第50話 タネの恩返し

 私はその日、今日こそノンアルビールのブラックボールを試そうと意気込んでいた…


 定時で仕事が終わると事務所を出た。

 そして、妻に携帯で電話した。

「今日は、何?」私は、今日の夕食のメニューを聞いた。

「豚肉とニンニクの芽の炒め物とお刺身の盛り合わせ」妻が言った。

 私は、「え~っ」と思わず言ってしまった。

 妻は、「気に入らないの?」とちょっと怒ったような声で言った。

「昨日飲めなかったノンアルのブラックボール試そうと思ってたから…」と私は言った。

「飲めばいいんじゃない?ノンアルビール買って来たよ。」妻が言う。

「さすがに刺身の盛り合わせと一緒にノンアルのブラックボールで飲もうとは思わないよ…」と私が説明した。

 さらに私は確認した。

「普通のビールは、あるよな?」

「あるよ。」と妻が答えたので私は電話を切った。


 私は駅に行きながら、仕事中に来た気持ち悪いメールの事を思い出した。

 そのメールは、私が事務所で仕事をしている時に突然やって来た。

「お疲れ様です。今家帰ってところですか?」

「失礼しました。帰って最中ですか?」

 私は、なんだこのメールは、2回送って来て、2回とも「帰って」の後に「る」という文字をなんで入れないんだ!と突っ込みたくなったが、面倒なので止めてメールを返信した。

「君とは違うので仕事中!」

 すると、

「すみません失礼しました。」と送って来た。

 メールの送り主は、種市教授であった…


 家に帰った私は、着替えてからリビングに行き、夕食の並んだテーブルの前に座った。

 そして、普通のビールを飲みながら、まずサーモンの刺身を食べた。

「旨い!」サーモンのとろけるような食感と甘みが何とも言えず旨かった。

「やっぱり、刺身には普通のビールだな!」と声に出さずに心の中で言った。


 夕食を楽しんでいると突然インターホンが鳴った。

 モニターに向かって立ち上がった妻に私は言った。

「もし、俺の客だったら、いないって言ってくれ!」


 妻は、モニターで応対したが、首を傾げた…

 私は聞いた。「誰?」

 妻は、言った。

「モニョモニョ言ってるんでわからない…」

 私は、玄関に向かう妻にもう一度念押しした。

「いないって言ってくれ!」


 妻は、少しして戻って来た。ビールの6本パックを持って…


 私は、最初からこうなることは、わかっていたメールが来た時から…


 少しして、種市教授からメールが来た。

「いつもお世話になっているので、少しですが飲んで下さい。」と…

 私は、返信した。

「こんなことしても私は嬉しくない。それよりも君が計画的にお金を使えるようになってくれた方が嬉しい。」


 その日、彼は3日に一回のお金の支給日だったのだろう。もらった日に必ず殆どのお金を使う癖を治さないと「そのうち身体壊すぞ!」と言ってあげたい…


「種市、鶴の恩返しは、もっとまともな人間になってからにしろ!」

「とりあえず、晩御飯を一日三回食べるのやめろ!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る