第57話 自動販売機の客情報を把握する男

 私は、たこ焼きを食べていた…


 頑固オヤジのたこ焼き屋で、ビールを飲みながら…

 朝の暖かな空気の中、気持ちよかった。


 頑固オヤジが2皿目のたこ焼きを私の前に置いた。

 そして、「昔ながらのたこ焼きだ!」と言った。


 私は1個爪楊枝で刺して、口に入れる。ソースの香りが口から鼻に抜ける…

 すかさず、ビールを流し込む。私は幸せであった…

「やっぱり、ソースとビールは相性いいですね!」と私が言うと

 頑固オヤジは、「当たり前だ!」と言ってニッコリ微笑んだ。


 たこ焼き屋の横には、自動販売機が1台設置されているのであるが、そこに一人のおばあちゃんが買いに来た。

 おばあちゃんは、自動販売機の前で少し困った顔をした。


 すると、頑固オヤジが、おばあちゃんに声をかけた。

「おばあちゃん、ごめん!おばあちゃんがいつも買うやつ売り切れでしょう⁉」

 おばあちゃんは、頷いてから別の飲み物を買って帰って行った…

 頑固オヤジは、立ち去るおばあちゃんに向かって言った。

「ありがとうございます。また、よろしくお願いします。」


 私は、頑固オヤジに聞いた。

「自動販売機のお客さんの事も把握してるんですか?」

 頑固オヤジは、ニヤリとしてから、語り始めた。

「当たり前だ!この自動販売機は、俺が業者と契約しているんだ。一本売れたら、俺にいくらかのお金が入って来る。だから、自動販売機のお客も俺のお客なんだ!買ってくれたら俺はいつもありがとうございますって言うんだよ。そのお客の情報は、すべて把握している。ちなみに今のおばあちゃんは、いつもミルクティーを買ってくれる。毎週金曜日の朝に…」

 私が感心すると、頑固オヤジは更に続けた。

「昨日、売り切れに気付いたんで、業者に電話したんだが、今日中にしか来れないって言ってたから、今日はあのおばあちゃんが来るまでには、間に合わないだろうなぁ~と思っていたんだ。」


 私は、頑固オヤジの銭ゲバぶりにまたも感服した。

 自動販売機の客の情報もすべて把握し、一円もお金を取り損ねないよう行動する頑固オヤジは真の銭ゲバである…

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