第56話 薬局で仕入れするタコ焼き屋
私は、ポカポカ陽気の中、歩いていた…
空は、青空であったが、薄い雲も広がっており、日差しはそれ程強くはなかった。
歩くには、最高の気候であった…
私は、スーパーで休憩をした後、北に向かって歩いていたのであるが、やがて、道の左手に割と大きな公園が見えて来た。
その公園に入ってみると、庭園風の綺麗な公園であった。私は、公園を一周してみた。すると、公園の中に銅像が建っていた。
銅像には、「近松門左衛門像」と書いてあった。
敷地内には、「近松門左衛門記念館」なるものも建っていた。
私は、この公園を子供の頃から知っていた。
私が子供の頃のこの公園は、こんな庭園風の公園ではなかった。
その頃は、ただの原っぱのような感じで片隅には、どこの公園にもあるような遊具が少し設置されていたと思う。よくここで私は友達と野球をして遊んでいた記憶があった。
昔から変わらないのは、公園に隣接して「広済寺」というお寺があるのだが、そこに「近松門左衛門」のお墓があったということである。
私は、公園で昔の思い出に浸った後、その「近松公園」を後にした。
公園を出た私は、さらに北へ向かって歩いて大通りに出た。そして、少し北に行った所に郵便局があった。
私は、郵便局のATMでお金を少し引き出してから、郵便局の前の道を西に向かって歩いてみた。
少し行くと2階のベランダから鯉のぼりを上げている家が見えた。
私は、それを見て思った。
「鯉のぼりって、いつまで飾ってていいものなんだろう?」
雛人形は、ひな祭りが終わったらすぐに片付けないとダメだっていうのは、よく聞くけど、鯉のぼりは聞いたことがない。
そんなことを考えながら、私はその家の前に置かれているベンチに座った。
すると、私の後ろから声がした。
「おう!お前今日も来たか⁉すぐに開けてやるから待ってろ!」
私は、ビックリして振り返るとそこには頑固オヤジがいた。
よく見ると、そこはたこ焼き屋だった。鯉のぼりは、頑固オヤジの家の2階に飾られていたのだ…
すぐに頑固オヤジは、店を開けると私にカウンター席に座るよう命じた。
私が、カウンター席に座ると頑固オヤジは言った。
「金出せ!」
私は、財布から千円札を出すと頑固オヤジに渡した。
頑固オヤジは、ニヤリとしながら言った。
「今日は結構暑いよな!喉乾いただろう?」
私は、「はっ、はい…」と答えるしかなかった…
頑固オヤジは、店の冷蔵庫から缶ビールを2本取り出すと
「一番搾りだ!飲め!俺も一本貰うぞ!」と言った。
私は、頷くしかなかった…そして、私達は乾杯した。
一気にビールを流し込むと最高の喉越しであった。
私は、「旨い!」と思わず叫んだ!
頑固オヤジも「朝のビールは最高だな!」と満面の笑みで言った。
それから、私は頑固オヤジに話しかけた。
「2階の鯉のぼり、まだ飾ってるんですね?」
頑固オヤジは、
「悪いか?なんか文句あるのか?」とけんか腰に言い始めた。
「いいえ…そんなことはないんですが、鯉のぼりっていつまで飾ってていいのかな?って思って…」と脅えながら私は言った。
すると、頑固オヤジは、ニヤッとしてウンチクを語り始めた…
「雛人形は、ひな祭りが終わるとすぐに片付けないと女の子が行き遅れるって言うだろう?でも、鯉のぼりはそういうのがなくって、出す時期は3月下旬から4月上旬が一般的なんだ!片付ける時期は、5月中旬から6月上旬まででよくって、結構時期の幅があるんだよ!わかったか!!」
私は、「ありがとうございます。」と礼を言った。
説明が終わると、頑固オヤジは「今日も雪塩からだ!」と言って私の前にたこ焼きののった皿を置いた。
私が雪塩たこ焼きと一番搾りを楽しんでいると頑固オヤジが言った。
「ちょっと電話するから、お前静かにしてろよ!」
私が、「はい!」と返事すると同時に頑固オヤジは、どこかに電話をかけた…
相手が出ると頑固オヤジは、話し始めた。
「くろ潮まるだけど、例の物はあるか?」
「例の物だよ!わからないのか!一番搾りだよ!」
「お前のとこ、いっつもバラしてるだろ!困るんだよ!」
「こっちはバラじゃなく、箱でいるんだよ!」
「在庫確認しろよ!」
「何、4箱しかないのか⁉」
「今日か明日行くから!」
「えっ、何箱いるかって?」
「1箱でいいんだよ!ちゃんと用意しとけよ!」
「あっ、それからハイボールも一緒に用意しとけ!」
頑固オヤジは、そう言うと電話を切った。
どうやら、酒屋に電話していたみたいである…
そして、私は聞いてみた。
「酒屋さん、店に届けてくれないんですか?」
頑固オヤジは、言った。
「なんで酒屋が出て来るんだよ!」
「だって、今電話してたじゃないですか?」と私は返した。
すると、頑固オヤジは言った。
「今電話してたのは、薬局だよ!」
「えっ、薬局でお酒仕入れてるんですか?」私は、ちょっとビックリして聞き返した。
「そうだよ!なんか文句あるか!」
私は、心の中で呟いた。「薬局でお酒を仕入れる飲食店…さすが銭ゲバだ…」
1円でも安く仕入れようとする頑固オヤジの貪欲さに私は、感服したのであった…
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