第46話 妻が泣く時…

 私は、事務所に戻る車の中でラジオを聴いていた…


 ラジオのDJが語っていた。

「最近、コーヒーといろんなアルコールを混ぜて飲むっていうブラックボールというのが流行っているらしいですね。沖縄では、前から泡盛のコーヒー割りというのがあるみたいですが…」

 私は、そんなのがあるんだと興味を惹かれた。

 DJは、続けた。

「コーヒーとビールを混ぜたら、黒ビールみたいになって美味しいらしいですよ。焼酎も意外に合うらしいですね。皆さんもやってみては、如何でしょう。コーヒーは、UCCのブラック無糖を是非お使い下さい。」

 どうも、コーヒー会社のCMを兼ねたトークだったみたいである。


 だが、私は閃いた…

 別にブラックボールを飲みたかった訳ではない。

 私は、ここ数年時々身体の事を考えて休肝日を設けている。休肝日の時は、大体ノンアルビールを飲むのであるが、少し不満があった。

 ノンアルビールは、最近味が普通のビールに近づいて来ているのであるが、後味がどうも馴染めない。

 そこで先程ラジオのDJが言っていたブラックボールのようにコーヒーとノンアルビールを混ぜれば、後味の問題が解決されるのではないかと思ったのである。

 今日も休肝日にしようと思っていたので、試すにはちょうど良かった。


 私は、仕事が終わってから、事務所を出て妻に電話した。

「これから家に帰るけど、家に缶コーヒーあったかな?」私は、念の為に聞いた。

 妻は、「ないよ。」と返した。

 その答えは、予想していた。何故なら、私の家ではコーヒーを飲む習慣がないからだ。

 そして、私は帰りに缶コーヒーを買う事を決意した。私はコーヒーを買うことがないので、決心しないと買えないのだ…


 電車に乗り、最寄りの駅で改札を出た私は、駅構内にあるコンビニで缶コーヒーを買った。コンビニのプリペイドカードで支払ったが、精算する時の「ピッ」という音がやけに気持ちよく聞こえた…


 家に帰り、私はコーヒーを冷蔵庫に入れてから着替えた。

 リビングのテーブルに夕食が並んでから、私はコーヒーとノンアルビールを冷蔵庫に取りに行った。

 まず、先程入れた缶コーヒーを取り、ノンアルビールを取ろうとした…

 だが、冷蔵庫をいくら探してもノンアルビールは見つからなかった…


 私は、コーヒーの事は電話で確認したのにノンアルビールの事は何で確認しなかったのだろう?

 どうして、ノンアルビールの在庫の本数を認識してなかったんだろう?

 と考えているうちに自分に凄く腹が立った…


 そして、

「何でノンアルビールが無いんだよ!何で確認しないんだよ!」と大声で冷蔵庫に向かって叫んだ!


 すると後ろで妻が目に涙を溜めてヒステリックに叫んだ!

「悪かったわよ!買って来ればいいんでしょ!」


 私は、一瞬何の事かわからなかった…

 そして、聞いた。

「何でお前が泣いてるの?」

 妻は、涙目で「エッ!」と言った。


 どうやら、妻は自分が怒られていると思ったみたいである…


 私は、心の中で呟いた。

「そんなことでお前を怒鳴る勇気は、俺には無いよ…」


 その後、私は夕食と共にアルコールの入ったビールで作ったブラックボールを楽しんだのであった…


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