異世界の日常

NEO

第1話 依頼はたまに向こうから

 ……誰が呼んだか「初心者の街 」。

 雑多な種族や国、それどころかどっかの世界とさえも繋がっているらしい、やたら妙な場所がここだった。

 ごちゃごちゃといろいろ混ざった種族や人種の中に、ロータスとイリーナ、そしてあたしがいた。

「ったく、クソ重いんだよ!!」

 主砲の二五ミリ機関砲に砲弾をベルト状に繋いだものをセットしながら、あたしはため息を吐いた。

「そりゃ、お前の仕事だからな。徹甲弾だから、結構重いだろ!!」

 それを脇で見ていたロータスが笑った。

 ちなみに、口調はアレだがかなりの美人枠に入るはずだった。

 要するに、しゃべらなければいい。ただ、それだけの……

「うるせぇ!!」

 ロータスの拳があたしの頭にめり込んだ。

「……な、なんでわかった?」

 あたしが自分の頭を撫でると、ロータスは胸を張った。

「……お見通しなんだよ」

「な、なんで、その微妙な口調になるんだよ!?」

「いいじゃねぇか!!」

 ここは、いわば街に居着いてしまった者のベースキャンプ的なスペースだ。

 広々とした場所に、木を組み合わせて作った家のようなものが設けられてていて、目の前にはあたしたちの愛車である「M-2 ブラッドレー」とかいうゴツい車を駐めていた。

 詳しいことは分からないが、まあ、厳つい武装付きの鉄の箱という印象だった。

「おう、終わったか!!」

 正面の操縦手ハッチが開き、イリーナが顔を出した。

「今終わったぞ。ったく、毎度思うけどなんででこんな重いんだよ!!」

「そりゃ徹甲弾だからな。相手の装甲をぶち抜いてやろうってぶん殴る砲弾だから。重さと早さがポイントなんだよ。……いいだろ、そういうの」

 ロータスが恍惚とした顔で、あたしの肩に手を乗せた。

「……ああ、悪くねぇぜ。ぶっ壊すにはちょうどいい」

 あたしの頭に、ロータスのゲンコツがめり込んだ。

「……痛いぜ」

「お前にぶっ壊させると、ろくな事にならねぇからな!!」

 ロータスが小さく笑った。

「んだよ……本当だからいい返せねぇぜ!!」

 あたしは大きく息を吐いた。

「よし、シャワー浴びたらどっか行くぞ」

 エリーナが一つ笑って車体から飛び降りた。

「どっかってどこ行くんだよ。まさか、真面目に斡旋所にいくのか?」

 ロータスが笑った。

 斡旋所とは、この街に集まる人が、仕事を求めて集まる場所だ。

 本気で仕事を探しているか、暇つぶし程度に考えているかは、紹介してもらえる仕事の難度に大きく影響する。

 あたしたちは、もうここにきて年単位であるが、斡旋所のランクは最低のDだったりする。

 しかし、任務達成率が九十八%を超えているので、この街では手軽に頼めると好評ではあった。

「当たり前だろ、いつまでDランなんだよ。行ってくる!!」

 イリーナがスペースから駆け出ようとしたとき、その一団が現れた。

「すなまい。ここでいいのか、評判がいい運び屋というのは?」

 一団の中で代表してか、細身の兄ちゃんが声をかけてきた。

「ああ、評判がいいかは知らねぇが、運んでるのは事実だな!!」

 ロータスが笑って一団に近づいた。

「俺たち六名を、このフォースビルとかいう村まで運んで欲しい」

 その細身の兄ちゃんが地図を取り出し、ロータスと話はじめた。

「ロータスが話を聞き出したって事は、間違いなくこの仕事を受けるぞ。今のうちにシャワーを浴びにいこう!!」

「こ、こら、引っ張るな!!」

 やたら元気にイリーナがあたしの手を引っ張って、ボロ小屋に向かったのだった。


 この車は前方に運転する操縦手、主砲などを扱う砲手、全体を纏める車長がいる。

 後は色々使えるスペースだが、基本的には乗員という名のお客さんを乗せるスペースとして使っている。

 ロータスが一団と話はじめたところで、あたしは砲塔内にある狭い砲手席に座った。

「気に入ってはいるんだけど、この狭さがね」

 あたしが呟いたところで、エンジンが轟音を上げて始動した。

「よし、いくぜ。少し急いでるらしい」

 砲塔に滑り混んできたロータスがインカムをつけながらいった。

 あたしもインカムをつけ、小さく息を吐いた。

 ガタンと振動がきて、進み始めた車両は初心者の街から街道へとでた。

「おっ、いつものロマン野郎か。デカいからな。すれ違いがヒヤヒヤもんだぜ」

 照準器を覗き混んでいると、デカい車体をしたティーガーが三両、逆方向の初心者の街に向かってきていた。

 これとすれ違う時はなかなか大変だった。

 こっちは道の法面を駆け上がるように避け、向こうも限界まで法面に乗り上げてなんとかかわすという、なかなか迫力あふれる光景が展開された後、元通りに戻ったあたしたちの車両は、速度を上げながらひたすら走り始めたのだった。

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