第49話 卓球コーナーの主
朝一で私と娘は、近所のゲームセンターに向かっていた…
ゴールデンウィークのある日の朝のことである。
私は昨夜、娘に頼まれて3年ぶりで卓球の練習相手をすることになったのである。
ゲームセンターの受付で私達は1時間分の料金を払い、卓球コーナーの奥の卓球台に向かった。
早朝というのに、既に台は半分ほど埋まっていた。私達の一つ台を挟んだ向こう側では、家族連れが卓球をレジャーとして楽しんでいた。
私達は、以前のようにフォア打ちから始めた。
私は、3年ぶりだったので最初は、ラリーの感覚がなかった。だから、ラリーがなかなか続かなかったが、だんだん感覚が蘇り少しはマシになって行った。
フォア打ちの次は、バックのラリーを行い、その後は娘がフォアドライブを行い、私はバックのブロックをした。娘は、3ヶ月ほど卓球から離れていたので、なかなか感覚が戻らないようであった。
そのうち、私達は、私が球出しをして多球練習をすることとなった。
その卓球コーナーには、何故か多球練習をする時用のボール入れがあった。
普通、こんなゲームセンターの卓球コーナーには、そんな物はないのであるが、あったのである…
私達は、ちょうどいいと思い、それを使って多球練習をし始めた。
しばらくして、娘はトイレに行くと言って、卓球コーナーから出て行った。
私は、娘が帰って来るまで待っていたが、私達と家族連れの間の台におじいさんとおばあさんの2人がやって来た。2人は卓球のユニフォームを着ていた。
横の台に2人が来て、すぐにおじいさんが私の所に来て言った。
「その球入れ返してくれる?」
私は、何を言っているのか理解出来なかったので、ポカンとしているとおじいさんは、さらに続けた。
「その球入れ、私の私物だから…」
私は、エッと思って「すみません。」と言って球入れをおじいさんに渡した。
その後、おじいさんは、卓球コーナーのボックスの一角の扉のついたボックスを開け、私物の道具をいろいろ取り出した。
そして、台の後ろのボックスにブルーシートで張り始めた。そのボックスは、私達も使っていて私達の荷物を入れていたのだが、構わず張って行った。
それから、私達が使っている台の下にも網を張り始めた。
完全にこのゲームセンターの卓球コーナーは、彼の私物化していた…
娘が帰って来て私達は、練習を続けたが、台が埋まったので私達は、一球練習に切り替えた。
すると、隣の2人は何の遠慮もなく、娘の練習を見ていた…
私達は、時間が来て練習を終えたが、多分あの2人は満員の卓球コーナーで、何も気にせず多球練習をしたのだろう…
私は思った。彼らは、この卓球コーナーの主なのだろうと…
ゲームセンターを後にした私は、「卓球コーナーの主、恐るべし…」と呟いた。
私は、自動販売機でペットボトルの水を買った。
そして、私はゴクゴク音をたてながら、水を飲んだ。
その水が、やけに旨かった…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます