第51話 少しポッチャリした店員がいるステーキ店
午前の打合せが終わり、私は市役所に向かっていた…
だが、携帯の時計を見ると11時27分であった。今から、市役所に行くと途中で昼休みに入ってしまう。
そこで私は、先にランチを食べる事にした。国道を車に乗って走っていると、左手にドンキホーテが見えた。その一階部分に飲食店が入っている。
私は、「ここで食べるか…」と呟いて、ドンキホーテの立体駐車場に入った。
入口に料金表があり、そこに
「30分無料、1円以上当施設内の店舗でお買い上げのお客様1時間無料」と書かれてあった。
私は、駐車券を胸のポケットに入れて、エスカレーターで1階に降りて行った。
1階にあるラーメン屋がまず目に入った。ガラス越しに店内の様子が伺えた。まだ、時間が早い所為か店内は結構ガラガラであった。
私は、その前を素通りして、その向こうの店の前に立った。
その店とは、「いきなりステーキ」である。
最近、人気のステーキチェーン店である。
そのチェーン店の噂は聞いていたが、私はまだ一度も行ったことが無かったのである。
だから、先程、車からこの店の看板を見た時から決めていたのだ。
国道側の扉から私は、入ろうとしたが、そこには出口専用と書いてあった。
案内を見ると、入口はビルの中側にあるらしかった。
私は、ビルの中側の入口に向かった。
すると店の前には、4人並んで座っていた。「まだ、昼前というのにもう満員なんだ…」私は、心の中で呟いた。
一瞬、やっぱりラーメン屋にしようかなと頭を過ったが、時間もあるので待つ事にした。
そして、列に並んで待合用の椅子に座った…
しばらくすると、30代の割と長身の女性店員が列の先頭の人に案内した。
「お客様2名様、お待たせしました。席にご案内させて頂きます。」
私は、少し疑問に思った。
「何故あの店員は、あの客が2人組だとわかったのだろう?何処かに名前と人数を書く紙が置いてあるのかな?でも、名前は呼ばなかったな?」
私がそんな事を考えていると、また店員が出て来て次の客に言った。
「お客様2名様、お待たせしました。ご案内させて頂きます。」
私は、人数を書く紙がないか、あたりを見回した。だが、どこにも見当たらなかった…
すると、店員が出て来た。
その時、先頭だった私は、案内されると思い座っていた椅子から立ち上がった。
店員は、私に言った。
「お客様は、何名様ですか?」
私は、「1人…」と答えた。
店員は、それをメモした。
そして、私の後ろに並んでいる人にも人数を聞いた。
店員は、「少々お待ちください。」と言って店内に戻って行った。
私は、「そういうことか…」と呟いて、椅子にまた座った…
少しして、長身の女性店員が現れ、
「ご案内します。」と私に言った。
私は、その女性店員に案内され、店内に入った。
店内は、全席テーブル席で大きなテーブルから1人用の小さなテーブルまで、かなりの種類のテーブルがあった。
私は、店の中央付近にある1人用のテーブル席に案内された。
1人用のテーブルとは、テーブルを挟んで2人が座れるようになっているが、テーブルの中央に固定式の仕切りが設置されている席のことである。
女性店員は、私が席に着くと水の入ったコップをテーブルに置いた。
そして、「ご注文は、お決まりでしょうか?」と聞いて来た。
私は、「ワイルドステーキお願いします。」と言った。
店員は、「肉の量は、如何いたしましょう?」と聞いて来た。
私は、少し迷ったが、「300gで…」と言った。
私は、いつも肉は200gで充分なのであるが、メニューに書いてある値段を見て、200gと300gが260円しか変わらなかったので、300gを注文してしまったのである…
女性店員は、さらに質問を続けた。
「ライスの量は、どうなさいますか?」
私は、「普通で。」と答える。
さらに店員は聞く。
「肉の付け合わせの野菜ですが、通常はコーンなのですが、ブロッコリーやいんげんなどに変更出来ますが?」
私は、「普通でいい…」と答える。
長身の女性店員は、注文を繰り返すと去って言った。
私は、テーブルの上に紙エプロンが置かれているのに気が付いた。
あたりを見回すと、殆どのお客は、その紙エプロンを着けていた。
私も早速、紙エプロンを着けた。そして思った。
「こんなエプロンを着けないとダメなぐらい油が飛び散るのかな…どんなステーキなんだろう…」
私の期待が膨らんだ…
すぐに、先程の長身女性店員が、スープとサラダを持って来た。
私は、それらを先に食べて待つ事にした。
まず、スープを一口飲む。
コンソメスープだが、具に牛肉の欠片が入っていた。その肉の旨みがコンソメスープと混ざり合って実に美味かった。
テーブルにはドレッシングが何種類か置いてあった。その中から私は、いきなりドレッシングと書いてあるものを取りサラダにかけて食べた。ドレッシングは、オニオンドレッシングだった…まぁ、普通に美味しかった。
サラダを食べ終わった頃、長身の女性店員が、鉄板にのったザク切りのステーキとライスを持って来てテーブルに並べた。
そして、私に聞いた。
「当店のステーキの食べ方は、ご存知でしょうか?」
私は、「知らない。」と答えた。
女性店員は、説明を始めた。
「このステーキは、現在表面だけが焼けている状態ですので、鉄板が熱いうちに肉を転がしながら焼いて、ご自分のお好きな焼き具合になったところでこのポットのステーキソースをかけて、鉄板の温度を下げて、お召し上がり下さい。」
私は、早速言われた通り、転がしながら焼こうと思い、テーブルに置いてある箸立ての箸を取ろうと思った。しかし、そのテーブルには、箸立てが無かった。あるのは、フォーク立てとナイフ立てだけであった。
肉を転がしながら、焼くには、やっぱり箸の方が私には便利であった。
他のテーブルを見渡すとすべてのテーブルに、箸立てがあった。
仕方ないので、私は隣のテーブル席に座っていた20代後半と思われる女性に話しかけた。
「すみません。こっちのテーブルに箸立てが無かったので、そちらの箸立ての箸を頂いてもいいですか?」
彼女は、少しキョトンとした顔で「はい。」と言った。
私は、「ありがとう!」と言って彼女のテーブルの箸立てから箸を一膳取った。
すると、その光景を遠くから見ていたのだろう…少しポッチャリした女性店員が、飛んで来て、
「箸ですよね…申し訳ありませんでした。」と謝った。
私は、「大丈夫!」と言って返した。
それから、私はザク切りの肉を転がしながら焼き、ミディアムぐらいに焼けたところでポットのステーキソースをかけた。
まだ熱い鉄板は、ステーキソースをかけるとジューーーっと言ってステーキソースを飛び散らした後、大人しくなった。
「これか〜!」私は呟きながら、紙エプロンがいる理由に納得した…
私は、焼けた肉を一切れ口の中に入れた。肉は、結構歯応えがあった。だが、別に硬いわけではなく、むしろ柔らかいけど歯応えもあるという感じであった。噛めば噛むほど旨みが口の中に広がった。
「私は、旨い!」と思った。
次にやや小さめの肉を口に入れ、すかさずライスを口に入れた…肉とステーキソースと白ご飯の旨みが混ざり合い口の中でハーモニーを奏でた…
私は、一気に食べ勧めたが、やはり肉300gは私には多過ぎたのかもしれない…途中でお腹が苦しくなって来た。それとステーキソースが一種類なので、味にも飽きて来た。
私は、水を飲んで口の中をリセットしようと思った。しかし、私のコップには、氷しか入っていなかった。
私は、店員を呼んだ。先程の少しポッチャリした女性店員がすぐに飛んで来た。
私は、店員にコップを渡し、水のおかわりを頼んだ。
店員は、コップを受け取りながら、「かしこまりました。」と言うと私のすぐ斜め後ろの水ボトルが置いてあるコーナーに行き、水を入れて私に手渡した。
私は、その女性店員に言った。
「なんだそこにあったんだ⁉︎自分で入れたらよかったね…」
店員は、首を横に振りながら、
「いえいえ、私どもが入れさせて頂きます。」と言ってニッコリ笑った。
私は、その笑顔がとても綺麗に思えた…
水を飲むと口の中がリセットされ、結局私は完食した。その代わり、私のお腹ははち切れる寸前であった。
食べ終わって、私が紙エプロンを外していると、50代の男性店員が私のコップに水を入れた。
私は、その水を一気に飲み干すと伝票を持ってレジに向かった。
そして、会計を済ませ出口から外に出た。
外に出た私は、携帯の時計を見た。ドンキホーテの駐車場に入って約50分が経過していた。
私は、すぐにハッとした…レジで駐車券を出すのを忘れていたのだ。
私は、もう一度店の入口に回り、店員を呼んだ。店員にレシートと駐車券を渡し、事情を説明した。
その女性店員は、すぐにレジに飛んで行き戻って来た。
そして、満面の笑みで駐車券を私に渡し、「ありがとうございました。」と言った。
私は、「こちらこそありがとう!」と呟いた。
その女性店員は、少しポッチャリしていた…
そして、笑顔が魅力的であった…
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