第47話 小説に挑戦する不可能を可能にするかもしれない男
私は、いつもカリスマ美容師のいる美容室で散髪している…
そこに行く度に私は、毎回違う企画で取材し、それをSNSに投稿していた。もう2年程その取材及び投稿は、続いていた。
3月末にその美容室に予約を入れていたが、その時もある企画を秘めて散髪に臨んだのである…
その企画とは、私もカリスマ美容師も散髪中、一切喋らないというものである。
もちろん、その事はカリスマ美容師には事前に一切告げずに実行するのだ。
その日、私が予約時間に美容室に行くと、カリスマ美容師と店前で対面した。
カリスマ美容師が、
「いらっし…」と言いかけたところで、私は手で合図して制止させた。
そして、一切喋べるなという事をゼスチャーで告げた。
それから、私達は散髪して店を出るまで約1時間お互いに何も喋らず過ごした。何も語らず何も聞かず、時々アイコンタクトするだけであった…
私は、その事をSNSで小説風に書いて投稿した。それが楽しくて、その後私はいくつかの出来事を小説風に書いて投稿した。
4月の中旬頃、私は本当に小説を書いてみたくなり、ある小説投稿サイトに登録した。
そして、私はそのサイトのお知らせ欄にあった小説コンテストの応募に目が止まった。
そのコンテストの応募の受付は、2月1日から始まっていて、5月10日締め切りであった。
応募要項を読むとジャンルの規定はなく、形式も特に規定はなく長編小説でも短編集でもよかった。
ただ、文字数の規定はあった。6万字以上16万字以内であった。
締め切りまで、あと1カ月を切っていた。だが、6万字ならゴールデンウィークもあるし、頑張れば何とかなると思い、私はそのコンテストに応募する事にした…
私は、ノンフィクション小説の短編集で応募する事にして応募登録した。
そのコンテストの大賞の賞金は、200万円で小説も出版されるみたいであった。
私は、そんな事はどうでもよかった。
ただ、何かに挑戦してみたかったのである…
まず、私はSNSに投稿したいくつかの小説風の投稿を少し手直しして、小説サイトに入力した。その時点で約7000文字であった。
それから、私は毎日のように日々の出来事を短編小説として、小説サイトに書いていった。
それをコピーして、写真をつけてSNSにも投稿した。
6万字に向けて、順調だった…いや、順調に見えていた。あの事に気付くまでは…
4月の下旬、ゴールデンウィークが近づいたある日の事、私は小説サイトに載っていた小説コンテストの応募要項を何となく開いて、再度読み返した。
そして、ある事実を知ることとなったのである…そこに書いてある規定の文字数のところである。
そこには、規定文字数10万字から16万字と書かれてあった…私は、愕然とした…まさかの見間違いをしていたのである。その時点で3万字弱ほどしか書けていなかった。あと2週間ぐらいしか日にちが無かった。あと7万字は、かなり絶望的な数字であった…
絶望感に襲われたが、私は諦めず書けるところまでは書こうと気持ちを切り替えた…
それから、私は取材と執筆活動に明け暮れる日々であった。
それでも、ゴールデンウィークの前半にたこ焼き屋で私は、頑固オヤジに弱音を吐いた…
「もう10日しかないのに、半分も書けていない…」
頑固オヤジは、言った。
「お前は、不可能を可能に出来る男だ!諦めるな!」
そして、その日、家でも娘に同じように弱音を吐いた。
すると娘は、言った。
「お父さんは、不可能を可能に出来る人だ!諦めるな!」
娘と頑固オヤジは、示し合わせたかのように同じ台詞で励ましてくれた。
大型連休が終わり、出勤初日の夕方に小説コンテストの事務局からメールが来た…
「小説コンテストにご参加頂き誠にありがとうございます。
応募締切は5月10日(金)23:59です。
このコンテストでは、応募受付期間終了時点までに本文が10万字以上16万字以下であることが応募要項に示されております。
応募作の文字数が規定に達していなかった場合の扱いに関してですが、今回は約1万字程度の未達・超過につきましては許容させて頂きます。」と書かれてあった。
つまり9万字程度なら大丈夫ということである。
あと3日ちょっとでの1万字はデカい!
その時点での文字数は、6万5千字程であった…
私は、「本当に不可能を可能に出来るかもしれない!」と心で叫んだ!
その日、コンビニで缶コーヒーを買った私の家への足取りは軽かった…
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