第40話 その男の名は、……。
私は、スーパーで買った惣菜で家呑みしていた…
撮り貯めたドラマを観ながら、朝昼兼用の食事代わりの家呑みである。
私は、こういう時間の過ごし方も結構好きだった。
ドラマを何本か観た後、私の脳裏にある男の顔が浮かんだ…
その男は、兄に生活費をコントロールされている。その男が仕事で得た金は、兄が管理している。3日に一回のペースで兄から生活費が支給されるのだ。
昨日がその男の生活費の支給日だった事を私は知っていた。
そして、昨日その男はあるツーリングツアーに私と一緒に参加したのであるが、そのツアーで彼は約2500円を使う事となったのである…
この金額は、その男にとって2日分の生活費であった。ツアーがお開きになる時に私は、その男の財布を確認した。その財布には、ほとんどお金が入ってなかったのだ。
私は、家呑みしている途中に急にその男の事が心配になり、メールを送った。
「次の生活費の支給日まで生きるお金は、あるのか?」
しばらくして、その男から返信があった。
「お金は、あまりありませんが、食料はありますので、大丈夫です。」
私は、またメールを送った。
「ビール無いと困るだろう?ビール買ってやるから関西スーパーに来いよ。」
私は、酒好きのその男のことが、少し不憫に思えたのだ…
その男から、また返信が来た。
「昨日も出して貰っているので、お気持ちだけで充分です。」
痩せ我慢するその男に私は少し腹が立って来た。
「いいから、すぐ来い💢」と私はメールを送る。
「何時ごろですか?」とその男から返信。
「今すぐ来い💢」
「わかりました。」
その男は、やっと来る気になったみたいである。
私が家から出ると外は、ポカポカとした春の陽気であった。気持ちがいい天気なので、私は歩いてスーパーに向かった。
私がスーパーに着くとその男は、入口前で待っていた。
「あ、あ、ありがとうございます。ど、ど、どうもすみません…」と吃りながら言った。
私は、無言でスーパーの入口に置いてある買い物カゴを指差した。
「あっ、はい。」と言ってその男は、カゴを一つ取った。
そして、私達はビール売場に向かった。
ビール売場に着くとまず私は、「麦とホップ」350mlの6缶パックを指差した。その男は、そのパックを一つカゴに入れた。
それから、私は「キリン一番搾り」350mlを1本取りその男に渡した。
その後、チューハイ売場で350mlのチューハイ2本と500mlのチューハイ1本を私が指差し、その男がカゴに入れた。
私達は、レジに向かい精算した。金額は、1232円だった。レジ係のおばちゃん店員は、何のお知らせもしてくれなかったが、私は迷わずサービスコーナー前に設置されている抽選コーナーに行った。
そして、レシートを係の女性店員に渡した。女性店員は、レシートに判子を押すと言った。
「箱の中のくじを1枚お引きください。」
私は、壁に貼ってある賞品リストを確認した。
一等から四等まですべて賞品はそのスーパーのお買い物券であった。
「まぁ、その方が現実的でいいのかな⁉︎」と私は心で呟いた。
私は箱から三角くじを1枚取り、女性店員に渡した。結果はハズレだった。
私は、小袋のぼんち揚を取り、その男に渡した。
私達は、スーパーを出て近くの公園に移動した。
公園のベンチに座り、私は「キリン一番搾り」の栓を開けた。
そして、その男に缶チューハイを勧めた。その男も栓を開け、私達は乾杯した。
私は、言った。
「これから、事情聴取する。」
その男は、エッという顔をしたが、私は構わず続けた。
「次の生活費の支給日はいつなんだ?」
「火曜日です。」とその男は答えた。
「何で火曜日なんだよ!金曜日にもらったから、次は月曜日じゃないのか?」
「兄貴の都合で今回は火曜日なんです。」
「じゃ、その分金曜日に多くお金貰ったのか?」
「はい、そうです。」
「昨日、帰る時財布見たけど、お金殆ど無かったよな?」
「財布の中は、40円ぐらいだったと思います。」
「そんなんで火曜日まで大丈夫なのか?」
「食料は、先に買ったんで大丈夫です。」
「お金、40円しかないのか?」
「いえ、1200円ぐらいあります。」
「何でだよ!」
「家に置いて行ったんで…」
この男も少しは考える頭があるんだと私は少し驚いた…
そして、質問を続けた。
「食料何買ったんだよ!どうせインスタントラーメンは、買ってるんだろう?」
「はい、インスタントラーメンと玉子とパックのご飯を買いました。」
「やっぱり…これから、ずっとインスタントラーメンを食べ続けるのか?」
「だいたいそんな感じです。」
住宅街の中にある静かな公園のベンチで飲むビールは美味かった。ポカポカ陽気の中、時々吹くそよ風も気持ちよかった。
私は、2本目にチューハイを開けた。その男もロング缶のチューハイを開けた。
その時である…公園に国際色豊かな数組の親子連れがやって来た。
私は、その男に聞いた。
「あそこの黒人のお母さんを食べたいと思ってる?」
「あの人は、あんまり食べたくないです。」
「だって、普通の人の3倍ぐらい肉があるから食べ応えあるんじゃないの?」
「ちょっと苦手ですね…」
「じゃ、あっちのブラジル人っぽい、へそ出してる人はどう?」と聞くと…
その男は、ニヤリと笑った。
私は、その笑顔を見てゾッとした…
私は、話を変えて、
「実写版のスタンプを作ろう!」と言って立ち上がった。
そして、スタンプを真似ていくつかのポーズで写真を撮った。
「パンチ!」「キック!」「チョップ!」などである…
撮影が終わると私は、「じゃ、もう帰るわ!」と言った。
その男は、「ありがとうございました。」と礼を言った。
私達は、それぞれ違う方向に帰って行ったが、私が振り返ると、その男は先程のへそ出しの女性を鋭い目をして見ながら歩いていた。
私は思った。
その男は、きっとあのへそ出し女性を人間狩りすると…
その男の名は、種市教授。
人間狩りをして人肉を食べると噂されている男である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます