、どっかの街で補給しねぇとダメだぜ!!」

「分かってる。こんなくそボロい村より、少しは都会の方がいいだろ。次の街で休憩だ!!」

 ロータスの笑い声がが聞こえた。

「ったく、そういうなって。大して変わらねぇ!!」

 車は村への分岐が見える地点に差し掛かった。

「……おっと、取り消しだ。村に行くぞ、休憩じゃねぇけどな!!」

「あー、またなんか事件だな。分かった」

 イリーナの声が聞こえ、車は村に向かって枝道に入った。

 しばらく進むと、そこここに黒煙が上がっているのが見えた。

「よーし、後ろの連中も退屈だろうからな。これは、オプショナルツアーだ!!」

「馬鹿野郎、誰がみても戦場だ!!」

 あたしは慌てて照準器モードの画面をみた。

 村の外周を覆う壁に邪魔されて見えないが、あまりにも数が多すぎて、ついにはアレと呼ぶようになった盗賊とおぼしき人影がチラチラ見えた。

「お見通しだぜ。双眼鏡なんていらねぇよ。村といったらこれだ!!」

「……なんで?」

「そこツッコミ入れない!!」

 ともあれ、車は速度を上げて村に向かって突っ走っていった。

 途中で装甲を何かが叩くカンカンという音を聞きながら、照準器モードの画面をみていると、頭より先に体が動いた。

  単発モードに設定した二五ミリが発砲音を上げ、照準器に点のように映っていた何かを、それが乗っていた家の屋根ごと吹き飛ばした。

「あれ、屋根までぶっ飛んじまったぞ。まあ、いいや!!」

「あんなくそボロい屋根なんてどうでもいいだろ。後ろの六人には声をかけた。やる気満々だぜ。こういうのが、一番許せんっとさ!!」

 ロータスが笑い声を上げ、車は村に突入した。

 手近な物陰に隠れると、それぞれがこの車を囲むようなポジションを取った。

「よし、問題ねぇな。とっとと潰しちまうぞ!!」

 ロータスの声に苦笑して、あたしたちの戦いは始まったのだった。

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